目覚まし代わり。









と張遼の出会いは、1年ほど前に遡る。
今でこそ、曹操の下でその腕を奮っているが、2人が出会った頃まだ、
そのころ張遼は、呂布の元で、その右腕と言っても過言ではないだろう活躍をする猛将であった。



ある小雪が降り注ぐ冬の日、呂布が赤兎馬で遠乗りに出かけ、帰ってきたと思えば、
まだあどけなさが抜けきれない少女を神妙な顔をして「拾ってきた。」と言った時には、
城の女官達を始め、張遼や貂蝉は驚きを隠せなかった。
諸将の中にはあまりに驚いたのか、あんぐりと口を開けて固まっている者もいた。



陳宮においては、深い溜息をつきつつも、ビシビシッと嫌な効果音でも付属できそうな勢いで額や顔に青筋を浮かべ、
オドロオドロしい空気をかもし出し、今にもその口や目から火を噴きそうな様子である。


その様子を他の文官達は「私は何も悪い事はしていないはず・・・」「な、何も見てない。何も見えてない。うん。」
等と青い顔をしながら遠巻きに様子を見守っている。


陳宮の言い分も最もである。
執務を途中で放り出し、執務室にいないと思えば、赤兎馬で遠乗りに出掛けた挙句、やっと帰って来たと思えば、
見た事もない衣服を身に纏った異国風の娘を、大事なものでも持ち帰ったというように、その腕に抱え込んで
(いわゆるお姫様抱っこである)いたのだから。
取りあえず理由はどうあれ、一応叱っておこうと思うのも、自然な行為である。





「とぉ〜の〜ぉ(怒)」
「なんだ、陳宮。」
むしろいつもの事で慣れているのか、しれっと言い返す呂布にさらに陳宮はムムッと顔をしかめる。


そして、周りの人間達は「あぁ、また雷が来るぞ。」「大変だ!」「へそを隠せ!(?!)」
等と、小声で囁きあい、皆そろって耳を塞いだ。


その後に、陳宮の鶴の一声が城に響き渡った。
呂布は顔をしかめつつも、「そんなに怒鳴ったら、この娘が驚いて起きるだろう。」
と、返していた。


連れて帰った娘が辛うじて息をし、冷たく冷え切っていたため、すぐ部屋を温め、丁重に扱いつつも、風呂に入れろ!
と、命令を出すと呂布は陳宮を始め、張遼や貂蝉に執務室に半ば強制的に連れ戻され、事の一部始終を話していた。



「俺が赤兎で駆けていたら、あの娘が落ちてきたのだ。」


「簡潔すぎます!」張遼が顔をしかめつつ本音を言う。



「仕方ないな。」と溜息をつく呂布に、口には出さないが心の中で「(溜息をつきたいのはこちらですよ。)」
と、皆が悪態をついていた。



彼が言うには・・・要するにこういう事だ。




今日に限って、彼のお気に入りの場所ではなく、その反対方向へと取りあえず行ける所まで行こうと決め、駆けていた。

すると、しばらくして、不自然なくらいもりもり降っていた雪が前触れも無くフッと途切れ、
赤兎馬が珍しく嘶きピタリとその場に立ち止まってしまったのだそうだ。

そして、何事かと思っていると、雪をを降らせていた雲のちょっとした隙間から、
黄金色の柔らかく差し込む光の筋に守られるようにして何かがゆっくりと落ちてきたのだ。

最初は何かが落ちてきている位にしか思わなかった。
その落下地点を目指して、再び赤兎馬が行き成り駆け出し、呂布も振り落とされないように手綱を握った。
しかし、だんだんとその落ちてきている物との距離が縮まるにつれ、それが人である事に気がついた。

ゆったり落ちているにしても、このまま地面に落ちたら、無傷ではすまないだろう。
さらに、ここで呂布が放って見てみぬ振りをしてしまえば、雪の降る中、凍死してしまうだろう。

