Time Is...











 ――やっぱり眠れない。

 自分の身体を覆っていた掛け布を捲ると、私はその場に起き上がった。
 ふるふると首を振り、少しぼやけた頭を覚ます。
 でも考えれば考える程、疑問ばかりが浮かぶこの境遇。
 そんな中で私は約一月の間、生活していたんだ。

 「これこそ、数奇な運命って言うのかしらね」

 一人零し、自嘲的な笑みを浮かべる。
 それでも頭に思い浮かぶのはここ数日の出来事ばかり。
 楽しくて、そして切ない思い出――



 ――やっぱり、このままでは哀し過ぎる。



 私は薄い夜着の上に上着を羽織ると、徐に廊下へ飛び出した――。













 仕事帰りにふと寄った中古屋にて、それ――真・三国無双はあった。
 知り合い連中から頻りに勧められていたのだが、今迄忙しさで手に取る事すらままならなかったゲーム。

 それが今、の手によってプレイされていた。

 はじめは戸惑った操作だったが、難易度が低いという事もあり、次々に敵を斬り斃していく。
 この爽快感に、は次第にのめり込んだ。
 休日の貴重な時間をたっぷり使い、操作するキャラを強化していく。
 そして、最高の難易度――激難をクリアした時、それは起こった。



 何時もはキャンセルしてしまうエンドロール。
 それを今回、何故かそのままぼんやりと見つめていた。
 そして、やっと終わるかなと思った瞬間――



 ――あなただけへのスペシャル特典――



 テレビのモニタに、大きく浮かぶ文字。
 今迄見た事もない特典に、は目を見張った。
 あなただけ、って…一人で全部クリアした人だけって事よね、と思っていても、なんとなく自分を名指ししているような気がしてならない。
 それだけ説得力のある特典画面――その続きにはこう書かれてあった。





 おめでとうございます。
 あなたは数多く存在するプレイヤーの中でこの特典を受ける権利を手に入れました。
 下記の特典内容をお確かめの上、同意される場合は●ボタンを押してください。

 特典内容 : 三国無双の世界に入り、あなたがプレイした陣営にて一月(30日)の間武将たちと共に生活する権利

 ――どうぞ、思うままに三国無双の世界をお楽しみください――





 この文面を見た時、はあまりにも現実離れしている事に思わず吹き出してしまった。
 思わせぶりに書いておいてもどうせ自分そっくりのエディット武将が作れるとか…その程度でしょ、と。
 しかし、自分そっくりの武将が戦場を駆け巡るのを見るのは楽しいだろうな、とは思った。

 その先をあまり考えずに押した●ボタン。
 刹那――



 手にしていたコントローラーに自分自身が吸い込まれるような感覚がしたのだった――













 ――私は長い夢を見ているのかしら?

 廊下を歩きながらは独り言を零す。
 自分がゲームの世界に入り込むなんて、所詮夢物語だ。
 だから、最初は心底楽しんだ。
 何処から来たのか解らないような女を快く受け入れてくれたのも、あの人が自分の事を好いてくれるのも、全部夢だからだと思った。
 だけど――

 ある日、興味本位で戦地を見たいと言った私に、彼は本気で怒ってくれた。

 ――あの真剣な目を見てから、私の気持ちは変わったんだ。



 それからというもの………見聞きする事、手に触れるもの全てが現実味を帯びて来る。
 しかし、はそれでも構わないと思った。



 ――これが夢だろうが、現実だろうが………もう今の私にとってはどうでもいい事。

    今、私が欲してるのは――



 足を速めたの視線の先には、相も変わらず淡い光を放つ月が群青色の空にぽっかりと浮かんでいた。













 あの日――

 月明かりに優しく照らされる室の片隅。
 窓から月を眺めるの元に、彼は予告もなく突然訪れた。
 「入っても宜しいですか?」との顔を不意に覗き込んでいたのは陸遜。
 がわけも解らずこの地に降り立って直ぐに出会った人物だ。
 あれから、何かある毎に彼とはたくさんの話をし、いろんな事を教え合った。
 そして――



 「、私には貴女を愛する権利はないのですか?」

 部屋に入るなり語られる陸遜からの熱い想い。
 この真っ向な視線は、若さゆえのものなのか――決して逸らされる事なくへと注がれている。
 それだけ、彼の想いが本物だという事なのだろう。
 勿論、このような夜更けに訪れた男をすんなりと受け入れるにも、同じ気持ちがある。
 楽しい話、悲しい話、辛い話、暖かい話――語り合う二人に時間の短さなど然程問題ではなかった。

