口は災いの元である、…らしい。
それは何気ない、ひと言から始まった。
言った本人は、からかい半分か、無頓着でいらぬ事に首を突っ込んだのか、それとも単なる心配性や余計なお節介である。
しかし、その言葉をかけられた側としては、「いい加減、ほっといてくれ!」である。
後から、「しまった!」「やばい!」「言ってしまった!」と思った所で後の祭りである。
人はそれを「口は災いの元」と呼ぶ。
その日、が、それについて言われたのは、4度目である。
同じ人物に言われた事ではないとしても、本人が望まない事を日に4度も言われれば、「またか。」と思う反面、「同じ事しか考えられぬのか、馬鹿目が!」と、どこぞの首が廻る、高笑いがちょっぴりチャーミングな腹黒奇天烈軍師の如く怒りたくなるか、最近めっきりご無沙汰している南瓜軍師の様に呆れてものが言えなくなるか・・・どれかである。
はどちらかといえば、気は長い方である。
2、3時間(それ以上でも平気)待たされても苦にならず、多少の意地悪だろうが、耐え忍ぶ事にかけて、精神面は優れていた。
だが、蜀に来てからというもの、年長者に囲まれて厳格に生活していた頃と違い、口数が少なかったは、環境に応じて内面からも成長せざるをえなくなっていた。
は、蜀に来るまで、これといって友人がいなかった。
いや、友人はいた。
ただし、それが家によって決められた友人達であったりした為、真に心から打ち解けられる事はなかった。
次第には、式鬼神達や親密な者以外に打ち解けなくなっていった。
心のより所が、人ではない式鬼神達になってしまったのだ。
彼らにとってそれは頼りにされているという事で嬉しいが、人間界にいるからには、自分達の主である唯一関わりを持つ、が人との関わりを断ってしまう事を恐れていた。
彼らがそれに憂いを感じていた頃に、は何度目かの時空の狭間に流され、蜀へとやって来たのだ。
のその内面の変化に喜んだのは、式鬼神達である。
これでも、人として(これまで人じゃなかったような扱いだな)過ごせると、実感していた。
そして、が劉備の娘として、蜀に馴染み始めた矢先の出来事だった。
1度目は、朝食の時に挨拶をした、張飛。
2度目は、諸葛亮の元に書簡を運ぶ為に、廊下ですれ違った姜維。
3度目は、鍛錬場で手合わせをしていた趙雲。
4度目は、馬岱(執務)から逃げて、の所へ訪れた馬超。
とりあえず、それに触れたのは、本日馬超が4人目だった。
「なぁ、俺、常に思っていたのだが・・・、って友達いないのか?」
「はぁ、友達ですか?」
「何というか、の周囲にはいつもあの、式鬼神やら、人でないものばっかりだろ?
人の友達はいないのか?」
これぞ、人でなし・・・ってか。・・・馬超は、とりあえず何気なくそんな事を言った。
そう、彼にとっては、冗談とでも言うものだったのだが。
【人の友達がいない。】という事をは、常々、周囲から言われ、自分の中で「人の友達」を作る事を求めつつも、どんな事なのか分からなくなっていた。
それをこの蜀に来てまでも言われようとは、にとっては屈辱的な事だった。
が、彼女が開けた性格ではないことも手伝い、について未だよく知らない人々(特に人を思いやる性格でない者や無頓着である者が多い)は、それについて、核心をついて心の芯を突く言葉をかける事があった。
「今、何と、おっしゃられました。」
「ん?人の友達がいない・・・か?」
「その後です。」
「え〜と・・・。」
「今、馬超殿は、私の使役する大事な式鬼神達を、ひとでなし。と、おっしゃられました。」
あ〜、それか。と、馬超は、もしかしてやばい事を言ったかなと思いつつ、頭をかきながら、そう言った。
「ええ、私にとって、本家の長老達が決めた監視役も兼ねた友人達は、心から信頼できるものではありませんでした。そんな時に支えてくれたのは、祖母に兄、そして、式鬼神達だけ・・・。」
そこまでが話した所で、馬超は、自分が彼女に対して心無い言葉をぶつけてしまった事に気がついた。
「そ、それは・・・。」
「それについて問われたのは、本日4度目です。」
なんというか、善からぬ事は、こうも立て続けに起きるものなのですね。
なんだか、ここではないあさっての方向を、遠い目をしつつ見ているに危険を感じた馬超は、そっとその場を離れようとするが、それは問屋が許さぬものである。
「馬超殿、何処へ行かれます。」
冷たい声でそう、囁く様に言われれ、冷気がから流れてくるのを感じて、馬超はいよいよこれはヤバいと感じ始めた。