見捨てる事など出来なかった。


馬中の赤兎馬、人中の呂布等と言われ、戦場では鬼神やら、野獣呂布等とも恐れられる彼にも良心はあった。



「だからと言って、連れて帰ってくるなど・・・」
全てを聞き終え、陳宮が彼に意見すると、


「ならお前なら、誰一人通りもしない雪原に武器も食料も持たぬ娘を1人見捨てられるのか。」
そう問い返されれば、返す言葉がない。


きっと自分であっても、哀れに思って、連れて帰るだろう、と思ったから。


「そうは申されても、どこぞの間者とも刺客とも取れぬ娘を連れてくるなど、後はどうされるのです。」
張遼が黙り込んだ陳宮の代わりに口を開く。


「あの娘がどこかの国の間者に見えるか、張遼。」
「魏の曹操など怪しいではないですか、もしかしたら最近頭角を現し始めた蜀の手の者かも。」


「張遼殿、でも、あの方、あの様な細腕ではどのような武器を操れないと思います。」
貂蝉が珍しく反論する。
「それに、何の装備もせず雪原に女性が1人・・・とは無用心極まりないですわ。」
きっと何かあったのですわ。
と、貂蝉は溜息をついている。
同じ女性という事で、未だよく知らない娘の事でも、心配しているらしい。


「し・・・しかし、そうは申されても、ですな・・・。」
「要(よう)は、あの娘が目を覚ましてからでも遅くないではないか。」
呂布が最もな事を言い、

「もし、どこぞの間者と分かった暁には、即刻城を追い出すか、処遇を判断しますよ。」
と、陳宮が言う。


忙しいので、これで御前を失礼いたしますよ。と、陳宮はこれ以上何を言っても、
呂布の意思を変えることは出来ないと判断したのか、溜息をつきつつ、「次に執務中に抜け出したら許しませんからね。」
等と忠告を残しつつ、左右に首を振りながら、さっさと呂布の執務室を出て行ってしまう。



「わ、私も、彼女の様子が気になりますので、失礼しますわ。後ほどまたお会いしましょう、呂布様、張遼殿。」



「うむ、ではあの娘の容態を後ほど伝えてくれ。」
その言葉に頷きつつも、貂蝉も、優雅に執務室を去っていってしまう。


その場に残されたのは、張遼と呂布のみ。
静かに続く沈黙が痛い。


この場に残るという事は、未だ呂布に大して「異議申し立てがある。」という事に他ならない。


「呂布殿、見知らぬ女子を城に置くなど、寝首をかかれたらどうされるおつもりか。」
「しかし、空から降ってきたのだぞ。」
「目の錯覚でしょう。」
「天から降ってくるなど、まるで天女ではないか!」
「魔物の類かもしれませぬぞ。」
「手厳しいな、張遼。女の1人や2人にそう易々と俺はやられぬぞ。」
心配性だな。と言う呂布に張遼はカチンときたのか、


「そのような怪しい者は風呂に入れて、部屋で寝かすよりも、牢獄に入れておいたほうが相応しいでしょう。」
と、勢い余って怒鳴ってしまう。



これには呂布もムカついたのか、
「それほどまでに俺が連れてきたあの娘が疑わしく、なお且つ信用に欠けると言うのであれば、
お前にあの娘の保護を頼むとするかな。」

と、怒りの勢い半分、むしろ本心半分で言い放つ。

「な、なんですと?・・・い、今何と・・・。」
呂布の言った事が信じられないのか、張遼は思わず聞き返してしまった。

「なに、そんなに疑わしいのであれば、俺の下に置くよりも、忠実な臣下であるお前がその保護者となり、
疑わしき者かどうか見極めれば良いであろう。」


ニヤリと口元を歪ませる呂布とは逆に、自分の身にまさか厄介ごとが降りかかろうとは思わなかった張遼は、
心なしか青ざめている。


「なに、嫌なのであれば、俺の元に置くが。」
丁度、娘の呂花の話し相手にも良かろう。
彼にしてはかなりご機嫌である。


等と勝手に話を進めてしまう彼に、
「分かりました、私が保護者として彼女を引き取りましょう。」
と、勢いに任せて口約束をしてしまう。


「ふん、俺の目を誤魔化して、手荒な事はするなよ。」

呂布は満足そうに口元に笑みを浮かばせていた。














そしてその後、張遼の下に引き取られたは、「命を救われたのですから、私も戦います!」
と言いきるが、「武器は何をお使いになられる?」と聞いた張遼に、
「私には護符と式鬼神がいるので大丈夫です。」
シャキ〜ンと何処から取り出したのか数枚のなにやら怪しい文字やら、模様の描かれた護符を構える。
「ね。」等と首を傾げるに、ピシャーンと張遼に雷が落ちたように、
何やらショックを受けている彼はをジッと見つめたままピクリとも動かない。




