今日も変わらず陽が暮れる 〜序章〜










 斜陽が大地を照らす。
 一日の最後の力を振り絞るように草原を燈色へと変えながら――。



 ここは家から少々離れた、一面に広がる草原が見渡せる小高い丘。
 はこの場所が好きだった。
 何をするでもない。
 事ある毎に訪れ…時には朝焼けを、時には落陽に照らされる草原を眺める。
 それらを見ていると、現在彼の地に赴いている両親の笑顔を思い浮かべる事が出来るから――。

 そして、今日も落陽を眺めにこの高台へと足を運んでいた。







 両親が出かけてからそろそろ一年が経とうとしている。
 (…やはり、流石に寂しいか)
 琥珀はの傍らで軽く溜息を洩らした。
 雄々しく佇むその姿は、この風景に相応しい。
 大きな身体を更に大きく伸ばし、遠くを見据える。
 育ち所以か…輝く茶金色の縞の毛並みは素晴らしく、風にさらさらと靡かせていた。
 長い間ずっとと共に生きて来た『彼』は――



 彼は、一頭の虎だった――。










 琥珀は年頃になった彼女の身を案じてか、ここ最近は特に片時も離れようとしない。
 この地を離れる時、彼女の父親――孟獲から
 「頼む! ワシの代わりにを守ってくれ!」
 とひれ伏してまで懇願された事を思うと、当然といえば当然なのだが。
 それよりも琥珀はの事をこの上なく気に入っていた。
 自分の言葉、自分の心を理解する唯一の存在。
 彼女にどうしてそんな『能力』が備わったのか未だに疑問ではあったが、琥珀にとってはどうでもよかった。
 大好きな…この世で一番大事な友と言葉を交わす事が出来る。
 これ以上を知る必要が、私にあるのか…?と。





 『。 …やはり寂しいか』
 琥珀は落陽に照らされる隣の横顔を見つめ続けたまま問うた。
 すると、はその言葉に振り向き、唇の両端を引き上げてにかっと笑い返す。
 「…そんなわけないよ。 だってもうすぐ帰って来るし、それに琥珀がいてくれるもん」
 あたしは大丈夫だよ、と琥珀を抱きしめるように屈んで綺麗に生え揃っている頭の毛を梳いた。
 磨くと黄金色に光る宝石のようなその毛並み。
 彼が生まれた時、その場が一瞬にして静まり返った程の輝きを放っていた事から――
 の両親から『琥珀』という名を授けられた。
 はそんな彼を友達に持てる事をとても誇らしく思っている。
 容姿も然り、事ある毎に自分を気にかけてくれる…大きな体躯の割には心優しい性格も然り。
 幼い頃
 「おっきくなったら琥珀のお嫁さんになる!」
 と言っては周りの者達を困らせていた程、の中では存在感が大きいものだった。










 「ねぇ琥珀。 お父ちゃんとお母ちゃん、ちゃんとお土産持って帰って来るかな?」
 『あぁ、多分な。 北方にはこの地にない珍しいものがたくさんあると聞く…きっとお前にも何かあるだろう』
 「うわぁ、楽しみだなぁ………」
 一度視線を合わせた後…再び振り返り、影を帯び始めた草原を眺める
 その遠くを見るような視線を追い、琥珀はふっと僅かな笑みを零した。

 『…この娘の相手は、私がしっかりと見極めてやらねばな』
 彼女の耳に届かないように小さく呟きながら――










 は知っている――今、北方の地は戦火に包まれている事を。

 しかし――



 「様ー! 晩御飯が出来ましたよー!」
 「うん! 今行くー!」



 この地では何も変わらず、斜陽が一日の終わりを告げる。

 平穏な、一日の――。







 今日も、陽が暮れていく――







 劇終。



 アトガキ

 ども、管理人です。
 久し振りとなった夢の更新です………が!
 夢のような、夢でないような…(汗

 まぁ、とにかく!(←あ、逃げた
 ここに初のシリーズもの発動を宣言いたしますっ!

 連載や企画を抱えている身で…些か自らの首を絞めている感が否めませんが(汗
 こちらは…
 シリーズのトップページにも書きましたが、管理人のスランプ救済策として立ち上げたモノです。
 なので、こちらの更新があった時は
 「管理人がネタに詰まった」
 とでもお考えください(←何を言うかこのヒトは

 因みに…このお話は序章、つまりヒロインとそのペット?の自己紹介的なお話です。
 彼女達の今後なんですが…基本ほんの小話程度に纏めるつもりです。
 (ギャグが殆どになるかと思われますが…苦笑)

 そんなわけで…
 アトガキが少々長くなりましたが、今後ともコイツらをよろしくお願い致します。

 このようなお話でも………少しでも楽しんでいただければ幸いかと。

 ここまでお読みくださってありがとうございました。

 2008.11.19     飛鳥 拝



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