「あ・・・えと、厠へ〜・・・。」
馬超の背中や額を嫌な汗が吹き出ては流れ、なんとなく、及び腰である。
「まぁ、過ちは簡単に犯す事が出来るものですが、それは償うべきものだと思いますよ、私は。」
そう、は馬超に聞こえる様にいつもより低い声で言うと、スッと左手を上げると、馬超はその場から、何かの力で縫い止められたように動けなくなってしまう。
「なっ、何?何だこれは・・・!」
何が起きたのか分からない、馬超は金縛りに遭ったようにその場から一歩も動けなくなってしまう。
思い通りに動かぬ体で目だけを動かし、自分の足元を見下げると、両足にパリパリと音を立てて、静電気のような、ミニ雷の様な物が張り付いている。
「っ、、俺が悪かった!・・・・・・すっ、すまなかった、許してくれ!」
馬超の必死な言い訳も何となく上ずっている。
「皆、そう言いますよ。でも、もう、遅いのですよ。」
が、黒い笑みを浮かべて、馬超を見やる。
怒らせてはいけない人間を怒らせてしまったようだ。
蜀では、諸葛亮や馬岱と並べる黒さかもしれないと実感した。
その後、数秒もしないうちに、馬超の目の前に、スッと移動してきたが、馬超のすぐ目の前に来ていた。
今までこう目の前にした事が無かったが、改めて、自分の目の前にが立ってみてドキリとした。
この国、いや、この世界にはない、美人であると。
どうしてこれまで気がつかなかったのか・・・。
(眼が、こう・・・え?金色に光って?・・・・・・てか、金色に光るわけないだろ!ありえねぇ〜っつ〜の!)
馬超が自分の中で自問自答しているのを余所に、が、馬超の顎を左手で軽く押さえた。
ヒヤリと冷たい冷気を放つ指先にまた、馬超の心臓がドキリと反応する。
(め、目線を反らす事が出来ない?馬鹿な・・・!添えられた手に力が入っている訳でもないのに!)
何が自分のみに起きるのか、恐ろしくなった。
戦場で味わう、九死に一生を得るのと同じ状況だと、思った。
ある意味、傷も無く、意識もハッキリしている分、恐怖は5割り増しぐらいだ。
ゾンビや吸血鬼やら、悪霊やらに襲われるその瞬間を映画やゲームで見たり体験したり、恐怖屋敷やお化け屋敷で恐い体験をする瞬間と同じ状態だ。
全身を駆け巡るような鳥肌のような物がゾッと襲ってくる。
馬超が全身石化したように動けなくなった瞬間、の目が、カメラのフラッシュをたく様に、一瞬パッと光り、瞬きをした。
そして、馬超は、何事も無かった様に、が、馬超から手を離した瞬間、金縛りも総て解けてカクンと膝が折れて、その場に、尻餅を突く。
(なっ、なんだ?今、眼が光った?一瞬眩暈があった・・・ような・・・。)
何が起きたのか、目を白黒させて、その場に座り込んだままの馬超に、
「少し驚かせすぎましたか。」と、がスッと手を差し出す。
その手にビクリと反応する馬超に、は、ニヤリと悪戯が済んだ子供の様に口の端を少し上げて笑んだ。
その笑顔に、先程までの黒い笑みを思い出し、馬超は、ゾゾッと体を振るわせた。
「大丈夫ですか、馬超さん。立てますか?」
馬超の反応を見るように、は手を差し出したまま、首を傾げる。
その少し首を傾げるの態度に萌えを感じる馬超。
何だ、こんな可愛い所もあったのかと思い直してしまう。
そして、馬超が「あぁ、大丈夫だ、俺も悪かった!」
と、の手をとって立ち上がろうとした時だった。
馬超は自分の言葉が可笑しい事に気がついた。
確かに、自身では、「あぁ、大丈夫だ、俺も悪かった!」
と、言ったつもりだった。
はずだったのだが・・・。
彼の口から出たのは・・・・・・
「にゃ、にゃにゃ〜!」
馬超がの手を握ったまま、ピシリと動きを止める。
そして、を上目遣いにチラリと「何をした!」と言わんばかりの目で見上げる。
彼の口から紡ぎ出されたのは、まごう事無く、猫の声。
「・・・・・・・・・・・・?!」
馬超が自分の口や喉や、自身の体をペタペタと触りながら、見た目や触り心地に以上が無い事を確かめながら、あたふた・・・おたおたと、平常心を失っている。
「ふっ。フフフ・・・・・・。」
は可笑しくて仕方が無いと言うように、黒い笑みを浮かべている。
「タダで済む訳が無いでしょう。」
「にゃっ、にゃにゃっ!(なっ、なぜだ〜。)」
「馬超殿の意識にちょっと悪戯をさせて頂きました。」
「な〜!な〜・・・にゃ〜!!(い、意識だとっ!)」
「まぁ、明日ぐらいには直りますから、支障ありませんよ。」
ケロリとした様子で、悪気も無くそう告げるに、馬超はめちゃくちゃ支障あるじゃないか!