しばしの沈黙が2人の間を流れ、先に動いたのは張遼だった。





張遼は思わず「大丈夫では・・・・・・ござらん!」
彼はをヒョイと抱きかかえると、鍛錬場に向けてスタスタと歩き出した。



が「1人で歩けます。」と言っても
「いや、殿は、お構いなく!」等と言い返され、聞き入れられる事すらなかった。
「(張遼殿は特に構わなくても、私はとても恥ずかしいのですけどね。)」
ジタバタと抵抗していたも、もはや無駄だと悟ったらしく、大人しくシンデレラ抱っこをされ続けた。



廊下で出会い、すれ違う女官達や下男達が、
「今日もお2人揃ってアツアツですわね。」
「いつご成婚なさるのかしらv」
と、顔を赤く染め、


「見ているこちらまでほのぼのいたしますな。」
「いや〜まことに。」
「早く娶らないと、他の方に奪われてしまいますなぁ。」
等と交わす会話まで聞こえてきて恥ずかしさ2割り、3割増し・・・いや、倍増である。



「(早く・・・取りあえず何でも良いから、早く鍛錬場に着いて〜!)」
の心の叫びが張遼に、ついに聞こえる事はなかった。








鍛錬場につくと、張遼は彼女をポンと地面に降ろすと、「しばしそこでお待ち下され。」
と言い残し、倉庫に置いてある武器を色々と持ってきた。


1人では運びきれなかったのか、下男達が3人ほど、張遼の持ちきれなかった分の武器を持って、彼の後ろをついて来た。

の前にどっちゃりと積み上げられた武器の数々・・・。



そして、下男達に下がるように命ずると、張遼は「さぁ、使えそうな武器を選んで下され。」
と、に告げる。



「この中から選ぶのですか。」
驚きつつも、その武器達を上から下までじっくりと見ている
よくまぁ、20も30も軽く越えるであろう武器の数々を張遼の館の倉庫に詰め込んであったものだと感心する。
「えぇ、お好きなのを選んで頂いて構わん。」
むしろ、選べと言わぬが如く、張遼が薦める。


は鍛錬場の床に、こんもりと積まれた武器の前に歩み寄ると、その山の前に立つ。

「こんなに沢山・・・積まれても選ばれるのは1つなのですけど・・・。」
下の方にある武器が良く見えませんね〜。

と、おもむろに、護符を1枚何処からか取り出すと、武器の上に置く。
高く積まれた武器達は一つ一つ、すっ、すっと何かに持ち上げられたように刃が上に来るように縦に持ち上げられ、
張遼との周りを宙に浮きながら、一列に綺麗に均等に並びながら、大きな円を二重に描いた。


張遼がその様子を驚きを隠せぬ面持ちで見つめるのを余所に、は、「これで見やすくなりましたね。」
と、外見からは分かりにくいが嬉々とした表情をしている。


色々手に取ったり、構えたりしてみるが、どれも女性であるの手には合わなかったり、大きすぎたり、重すぎたり。
自ら持ってきたくせに、が典韋が持っているような斧など持とうとした時には、
「女性がそのような武器を持ってはいけません。」と、止めていた。

