…ねぇ、陸遜。
 今は戦もなくて平穏な毎日だけど、こんな時代だから 「いつまでも」 …ってワケないじゃない?
 だから、さ
 約束して。
 戦が終わっても、こんな風に――










 夕暮れの飲茶を…君と。










 キン、と遠くで金属がぶつかり合う音がする夕暮れの訓練時――

 ここ医務室では修練場で負傷した兵士達の手当てをする2人の軍医が居た。



 「いって〜よ!もっと優しくしてくれよ、軍医さん!」
 「…嫌なら血まみれのまま帰っても私は構わんが?」
 「くっ…酷ぇなぁ」

 こんなやり取りを交わすのは孫呉を代表する武将である甘寧と、軍を陰で支える最高軍医の深怜。
 いつものように繰り返すこの光景を周りの面々は少々複雑な思いで見ている。
 そして――
 「そんな事を言ったら軍医としてよくないんじゃないの?父上。甘寧も子供じゃないんだからもう少し静かにしてね」
 と隣から諭す人物も毎回同じだ。深怜の娘で同じ軍医の。父に倣って医学を志し、今では戦場の最前線に赴くまでの腕前になっている。

 「うむ…しかしな、。こやつはこうでも言わんと傷が絶えなくてな」
 「なっ…何が言いてぇんだよ!…ったた」
 「ほら、言わんこっちゃない。父上を怒らせたらもっと痛いことになるわよ?甘寧殿♪」
 「本当に酷ぇよ…父娘揃って鬼みてぇだ」
 「…何ですって?」
 「いや、待て、…うわぁ〜〜〜悪かったよぉ!」

 軍医父娘二人の波状攻撃に屈する甘寧に周りの兵士達も堪えられず、その場が次第に笑いに包まれていった。



 が軍医として働くようになってから、ここは半分『憩いの場』にもなっている。
 それはの人となりが成せる業で…おかげで用もないのに来る者たちも多く、ここの責任者である深怜の悩みの種になっているのだが、そんな『日常茶飯事』を少し離れたところで見ている人物がいた。

 彼は呉軍の名立たる軍師、陸遜。





 殿…貴女はいつもたくさんの人に囲まれていますね。
 …私はその中の特別な存在になれるでしょうか?





 むさ苦しいばかりの男の中で一人柔らかな笑顔を浮かべる
 陸遜がその姿に視線を投げ続けていると――

 「あら、陸遜。…どうしたの?そんなところで」

 振り返った本人から声をかけられた。
 陸遜は、突然の声に一瞬肩を震わせたが、
 「あ、いえ…何でもないんですけれど――」

 そちらに行ってもよろしいですか?

 少々はにかんだように俯きながら遠慮がちに言った。





 「差し入れに、と思って月餅を持って来たんです」
 お疲れ様です、と言いながら差し出された箱。その中には女官達がさっき作ったばかりの温かい月餅が詰まっていた。
 「うわぁ〜ありがとう!ちょうど甘いものが欲しいなって思ってたところなのよ〜」
 と早速月餅を取ろうとするを陸遜が不意にそっぽを向き、制した。
 「駄目ですよ。ちゃんと手を洗ってからでないと」
 「ちぇ〜…わかったわ。軍師様の仰せのままに♪」
 ちょっとふざけた調子でお辞儀をし、手を洗いに向かうを陸遜は何とも言えない優しい表情で見送る。





 …貴女は本当に可愛い方ですね。











 先ほどの騒々しさとは打って変わって人の姿が見られなくなった医務室の片隅に卓を置き、持ってきた月餅を皿に乗せ替えていると――

 「お茶、入ったわよ。陸遜」

 が急須と茶碗を乗せた盆を持ってきた。
 「ありがとうございます。すみません…お仕事でお疲れですのに」
 「皆まで言わない。好きでやってることだし、陸遜だって同じでしょ?」
 熱いお茶が入った茶碗を陸遜に渡しながらが笑う。
 が、陸遜は「それはそうですけど…いまいち納得がいきません」と少しむくれた。
 はその表情に目を細めながら陸遜の隣に座ると
 「もう…そう気を遣いすぎてるとお茶、冷めちゃうわよ?」
 徐に茶碗を手に取り、ふぅふぅと息を吹きかけて中の茶を飲んだ。
 そして、先ほど陸遜が持ってきた月餅を口に運ぶと、「やっぱり買ったものとは一味違うわよね〜」と満面の笑みを浮かべた。
 が手放しに喜ぶ姿を見ると、陸遜もようやく納得したように茶碗の中身を喉に流し込み、柔らかく微笑んだ。