 時を追う毎に惹かれていくこの心。
 だけど――



 「権利とか、じゃないの。 私が………貴方の気持ちに答えられないだけ」
 「それは、前に言っていた『一月』の話ですか」
 「うん、だから――陸遜も、私なんかを好きになったら辛い思いをするだけだわ」

 しっかと握られた手にもう一方の手を添えると、は項垂れたまま小さく云う。
 辛い想い――
 しかし、陸遜を突き放すような事を言いながらも心の中ではもう手遅れだと感じていた。



 どうして、こんなに好きになっちゃったんだろう?
 離れると解ってて、どうしてどんどん好きになっていくんだろう?

 傍に居たら、いけない。
 だけど――

 それでも心は貴方に向かったままだわ。



 「貴女は残酷な人だ――このような夜中に私を部屋に入れておいて、気持ちに答えられないと言う」
 「ごめん陸遜。 私、期間限定の恋を楽しめるような………そんな器用な人間じゃないから」

 ここ数日、同じように繰り返される会話。
 それでも陸遜が強引にでも一線を越えないのは、の心を酌んでいるからなのだろう。
 その度には罪悪感に苛まれる。



 確かに、私は残酷なのかも知れない。
 陸遜は華奢に見えても男――女を無理矢理手篭めにするのは簡単だろう。
 それをしないのは、やっぱり私を好いてくれているからで………



 「解りました。 しかし、私が貴女を愛している事には変わりありません――それだけはお忘れなく」

 念を押すように言うと、何時もの機敏さで静かに踵を返す陸遜。
 その背中を名残惜しそうに見つめながら

 「………貴方の気持ちに甘えてごめんね、陸遜」

 今迄はっきりと言えなかった言葉をそっと送った。













 ――今夜が、最後――

 は律儀に過ぎていく日々を指折り数えていたわけではない。
 なんとなく、そんな気がしたのだ。
 しかし、時の流れなど今のには些細な事だった。



 今夜、私は心のままに貴方を受け入れる――





 「………!? こんな時分に一体どうし――」
 「お願い陸遜、今は何も訊かないで」



 ――私を、抱いて。



 小さな灯を落としている部屋に二つの影が重なる。
 既に心を通じ合わせていた二人に、最早余計な言葉など必要なかった。

 真剣な面持ちで飛び込んでくるの身体を優しく受け止めると、陸遜は彼女の手によって開け放たれた扉を器用に閉めた。
 そしてその手をの頭へ移し、軽く整えられた髪を梳く。
 「、顔を上げてください。 もっと貴女の顔が見たい」
 「う、ん………」
 恐る恐る陸遜と視線を合わせるの瞳は、今にも泣き出しそうな程潤んでいる。
 最後の夜になって漸く気付いた本当の気持ち。



 ――この気持ちを思い出で終わらせるには哀し過ぎる。
    いっその事――私の心に………私の身体に、『貴方』を刻み付けて!

    決して、決して忘れないように――





 自ずと重なる唇から、互いの想いが強く、強く注ぎ込まれていく。
 「ふっ………んんっ」
 唇から割って入る舌のあまりの熱さに頭の芯が蕩けそうになり、の膝がかくんと折れる。
 刹那、力を失った身体をひょいと掬うように抱き上げる陸遜。

 「流石に立ったままでは辛いですね………」
 「いやっバカ………恥ずかしいから下ろして――」
 「それは了解しかねます」



 ――だって、もう貴女を放したくありませんから。





 床に下ろされてほっとしたのもつかの間、直ぐに塞がれる唇。
 口腔内を蹂躙する舌にも次第に熱さが籠ってくる。
 それでも陸遜の手は休む事なく、の体を慈しむように触れつつ夜着の紐を解いていく。

 初めて触れ合う想い人の肌は、汗でしっとりと濡れていた。
 その所々にある傷跡は間違いなく武人のもので、の身体に僅かな緊張が走る。



 この人は、私と違う世界に生きる人。
 何時何処で、命を落とすか解らない。
 だから、彼は――



 「後悔、したくなかったんだね、陸遜」
 「漸く解っていただけましたか、私の気持ちが」
 「うん、痛いほど、ね。 だから私も後悔しないように言うわ――」



 ―― ア   イ   シ   テ   ル ――





 絡め合う指や重なる身体に、更なる熱が籠る。
 刹那、既に露になっているの双丘に陸遜の手がかかった。
 その手に僅かな力が入り、形を変えていくと同時に先程唇に感じた熱が頂に触れる。