は内心「(だったら、なぜ倉庫から持ってきたのだ。)」と思っていた。
どうやら、手当たり次第色々持ち出したため、何だかよく分からない物まで持ってきていた。

あれだけ沢山並べたのに、どれだけ試しに持ってみようとも、全て、に合う武器ではなかった。

「・・・・・・(汗」
「・・・・・・すみません。」
ず〜んと2人そろって落ち込みつつある彼らを下男や女官達がどう、慰めようかと遠巻きに見ている。



「あの、張遼殿・・・やはり、私にはこの武器が合っているようです。」

彼女が何処からか取り出したのは見た事も聞いた事もない形をした武器であった。

「そ、それはなんですかな。」
恐る恐る聞く張遼に、「これはフォース銃といいます。」という

「は?」
素っ頓狂な声を出す彼に、「実は以前にお世話になった事がある、とある方から護身用に持っていた方が良い、
との事で遠慮なく頂きました。」




【絶対に持っていったほうが良い、悪さするような不届きな奴らがいたら、これで『脅し』てやる事も出来るから、
便利だぞ。お前は彼の者の為の白の魔女なのだから、充分な魔力も持ち合わせているようだしな。どうだ、
このくどすぎない銀のボディ、どんな属性をも打ち出す機能性!繋ぎ目がないこのシンプルかつスレンダーなデザイン!
かの魔術師が錬金術によって編み出した全宇宙に数少ない物だぞ!今なら、特製銃ケース付!】


凄いだろう!などと言いつつ、他にも使用者がつけるべく特製パッチもあるぞ!
(耳たぶの後ろにつけると利き目の反対側の目に狙い的や使用者のみに効果がある音声ガイダンス付)
【ここに、使用者の変更で名前を登録して〜、指紋と目の紋も登録して、使用者以外が使おうとしても
防犯機能が発動して電撃ノックアウトしてくれるし、自動的に機能が停止するし、手元から離れても、
意識すれば飛んで来るし、便利なことこの上なしだ!】



その言葉を聞きながら、「(なんだか、某TV通販番組でも見ているみたいだわ。)」
等と思っていた事は口に出さなかった。


お金があっても手に入るわけでなく、手に入れても使える能力がなくてはただの玩具。
スター●ォーズで特殊な剣を振るっていた、あのジェダイが使っていた剣に近いぞ!等と笑いながらも手渡してくれたのだ。
そんな貴重なものを持つべき者が持つべきだと譲ってくれたのを、悪いのではないかと思いつつ、受け取る事にしたのだ。






「こ、これが・・・・・・ぶ、武器ですか?」
「えぇ、この世界にも、私の世界でもない他の世界の物ですけど。」
まさしくこれこそ、オーパーツですねぇ。等と言うに、【オーパーツとは何ぞや。】と、問うのを忘れ、
その武器をまじまじと見つめる張遼。



「どのように使われるのですか。」
それを構えるに、問うと、彼女は、「これは、使用者の魔力に比例した力を具現化するものです。」
こうやって〜、と構える


滑らかで角が1つもなく、ギラギラし過ぎない銀色が美しく、大きすぎず小さすぎない小型銃。
中に何やら怪しげな光を湛えた、透明な液体が篭められていた。


銃などあり得ない時代、火薬も貴重(だと思うけど)な時代。花火などあり得ないそんな時代。
見た事もないし、どのような文献でも読んだ事もないその「銃」という武器を物珍しそうに、
興味津々の目で張遼が見ている。


「銃口の向こうに張遼殿が立っていても問題ないですよ。これは頭の良い頭脳を持つ武器ですから、
使用者の考えや意識を読み取って、敵であるか味方であるか、自分に対して害を与えるものであるかどうか、
瞬時に理解してくれます。どんな攻撃を仕掛けたいのかも分かってくれます。
ただし、使用者の力によりますから、魔力の無い者が使えば、それなりの威力しかありません。」


「これがあれば、私は充分、安全です。お手数おかけいたしました。」
そう言い切り、深ぶか〜と礼するに、他の武器を持たせる事を諦めざるを得なかった張遼。











そして、1つの時代が終わり、張遼が仕える主が曹操に替わった。

そう、促したのは、他でもないである。
「時は既に、新たな者達の舞台に変わりつつあります。その時代の到来を共に迎えましょう。」と。
「呂布殿と、貂蝉殿は私が他へと逃がしました。」
ご安心下さい。と、が張遼に小声で耳打ちする。


