スカイブルー、ってこういう色の事を言うんだろうな。
私の住んでる都会とは、やっぱり違うわね。
小さな空港を出て天を仰いだは、あまりの眩しさに目を細めながらふと、思った――。
世界で一番ヤバイ夏
――それは、一本の国際電話から始まった。
長期休暇を取って南国にてバカンスを楽しんでいるはずの親友――。
その彼女からの突然の電話にちょっと驚きながらも話を聞いてみると――
どうやらその地ではかなり楽しく羽を伸ばせるっぽく、私に来ないかって言って来たんだ。
奇しくも、この私も数日後から長期休暇で丁度いい。
予定もなく自宅でだらっとするのも何だし、こりゃ誘いに乗らなきゃ損だわ!と思ったわけ。
――そして私は直ぐに飛行機のチケットを買って、とっとと都会の蒸し暑さから逃げるようにの滞在する土地へと向かった。
やっぱり、南国の暑さはいいっ! 空気は爽やかだし、何より汚れてないもんね。
こりゃ、がはしゃぐのも無理ないわ。
さってと…時間は言ってあるし、が迎えに来てくれてると思うんだけど………。
ブロロロロロロ………
キキィッ!!!
「HEY!、ウェルカム トゥー パラダイス!」
「どっ………何処のエセ外国人だアンタわっ!」
真っ白なオープンカー――しかもアメ車だよ――で颯爽?と登場するは私を南国の世界に誘った張本人。
グラサンかけてたから一瞬解らなかったわ、ちくしょ。
だけど、ヤツが座っているのは運転席じゃない。
じゃ、運転手は誰だ???
そう思った私の心を読んだのか、はたまた空気を読んだのかは解らないけど…
次の瞬間、蝶柄のアロハを着た運転手が徐にグラサンを外しつつこっちを見た。
「ようこそ、美しい方――殿。 さぁ、我々と一緒にいざ、華麗なるビーチへっ!」
「………ごめん。 思わず張コウの勢いにつられちゃった♪」
「あはははは………」
人はものの数日でこんなにも変わるのか。
私は、親友のあまりの豹変振りにもう笑うしかない。
それでも――
これからのバカンスは間違いなく楽しくなりそうだわ!
私は、言われるでもなく後部座席に荷物を放り込むと、ひらりとその隣に飛び乗った。
小さな島、といっても来てみれば結構広い。
私と、そして張コウという運転手?が乗るアメ車は広い町並みを抜け、海が広く見渡せるビーチに着いた。
ホテルに行く前にビーチでも案内しましょう、との運転手の配慮らしい。
頬を撫でる風をもっと感じたくなって、3人は車を置くと裸足でビーチへと降り立った。
「うっは、海の底が透き通って見える!」
「どうですか、殿? この海、この砂浜! あぁ、なんと美しい!」
「うん、本当に綺麗! 張コウ、ありがとう」
――と、言ってる私を余所に、波打ち際を華麗に走り出す張コウ。
喋らなきゃ絵になるんだろうけど………
ん?
私は発見してしまった。
近くに居る張コウよりもずっとずっと絵になる姿を!
――潮風に揺れる、長い銀糸の髪。
日差しをものともしない、白く透き通るような肌。
そして…
見事なプロポーションを包むには些か小さすぎる感のある、鮮やかなエメラルドグリーンのビキニ――
何もかもが見事すぎる!
これだけ完璧な女性を、私はいまだかつて見た事があっただろうか!?
…なんて、ナレーター調になる程素敵な出で立ち。
なんて綺麗な女(ひと)なんだろう――
と、思ってたら…その女性、いきなり何を思ったのかテトラポッドの並ぶ堤防の方へとすたすた歩いていく。
…歩き方も凛としていて神々しいわぁ…
おっと、今は彼女を追わねば!