 「ふぁ………ん」
 「綺麗だ………貴女はこのように鳴くのですね」
 「はぁっ………い、や………恥ずかしい…っ」
 「もっと鳴いてください、………私のために、私だけに」

 陸遜の舌が触れた場所がやけに熱い。
 まるで火に焼かれているみたいだ、とは思った。
 これこそが情交。
 痺れる程の熱さと、頭を突き抜けるような快感。
 の息が次第に荒くなり、唇から漏れる声も小刻みになっていく。
 その間にも陸遜の手や舌はの身体を這い回り、それは下腹へと集中していった。

 茂みを掻き分けた手が、一番敏感な場所を探り当てる。
 既に膨らみを帯びた茎や濡れそぼった窪みは、その手を待ち受けるかのように僅かに震えていた。

 「ひぁっ! うぅん………」
 「凄い………、貴女はいやらしい人だ…こんなに濡らして」
 「あぁっ…そんな、事、言わない、で………」

 陸遜の吐く言葉もそこここにかかる息も、今のには快感を助長させるものだった。
 窪みに受け入れた陸遜の指が膣中(なか)をかき回す。
 「あっあぁっ………いっ…くぅぅぅっ………」
 その動きに合わせるかの如くの身体は小刻みに揺れ、そして高い声と共に背を反らせた。



 彼の指だけで絶頂を迎えた
 しかし、陸遜の昂りはそれだけでは済まない。
 の片脚を抱えると、己のいきり立ったものを熱く脈打つ窪みに宛がい、一気に押し入る。
 「あぁぁぁぁぁっ!」
 「くっ………」
 あまりの快感に陸遜の唇からも呻き声が零れた。
 一つになった欲望は二人を更なる頂へと導いていく。
 片手で器用にの腰を掴むと、不規則な速さで膣中を蹂躙し続ける昂り。
 その律動は、絶える事なく二人の脳を貫いていった。

 「はぁっ…す、ごっ…いいっ!」
 「、私も…感じますよ………貴女の熱さを」
 「ふぁっ…だ、め…もう…」
 「くっ………、最後は、一緒に………」
 「うんっ! 伯言! 一緒に………っ」

 絶頂の連続にの意識が手放されたと同時に、陸遜も膣中に己の精を放っていた――













 気が付くと、私はゲームのコントローラーを握ったまま呆けていた。
 目の前のテレビモニタにはクリアした後の黒い画面があの時のまま残されている。

 ――今のは、夢だったのかしら?

 未だぼんやりしている頭をフル回転させながら小首を傾げてみる。
 それでも、鮮明に覚えているのはこの一月の楽しかった思い出と――



 ――刹那の想いに溺れた陸遜との情交。



 途端に熱くなる身体、下腹に感じる疼きに顔も熱くなっていく。
 この感覚、夢で片付けるにはあまりにもリアル過ぎる。

 ――とても、不思議な体験――



 次の瞬間、確かめるようにモニタを見遣る私。
 その有り得ない現実に、これが夢ではないと思わざるを得なかった。





 ――モニタには大きくこう書かれていた。





           『、ありがとう』










 劇終。



 アトガキ

 ども、サプライズ飛鳥です(笑
 今回の夢は久し振りの裏街道まっしぐら!なエロエロ夢でございます。
 成人に満たないお嬢さんは読まないでくださいねw(←言うの遅ぇ!

 お相手さんも久し振りの陸遜メイン。
 いや…これはいろんな意味で初、でしたね。
 トリップでエロってのも初めてですし、りっくん相手でのエロも初めて。

 …非常に緊張しました(←嘘つけっ!

 この話のオチは行き当たりばったりデス(笑
 トリップに関してはちゃんとした流れが欲しいと思ってるんで…こんな感じに。
 アノ後、ヒロインが悲しい思いをするか前向きに歩き出すかは読者さんの想像に任せるとして…
 このようなお話でも楽しんでいただける事を心から祈ります。

 
 ここまでお読みくださってありがとうございました。

 2009.09.08     飛鳥 拝


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