と、猫語で訴えている。
「にゃっ!にゃにゃっ!にゃ〜!(この後に、趙雲と遠乗りのやくそくをしているのだぞ!)」
ペシペシとの腕を叩くが、にはその声が分かるらしく、
「何、問題無しですよ。」
ノ〜プロブレムです。と、馬超の意見を切り捨てる。
「今頃、趙雲殿も、貴方と同じ事になってますから。」
「にゃ〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
ドド〜ンやら、ガラガラピシャ〜〜〜ンやら、馬超の背景に激しい衝撃の稲妻が走る。
「もう、皆さん、そろって私に同じ事をおっしゃるので、ちょっと腹が立ったので、悪戯してみましたよ。」
テヘッと口元に左手を添えて微笑むに、馬超は「これの何処がチョットかよ!」と、また、猫語で叫ぶ。
「張飛殿は、「そのうち、も人じゃなくなっちゃうんじゃないのか〜。」とか」
「にゃっ・・・(張飛殿か、確かにそんな事を言いそうだ・・・。)」
「姜維殿は、貴方と同じ様に、「人間の友達がいらっしゃらないんですか?」なんて、無邪気に聞いて来られました。」
「にゃ〜・・・(あ〜、あいつ、天然馬鹿だから。)」
「そして、趙雲殿は、「人間の友達がいらっしゃらないなんて、ダメですよ!第2の魏延殿になってしまいますよ!何なら私が・・・」とか何とか・・・魏延殿はれっきとした人ですよ。少し口下手でいらっしゃるだけで、心根は優しい方です。」
「にゃ・・・ニャァ・・・・にゃにゃにゃにゃにゃっ!!(あ、あ〜趙雲もか・・・あいつも、・・・それより何、ズルしようとしてるんだ?抜け駆け禁止って言い出したのあいつだぞ!!)」
何とか言いつつ、猫語で馬超はの会話に答えて、納得したように頷いている。
「なので・・・」
その言葉で、馬超は現実に引き戻される。
「にゃっ、にゃにゃにゃっ?!(それで、あいつらはどうなったんだ?!」
「お知りになりたいですか?」
「にゃっ!(無論だ!)」
フッと笑むに、馬超は、ビクリとしながらも、頷いた。
猫語になっているからか、態度も大人しい。
猫らしくなっているのだろうか・・・。
でも、姿は、馬超のままである。
(ここらへん忘れられがちである。)
は、何処からか、丸い手鏡を取り出し、馬超にその様子を見せる。
「張飛殿は、ミニドラゴン。」
どうやら、関羽に「どうしたのだ、翼徳!何かまた悪さをしたのだな・・・。」と呆れられ、劉備に至っては、腹を抱えて笑われていた。
「はっはっはっ!翼徳、 を怒らせたのか・・・。これはまた難儀なことを・・・ぷっ。」
彼は、「きしゃ〜、しゃげ〜!きしゃ〜!( 〜!何とかしてくれ〜!兄者!そんなに笑わなくても良いだろ!)」等と叫んでいた。
の力の断片を鏡も持ち合わせているのか、副音声もキチンと訳して聞こえた。
「・・・・・・。(ちょー、アホだ。)」←自分の事はどうした。
「そして、姜維殿は、ネズミ。」
諸葛亮と、月英の元に、無事に書簡を運び終えたのは良いが、彼らに何を問われても、
「チュー!チュチューー!(じょ、じょうそぅううう!どうしましょう! を怒らせてしまいました!)」
としか話せない姜維は、ネズミ語を話しながらも、赤くなったり、青ざめたりしながら、諸葛亮に泣きついていた。
その様子を、彼らは、宥めながらも、めちゃくちゃ可笑しくて笑い出しそうである。
「にゃっ!にゃにゃにゃっ!!(ぶっ ←噴出し。)(ありえぇぇええ、くらいに面白い!)」
「そして、趙雲殿・・・。ゴマフアザラシ・・・。」
「にゃっ?(なんだそれ?)」
ゴマフアザラシが分からない馬超は、クキックキッと、未だ(多分一生あり得ない。)首を捻って見た事も聞いた事も無い物を思い浮かべようとしている。