 「美味しいですね」





 夕食前。医務室での一時――

 何時から二人で過ごすようになったのだろうか。
 殺風景な中にもほっとした空間。何時の間にか二人ともこの時間が一番のお気に入りになっていた。



 「夕食前にこんなものばかり食べてると太っちゃうかな」
 「ふふ…殿も他の女性達のような心配事、なさるんですね」
 「ちょっと、何それ?どういう意味よ!」
 「わわ、すっ…すみません! 悪い意味で言ったわけじゃ…」
 の振り上げた手を必死に制しながら陸遜が言う。



 …大丈夫ですよ、貴女がどんな姿でも、私は…
 という言葉は喉の奥に押し込んで。



 「今日も無事に一日が終わりそうね」
 「はい。今日もお付き合いくださってありがとうございました」
 「こちらこそ、ありがと」



 夕食の時間が近くなり、女官達が忙しなく走り回る。
 外からは美味しそうな夕餉の香り。
 その香りに誘われるように二人は卓を片付け始めた。



 ん?殿…どうしたんだろう?



 さっきまで元気よく話をしていたが不意に黙り込んでしまったのだ。
 心配になった陸遜が「何か気に障ることでも言いましたか?」との顔を覗き込みながら訊くと
 「ねぇ…陸遜」
 とが突然顔を上げて呼びかけた。



 わわっ…しっ、至近距離じゃないですか!
 危うく貴女の唇に………。
 お、落ち着け、私…



 しかし、は陸遜の動揺を気にするわけでもなく言葉を続ける。



 「…ねぇ、陸遜。
 今は戦もなくて平穏な毎日だけど、こんな時代だから 「いつまでも」 …ってワケないじゃない?
 だから、さ
 約束して。
 戦が終わっても、必ず二人とも此処へ帰ってきて…

 こんな風に…ずっと一緒にいようね」



 口付けもできそうな距離に加えていきなりのの告白?に陸遜は動揺を隠せない。
 「えっ?殿?今のは…どう、いう、こ…」
 口から出る言葉も途切れ途切れになる陸遜に、
 「そのまんまの意味よ。返事は明日聞くから。 …これからもよろしくねっ!」
 と満面の笑顔で言うとさっさと医務室の扉を開け、出て行ってしまった。



 一人取り残された陸遜は心を鎮めてから。

 …あれは、告白と取ってよろしいのですね?殿。

 と、明日逢えるのを楽しみに思いながら…
 軽い足取りで彼女が残して行った片付け作業を始めた。





fin.



 アトガキ
 とっ…とうとうやっても〜た(汗
 管理人、初の夢書き☆
 システムに戸惑いつつもやっと完成。

 やっぱり初めてはショタ陸遜でイこうと書き始めたはいいけど、久しぶりの小説執筆に何度も挫けかけました(滝汗

 今回は真っ白なりっくん。
 ヒロインに恋心を抱いててそれをなかなか口に出せずに悶々(?)としている間に逆告白(?)されてしまった…ってシチュエーションに自分で書きながら悶えてしまった orz
 しかも、顔がキスできるくらいまで至近距離になるという…純な場面!
 私だったら速攻するぞ!絶対に!(落ち着け、自分

 『愛』とか『恋』という直球な言葉が苦手なのでちょっと韻を踏んだ表現になってます。

 最後に、ちょっと楽しい内容にしたかったんで、甘寧殿に出演してもらいました♪

 ここまで読んでいただき、ホントにありがとうございました!

 2006.6.25     飛鳥拝

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