これって、本当に便利ですよね。
 離れていても――いつでも話が出来るんですから。

 でも、やはり声だけでは寂しいです。

 だから――










 笑顔に逢いたい










 午後9時。
 は今残業中で、モノ言わぬパソコンに向かい、キーを叩き続ける。

 その最中、不意に傍らの携帯電話から着信音が鳴った。

 ♪…♪…

 「はい」
 出るのが面倒だと思いながら携帯電話を耳に押し当てる。
 すると――

 「あ、殿。突然電話してしまってすみません。 今、大丈夫ですか?」

 少し戸惑った風の、聴きなれた声が耳に届いた。





 声の主は陸遜。
 先日、有り得ない事にゲームの世界から突然やってきた。
 は、大好きな陸遜のあまりにも突然な出現に喜び、そして戸惑いながらも次第に現実を受け止めていった。

 一方の陸遜はというと――
 周りの環境が変化した瞬間から『こちら』の世界に来たことを楽しんでいるようだった。
 この『現象』についてあれこれ考えたり、文明の利器を相手に悪戦苦闘したり…。
 そして、今は「一人暮らしをしているの部屋では狭いし、何かと不自由だろう」…ということでの実家で両親と同居をしている。





 「うん…少しなら」
 はパソコンの画面から目を離し、冷め切った缶コーヒーの口をあけた。
 すると、向こうの声が悲しそうな色を放つ。
 「すみません…お忙しいのに。今日も『残業』ってことをやっているのですか?」
 「そう。残業。今日はそろそろ終わりにしようと思ってるんだけど…」
 はそう答えると、再びパソコンの画面に向かい、空いてる右手でマウスを握った。
 「あの…殿?」
 「ん?」
 「お体、大丈夫ですか?」
 陸遜が気遣っているのが手に取るように解る。
 「あは、ごめんごめん。大丈夫よ。後はこれを保存して、と…」
 はマウスを動かしながらも陸遜の様子を想像し、笑顔を零した。

 陸遜の声がまるで良薬のようにの心の中に染み入る。

 心地いい…。





 「よし、終わったし…これから帰るよ」
 「はい!殿、今日も本当にお疲れ様でした」
 「ふふ…ありがと」
 は携帯電話を耳から離さず、器用に上着を着てバッグを持った。



 会社から出て、歩いてる時も耳には陸遜の声。
 「今日はお父上から『携帯電話』というものを買って頂いたんです」
 「あ…だから見たこともない番号だったのね」
 そう言えば、着信の時…表示されてたのは番号だけだったな…とは思い起こした。

 父さん、イキなことしやがって………!





 駅が近くなり、はバッグから定期入れを出しながら陸遜に言う。
 「ごめん、陸遜…そろそろ電車に乗るから電話、切るね。  今日、この後どうする?」
 「あ…殿が家に着くまで待ってます」
 「解った。じゃ、また後でね」
 「はい! …気をつけて帰ってくださいね」
 「OK。じゃね」
 「はい。では」
 通話を切って、は携帯電話を大事にバッグにしまいながら

 「気をつけて帰ってくださいね、か…」

 と少女のような笑みを浮かべ、呟いた。











 待ちに待った週末。
 は実家に戻り、週末を両親、そして陸遜と共に過ごす。
 実家の扉を開けた時、最初に眼に飛び込んだのは陸遜の眩しい笑顔だった。

 「殿、おかえりなさい!」
 「あは…ただいま」

 毎日声を聞いてるのに面と向かうと少し照れくさいなぁ、とが頭をかきながら笑うと
 「私にはいつも殿の笑顔が見えますよw」
 と陸遜が何食わぬ表情でさらりと言う。

 …もう、ホントに照れくさいんだから。





 「今日はね、陸遜君のためにこんなものを作ってみたのよ♪」
 との母親がの部屋に持ってきたのは桃饅頭。
 は「最近『点心』に凝ってるらしい」と父親が嬉しそうに言ってたのを思い出して
 「ぶっ…父さんが言ってたの、ホントだったんだ」
 饅頭を片手に吹き出してしまった。