思い残す事がなくなった彼は「では、参ろうか。」と、の手を取り立ち上がると、
2人は曹操のいる本陣へと馬を走らせた。

曹操に2人揃って「武将としてお仕え致します。」と、現れた時、曹操は良い人材(特に)が来たと、
ウキウキ上機嫌で、上座でバンザ〜イ等と怪しく踊りだしていた。
それを脇で青筋を浮かべて見ていた夏侯惇に「愛のムチ〜一発入魂(?!)」と念の篭められた油性ペンで
書かれたハリセンでバチコ〜ンと一発入れられていた。
が、曹操殿が怠けた時にでもお使い下さい。と夏侯惇に渡したものだ。)



「あいた〜!なにをする元譲!」
「一国の主が上座で小躍りするな!」
「ケチ〜!」
「うるさいわ、ボケ〜!」
上座でいきなり追いかけっこを始める新たな君主となりうる男とその家臣を見て、2人は思わず溜息をついた。


本当にこの人について来て良かったのだろうかと。






曹操の下に降って少し経った頃、賊対峙に行く事になった。
張遼とは2人揃ってその鎮圧に向かう事になった。


「明日(あす)は決戦ですね、張遼殿。」
殿は緊張しておりませんか。」


「いえ、それは平気です。貴方がいますから・・・。」



平気です。と、馬上で話していたがふいとそっぽを向いてしまったため、
最後までその言葉を聞き取る事は出来なかった。


その日は、賊が根城にしている場所に遠からず近からずの地で陣をはる事にした。


翌日、先に自らのテントを出たのはだった。


「張遼殿はまだ起きていないでしょうね。」
まだ月が端の方角に見えていた。
緊張していないなどと言っていたが、主な武将は張遼とだけという、
曹操が直々に賊対峙に行って来いとの命令を受けたため、嬉しくもあり、そわそわした気持ちを抑えつつだったためか、
何となく寝付けず、思わず早起きしてしまった。
まだ、出発まで、有に一刻半はある。
どうして過ごそうかと思いつつ、足はそのまま張遼のテントへと自然に動いていた。


テントの前で番をしている兵に声をかけると、
「張遼殿ならまだ寝ておられると思われます。」

そう言う兵に「私が様子を見てきます。」と、テントに入り込むと、
やはり張遼はまだ寝ているのか、布団がポコンともり上がっている。

は静かに近寄ると、
「張遼殿、起きて居られますか。」

声をかけても彼が目覚める様子はない。
起きているはずもないかも。と呟きながらも、よいしょと靴を脱ぎ、布団の上に上がると、
は張遼の顔をこっそりと覗きこんだ。


起きている時の彼しか見た事がないは、思わずドキリとした。
髪はいつもは帽子に隠れているため見た事はなかった。
キリッとした目は今は閉じられている。

ドキドキと心臓がなっているような気がした。
「・・・・・・っ」





「(こうしてみると美形ですねぇ。私的には蜀の趙雲殿が美形だと思ってきたのですけど、
灯台もと暗し・・・とはこういう事を言うのですね。)」
まじまじと見つめてしまう





等とぼんやりその寝顔を眺めていると、そのの腕をグイッと引っ張られた。
そして、布団の中に引きずり込まれてしまった。


「ひゃっ・・・・・・!」



張遼の体温で温められた布団の中に引きずり込まれ、一瞬の内にその腕の中に抱き込まれ、
何が起きたのか自分で自覚できないままでいると、耳元で囁かれた。


「夜這いですか・・・殿。」
大胆ですな。と、口角をうっすらと上げ、笑む張遼に思わず肩を竦める。


「いえ、別に、その・・・」
しどろもどろになるに、再び微笑むと、
「よく眠れませんでしたかな。」

頬に手を当てられ、顔を覗きこまれれば、
まだ暗いはずのテントの中でも良く見えるすぎるほど距離に張遼の顔が見える。
顔が赤く火照ってゆくのを感じて、
まだ、暗くて助かったとも思いつつ、その腕を離れようともそもそと布団の中で動いてみる。




「ち、張遼殿・・・(汗」
「何ですかな、殿。」
「はな・・・離して下さい。」
「何故ですか。」
「な、何故って、恥ずかしいですから。」
「私は恥ずかしくなどないですぞ。」
むしろ、嬉しいくらいですな。
とか何とか言われ、「(何〜〜?!)」絡まりあう思考で考える。