しかし、知らぬものはどんなに発想力を働かせても分かるハズも無い。
「ここよりも遥か北方の地に生きる生き物ですよ。今回はその子供です。」
「にゃ〜ぁ〜。(そんな事言われても、わかんねぇよ。)」
最後に鏡に映し出されたのは、奇妙な鳴き声を発する趙雲だった。
「きゅ!?きゅ〜!きゅぅううううう!(うわぁぁぁぁぁぁ! 殿ぉ!何とかして下されぇ!)」
彼はどうやら、兵卒の鍛錬の最中だったらしい。
そのまま、 が術をかけたまま声もかけずに立ち去ってしまった為、自らの身に何が起きたのか知らぬまま、鍛錬の時間になって知らぬまま指導に入っていたらしい。
彼の異変に気がついても、どうする事もできない兵卒達は、「趙雲殿がご乱心だ!」とか、「医師を!いや、こういう時は、諸葛亮殿を呼んだほうが良いのか!」とかあたふたしている。
が、彼らの様子は、上官である趙雲に気を使ってはいるものの、今にも、噴出したり、笑い出しそうになっている者が多い。
その証拠に、口元を押さえたり、目を隠してみないようにしたり、腹を押さえて何か我慢しているものが多い。
「にゃ!にゃにゃにゃっ、にゃっ!!(ぶははははははははははは!傑作だぜ!趙雲!)」
馬超は、その様子を見ながらも、自分の事を棚に上げて、腹を抱えて笑い転げている。
「で、馬超殿は、ネコさんです。」
冷静に、鏡をしまいながら、 が言い放つ。
「しばらく、それで頑張って下さいね。」
そう言うと、スッと扉の方へ近寄ると、「もう、宜しいですよ。」
と、扉の外に話しかけると、キィィィィと、扉が開き、仁王立ちをして、黒い笑顔に青筋を立てて怒っている馬岱がそこにはいた。
「あ〜に〜う〜え〜(怒」
「にゃああああ!(ひぃぃぃ、岱!)」
馬岱は、キラリと、目を光らせると、
「今日という今日こそは、大人しく執務をして頂きますよ。」
馬超の襟首をヒョイと掴むと、引き摺りながらの部屋を後にした。
「感謝いたしますよ、殿。こうでもしない限り、兄上は、チョウチョの如く外に出たがりますからね!」
その後、馬超の執務室では、ホクホクした顔で兄が筆を書簡に滑らすのを見守る馬岱と、「にゃ〜にゃ〜」と、奇妙な声を上げながら机に張り付いて、必死に溜まりに溜まった執務を頑張って片付ける馬超がいた。
そして、訪れる来訪客は、その姿を見て、必ず腹を押さえているか、目尻に涙を溜めていたり、笑いを堪えきれず、大笑いして退室してくるものが多かったとか。
彼らは、皆思った。
そして、2度と、を怒らせたりするまいと、心に誓ったのだった。
はてさて、その心の誓いがいつまで続く事やら。
その答えは、神のみぞ知るのかもしれない。
↓↓作者・智弘様のアトガキ↓↓
飛鳥様!
風邪だそうで、智弘も、先月社員旅行直前に(日帰り旅行です。)風邪をひいて、根性で治しました。
まぁ、風邪気味で、直り途中のまま、旅行に参加しましたけど。
早く直る事を祈ってます。
今回の作品は、お見舞いに差し上げます。です。
飛鳥様のみ、お持ち帰り、OKです。
智弘
2006年10月12日
↓↓ここからは管理人のアトガキ↓↓
たかが風邪(万病の元とも言う)の私に素晴らしい夢をありがとうございますwww
こういうクロいところ…管理人も実は持ち合わせておりまして(こら
素敵な設定にキャラたちの狼狽振り…思い切りツボでした♪
そして…私の中では。
キャラたちが着ぐるみを着ていました(腐ってる…
本当に素敵な夢をありがとうございました☆
飛鳥 拝礼
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