 「お母上が作るものはいつでも美味しいですね」
 と陸遜が言ってもう3つ目になる饅頭を手に取った。
 「そんなにたくさん食べると…食事が入らなくなるよ?」
 「大丈夫です。『甘いものは別腹』ってお母上も言ってましたからw」
 「母さんったらもう…変なことばかり教えるんだから」
 はちょっとむくれた様子で頬を膨らませた。
 すると陸遜はその頬に指を突き立て、
 「あ、今の表情…ちょっと可愛いです」
 と言いながら頬に指を食い込ませた。
 「なっ…何すんのよっ」
 陸遜の指を振り払うを横目で見て

 本当に可愛らしいですね、と陸遜は思う。





 暫く他愛のない会話をした後、は陸遜の側に置いてある携帯電話を見て
 「あ、それ?父さんが陸遜に買ったって」
 「そうですよ。はい…見ますか?」
 と陸遜はに電話を手渡す。
 開いて中を見ると、待ち受け画面には先日送ったのスーツ姿の写真が使われていた。

 「これ…」

 「はい。…まだ使い方がわからないので、お父上にやってもらいました♪
 結構気に入ってるんですが…もっとたくさん欲しいです」

 陸遜はそう言うと携帯電話をから奪い、にカメラを向ける。
 「やっ…何?今撮るの?」
 「はい♪まだまだたくさん撮りますからw」
 戸惑うを尻目に次々とシャッターを押す陸遜。
 半分嫌がりながらはちょっと考える。

 …そうだ!

 「ちょっと待って陸遜。もっかい貸して」
 は再び陸遜の携帯電話を手に取るとカメラをINカメラに切り替えた。
 そして、それを二人並んだ目の前に翳す。
 「こんな使い方もできるんだよ…知らなかった?」
 「あ、それって、『ツーショット』ってやつですよね」
 「そそw」

 カシャッ!

 携帯電話の画面には楽しげな…それでいてちょっと照れが入った二人の笑顔が並んでいた。





 「でも、『携帯電話』って凄いですね」
 画像が増えて嬉しそうな陸遜が笑いながら言う。
 「そだね〜。 これで、離れてても寂しくはないかな」
 と、が同じ笑顔で言うと、陸遜が不意に真面目な顔になった。

 …あれ?私、何か悪いこと言った?

 が訝しげな顔をしていると、陸遜がの眼を見つめながら話始めた。



 「これ…本当に便利ですよね。
 離れていても…いつでも話が出来るんですから。
 でも…私は…
 やはり声だけでは寂しいです。
 だから…いつでも貴女の笑顔に逢いたいんです。

 貴女が、好きだから…」



 は口をぽかんと開けたまま動かなく…いや、動けなくなってしまった。
 あまりにも唐突な言葉に――

 嬉しいけど…

 凄く嬉しいけど…

 言葉が、出ないの………。



 気がつくと、の頬には一筋の涙が伝っていた。
 顔は満面の笑顔なのに。
 陸遜はふっと笑うと、の頬に指を添え、涙をそっと拭ってやる。
 そして、その指を顎で止めるとそのまま自分の顔を近付けていった――。





 fin.





 アトガキ
 第2弾です。
 また『やっても〜た』的な糖度めっさ高!なモノが生まれちゃいました。
 現代アイテムで真っ先に思いついたのが携帯電話。
 連絡ツールとしては最高のアイテム。
 それを無双の武将さんが使ったらどんなんなるかなぁ、と思って執筆開始。

 …結構楽しい☆

 つい夢中になって一晩で完成。
 言うまでもなく寝不足になりますたけど orz


 今回も真っ白りっくん。
 しかし、今回はちょっと積極的にしてみました。
 どですか〜?
 『飲茶』の逆的な感じになっちゃいましたけど…

 …

 今回はヤリました☆(何を
 が、多分気の強いヒロインにビンタを食らうんでしょう…あの後w
 (喜んでます、自分)

 しかし、電話の会話中心っていう話の進め方は難しいなりにも楽しかったです♪

 ここまで読んでいただき、ホントにありがとうございました!

 2006.6.27     飛鳥拝

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