その腕がぎゅっと先程よりもきつく抱きしめられ、内心「(ひぇぇ。)」と叫ぶ。
殿。」
「ハイ・・・何でしょう。」
ジッと目を覗き込まれ、その目から逃げ出しそうな自分に心の中で叱咤しながらその目を見返す。
殿は、私の事をどうお思いですかな。」
「え・・・。」
「質問を変えましょう。私の事が好きですか、それとも嫌いですか。」
「・・・・・・嫌いではありません。」



「「・・・・・・。」」
互いに、なんと曖昧な答えかと思ったり・・・。


「私にこうされるのは嫌ですか。」
「嫌ではありません。」
それなら・・・と、張遼は軽くの額に口付けする。
思わず驚いて、張遼にしがみ付く


そこに自分は嫌われてはいないのだという感情を汲み取った彼は、に見えないようにニヤリと笑んだ。


「そ、その張遼殿が決して嫌いな訳ではないので・・・何と言ったら良いのか・・・。」
暗くても分かるくらいに真っ赤にの顔が染まっているのを確認して、
「それならば、これからは文遠と呼んで下され。」と、強請ってみる。


「・・・・・・っ・・・・・・ぶ、文遠殿・・・・・・ですか・・・・・・(照」


「(おちたな。)」
と張遼が実感して、力が抜けつつあるを自らの腕の中に収めつつ、首筋におもむろに口付けした。




その後、ドッカーーーーーーンやら、ズドーーーーーンやら、何と比喩したらよいやら、
魏の陣からもの凄い音がした。


「何だ、何事だ!」
「敵襲か?」
「どうやら張遼殿の天幕が壊れたらしいぞ!」
様〜、どこですか〜。」
兵卒や副官などが慌てて彼らを探し始める。

陣内がしばらく騒がしかったのは内緒である。





その頃、曹操のいる城では・・・。
「あの2人、上手くいったかのぅ。」
ポツリと呟く曹操に、
「いいからそんな事より仕事しろ!」
と、ハリセンをパンパンとならして、夏侯惇が言う。
「でも、あの2人、互いの気持ちが自分達に向いていると分かりつつ、それを自覚していないのだ・・・。」
恋は障害が多いのぅ、と言う曹操に、
「お前はどうしてそう、たかだか執務をするのに障害が多いのだ!」

スパパーーンと城の一室にハリセンの音が鳴り響いたのは言うまでもない。





そして、出陣時刻より一刻も早く、賊対峙に一向は出向く事となった。
言い換えれば、張遼の天幕が大損害を被っていたため、出陣せざるをえなくなったのだ。


頬に赤い手形をベンッと貼り付けつつも満足げな顔をしている張遼と、
赤くなった首筋を隠す為に布をスカーフのように巻いて、
終始無言で顔を少し赤らめつつあるが馬に乗り出陣していった。


馬上では張遼が色々と彼女に話しかけているが、軽くあしらわれていた。

殿。そのように照れなくても、宜しいですぞ。」

クックッと可笑しそうに笑いながら、馬の頭1つぐらいの距離を取り、のすぐ後ろを馬に乗りながら話し掛ける張遼。
「照れてません。(照」

「でしたら、少しこちらを向いて話して下され。」
紅潮した頬を見られまいと、前だけを見ながらは答える。


「この賊対峙が終わったら、あのようなものでは終りませんぞ?」
あんな事やこんな事も出来ますからな〜。


うんうんと頷きながら話し始める張遼に、はどーしたものか・・・とさらに赤くなりながら考える。



兵達は「(お偉いさんも、大変だな〜。)」
「(大変な人に好かれたものだな、殿・・・)」
「(張遼殿って、もしや鬼畜?!)」
「(俺、こんな将軍の下に仕えていたのか?このままでいいのか、俺。)」

等と考えていたり、会話していた事等は、内緒である。



「寝言は、寝てから言って下さい!」
と言うに、
「いえ、殿が天幕に忍び込んだ時、既に目は覚めましたゆえ、安心して下され!」
と即答され、
「(それはそれで安心できない!)」と心の中で叫ぶ。