「ごめん、張コウ…私、ちょっとあの女(ひと)、追っかける!」
私はこの世の者とは思えない素敵な女性をこのまま逃すものか、と言わんがばかりに追いかけた。
後ろで 「殿! あの女性はっ――」 って張コウが叫んだような気がするけど………
………ま、いっか。
追っかけて来たはいいけど………どうやって話しかけよう?
何時もの突っ走りに私自身辟易するわ。
てか、あの人は現地の人なんだろうか? それとも――
………ん?
堤防に視線を移すと、テトラポッドに腰を掛けてる男の人がいる。
いや、あれは寧ろ少年に近い。
ちょっと激しく打ち付ける波飛沫が身体にかかってもまるで気にしない彼。
一体、あんな危険なところで何をしてるんだろう?
ってかあの女(ひと)、あんなところに行ったら危ないじゃん!!!
…と、私が更に近付こうと思った瞬間――
「ちっ、やはり人の子の住む海で釣りをしていてもつまらぬな。 全く釣れぬ」
手持ちの竿を肩に担いで、吐き捨てるように一言。
そして――
ザバーン!
海から顔を出すなり高笑いする男。
「はっは! 直ぐに飽きるところが坊主の悪いところじゃな!」
「うっ…煩い!」
「釣れぬのが嫌なら潜ればよかろう。 やはり魚を獲るには潜るに限るわい!」
「伏犠、貴公と一緒にするな」
うーむ、これが海のど真ん中だったら解らなくはないけど………
そこ、堤防だよ!? 危険なんだよ!?
それを…海釣り? 銛を持ってダイビング?
伝説でも作ろうと思ってるのか、この人たちはっ!?
しかも、あの女の人も同じ類の人だったらしく
「あっはは! やはり釣れぬか…坊やが坊主とはこれいかに、だな」
少年に向かって大口を開けて笑ってるし。
うん、まぁ…確かに見た目も人間離れした雰囲気を持ってるけど…。
…ここはとりあえず戻った方がいいかな。
君子危うきに近寄らず、って言葉もあるしね。
こうして、私は二人のところに戻った。
そして、直ぐに張コウから教えてもらう。
あの人達は仙人で、時折この地に来ては人の世を楽しんでいるんだって。
ふーん、そういう仙人も居るんだ………なんて思いながら後ろを振り返る。
すると――
堤防では、他の二人に海へと引きずりこまれる少年仙人の姿が見えた――。
再び車は海沿いを走り、も滞在しているというシーサイドホテルに着いた。
張コウの仕事はここまでだったらしく、
「あぁ、殿のような美しい方とお別れするのはまことに残念なのですが――」
と言いながらアメ車と共に去って行った。
なかなかに面白い人だったわね、あの人も。
「おっ、…お色直しは終わったわね」
私がチェックインして部屋に行き、濃紺のドレスに着替えて戻ってくると――
は既にワインレッドのドレスに身を包んでいて、ロビーのラウンジでコーヒーを飲んでいた。
が言うには、この後ある人と待ち合わせをしているらしい。
ここに来て間もなく、ひょんな事から仲良くなったって言っていたけど、
「ホントに素敵な人なのよ!」
と力説する彼女からは恋する女の雰囲気がありありで、『ひと夏の恋』にちょっと嫌悪感を抱いている私にとってはとてもあり得ない事だった。
いくら素敵な人だって言っても、一度繋がった絆をひと夏の夢で終わらせるには哀しすぎる。
………そんな私も、夢多きお年頃なんだけどね。
私もコーヒーを頼み、ほっと一息ついていると――
「! 来た来た! あの人たちよ!」
ソファが跳ね上がるほど勢いよく立って入り口の方へ指を差した。
その勢いに気圧されながらも、反射的にその方向へ目を向ける。
………えっ?