「帰参いたした際には、殿に許可を頂きにまいりましょう!」
「許可とは・・・なんですか・・・。」
「貴方を我が下に妻に頂きたいと許可を頂く所存です。」


「はぁ?早すぎ・・・」
「いえ、呂布殿の下に居た頃より、お慕いしておりました。」
ズルッと馬から落ちそうになるを周りの兵卒達が思わず彼女を落ちないように支えてくれた。
「あ、ありがとうございます。(汗」
彼らに礼を言えば、
「いえ、頑張ってくだされ・・・。」
「俺達の事は気にせず・・・。」

等と言われ、笑顔が引きつってしまう。


さらに何か言いたげな張遼を尻目で確認すると、は馬の速度を少し落とし張遼と馬の鼻を並べると、
彼は嬉しそうに、ニッコリと笑んでに返す。
プイと、そっぽを向いてしまう彼女も「かわいらしい方だ。」等と笑っている。
恋は盲目とはよく言ったものだ。


しばらく互いに無言で同じ速度で馬を歩ませていたが、が馬を張遼の馬に寄せるように操ると、
いきなりは張遼の腕を掴んで引き寄せ、掠めるようだが、確実に張遼の唇を奪っていた。


一体何が起こったのか分からず、思わず目を見開く張遼と、
思わず目を見開きつつも顔を赤くしてサッと違う方向を見やる兵達。



張遼が気がついた時には、すでにが彼の元を離れて馬を走らせ始めていた。
そして、それに慌ててついてゆく彼女の兵達。


押してばかりだった張遼は、奥床しいとばかり思っていたの積極的な部分を垣間見てビックリである。
彼女が口付けた唇が、まだその感覚を忘れていない。


今、から口付けされた・・・「・・・・・・やってくれますな・・・眼が覚めたようですよ。」


数十メートルぐらい先にいるが馬の向きを変えて立ち止まる。
その先はすぐ目と鼻の先に、賊の根城がある。

後ろを進んでくる者達に向かって、は叫んだ。

「賊など・・・さっさと片付けて帰りましょう、皆さん!」

元々、魏にて人気の高かった
彼女の声に、兵達の士気は最高潮に高まってゆく。
そして、彼女が何処から出したのか、沢山の護符を取り出し、空中に漂わせると、
それがひとつひとつ意志を持った様に彼女の馬の周りにシュッ、シュッと風を切るような音を立てて、
その1つ1つが人の形をして地に降り立った。



「私の式鬼神達も参戦したいと申しております。皆さんから1人の死者も出さずに、
帰参したいと思っています。頑張りましょう!」



「「「「「「「「「「おおっ!!!!」」」」」」」」」」

その後、賊対峙は、あれよあれよと言う間に半刻で終ってしまった。
宣言どおり、1人の犠牲者も出さずに。



そして思わぬくらい早く帰還した彼らが、曹操に「結婚宣言」するまであと少し・・・。




















↓↓↓管理人のアトガキ↓↓↓

智弘様!!!リクエスト夢、ありがとうございますぅ☆
おしとやかに見えて実は大胆なヒロインさん…ツボでしたw
そして…文遠様の人となり…私はこういう文遠様の嫁さんになりたいっ(げふん

何気に甘く…何気にエロい文遠様が大好きです!!!(吐血

本当に素敵な夢をありがとうございました!!!

飛鳥 拝礼






↓↓↓ここからは智弘様のアトガキ↓↓↓


飛鳥様 わぁぁぁ。完成まで時間がかかってしまいました。
本当にごめんなさい。
そして、黒い黒い張遼さん そしてそれを見越してた曹操さん。
どうやら、2人の曖昧な関係に終止符を打つべく2人揃って賊対峙に行かせたみたいなんですね。




呂布に拾われてきた主人公ってどんなもんよ、と書いてから思った管理人でした。
私的には、張遼がヒロインに夜這いを仕掛けるバージョンも考えたのですが、逆が良いかなと思って書き換えました。


2006年11月17日  智弘





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