こっちに歩いて来る二人の紳士に、目が釘付けになった。
しゃんと背筋が伸びたその出で立ちは雄々しく、武器を持って戦に出れば味方の士気が一気に上がりそう。
…うわ、これはが惚れるのも無理ないわ。
「ようこそ、我らが南国の島へ――貴女が殿のご友人の殿、ですね?」
「は、はいっ!」
「私は真田幸村と申します。 そして…こちらは――」
「私はの名は陸遜、字は伯言と申します。 殿、よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします…」
赤みがかかった黒のタキシードに身を包んだ二人はまさに紳士そのもの。
その二人が目の前に座って来たもんだから、私の心はもういっぱいいっぱい。
何よ、人の子でもめっちゃカッコイイ人、いるんじゃない…これはジャ●ーズなんかメじゃないわよ。
って、いっぱいいっぱいの心の中で呟いてみる。
すると、幸村と名乗った紳士の一人が徐に立ち上がる。
「来たばかりで申し訳ありませぬ、殿。 私はこれからお館様が主催する宴の準備に入らねばなりませぬ」
「お館様………?」
「えぇ、私の仕える方――武田信玄様です。 この宴には貴女方も招待しておりますゆえ、今しばらくお待ちくだされ」
「は、はい………」
…なーるほど。
が 「ドレスアップしてきてね♪」 って言ってた意味が今解ったわ。
つまりは、待ち合わせをして…男女同伴でパーティーに参加するって事ね。 了解。
でも…このどちらかが私のパートナーになるとして…どっちだ? 全く解らん!
すると、の行動で自ずとその謎は直ぐに解けた。
「あ、幸村! 私も一緒に行くわ」
「殿…貴女を無駄に動かせるわけには参りませぬ」
「ううん、いいの…貴方と出来るだけ一緒に居たいから」
「ならば…どうぞ、姫」
「ありがと、幸村」
極々自然に幸村のエスコートを受け、歩いていく。
…のお目当て…ってか、お相手は幸村の方だったか。
そしたら、必然的に私のお相手は――
「殿、私では不服でしょうか?」
「ううん、そんな事はないけど………会ったばかりだよ?私達」
「ならば、ここでしばらくお話でもしましょう。 私は、貴女の事が知りたい」
殿からよく話は聞いていましたが、とくすり笑う陸遜。
ヤツはどんな事を言ったんだ?って疑問は残るけど…その微笑みがとても眩しくて、私に彼はもったいないかも、と思う。
歳は私よりも下っぽいのに、私の言葉を上手く引き出すような言葉遣いや物腰は洗練された立派な大人に見えた。
そんな彼から言われた言葉――
――私は、貴女の事が知りたい――
クサイ台詞も、彼にかかったら呪文のようで………隙がなかったはずの私のハートがいとも簡単にくすぐられた。
私も夢多きお年頃。
なら、今夜の宴で………ひとときの夢、見させてもらうわ。
「了解。 その代わり――私にも貴方の事、たっくさん教えてね!」
現代社会に揉まれ、生きている女――と。
二人にとって――
世界で一番ヤバイ夏は、まだ始まったばかり――
劇終。
アトガキ
まはなさん、ハッピーバースデー!
…というわけで、こちらのお話はまはなさんへの誕生日プレゼントです!
(2日ほど早いですが………)
因みに、これはリクエストを受けたわけではなく――
完全に押し売りです!(←言い切った!
まはなさん宅にて『m+Beach』という南国と無双のコラボ企画が開催されていてですね…
(私が勝手に言っている別名は『南国無双』w)
発動前からまはなさんには「絶対参加する!」と豪語していまして…此度このような形で実現v
お題の提供はしておりましたが、作品にて参加するのがずっと楽しみでした。
もっと盛り込みたいネタはわんさかあったのですが――あまりにも長くなるために凝縮(ぇ
そして――
余裕があったらまた参加したい…という事でこのような終わり方にしてみましたwww
誕生日プレゼントにしては些かつまらないものではございますが…
宜しかったらお納めくだされ、まはな殿w
最後に、ここまで読んでくださった方々へ心より感謝いたします。
2009.02.24 御巫飛鳥 拝
ブラウザを閉じてください。