二つの乱世が一つとなった不可思議な世界。
受け入れざるを得ない新たな乱世を…今、私達は生きている。
この心に、揺るぎない想いを抱えて――
戦場に躍る恋い想い
「貴様らなどにこの地を乗っ取らせはしないっ!」
両手にした一対の得物を大きく振るい、敵兵に立ち向かう勇敢な娘・。
自身よりも遥かに大きい敵兵をいとも簡単に薙ぎ払っていく。
どれだけの返り血を浴びようとも、彼女の持つ剣の切っ先に一寸の迷いもない。
しかしその小さな身体に、今まさに別の刃が迫ろうとしていた。
刹那――
ガキンッ!
「私達の命が欲しかったら、もっと鍛錬してくる事ね」
走る一閃と共に張りのある女の声が聞こえた。
はっと息を飲み、が声の方を振り返ると…頼もしい戦友の背が直ぐ傍に見える。
「…!」
「、油断は禁物…でしょ?」
と呼ばれた女は一瞬だけ顔をに向けてにっと笑い、直ぐに敵兵の方に視線を戻した。
そして、先程の一閃で怯む敵兵の喉下へ己の得物を突き立てる。
「お…まっ……ぐはぁ…っ!」
の刃は、最期の一句さえも告げぬ程に深く、深く食い込んでいった。
は、その鋭いまでの剣撃に感嘆の声を上げる。
「相変わらず凄いですね、――」
「貴女もね、。 でもお喋りは後にした方がいいみたいよ…先ずはこの雑魚集団をなんとかしましょ」
「………承知っ!」
辺りを見回せば、何時の間に二人を取り囲んでいる異界の兵達。
それを挑発するような瞳で一瞥すると、は得物をしかと構え直して戦友の背に己の背を合わせた。
互いに背中を預け合うこの二人――
一見、古くから共に戦う友のように見える。
いや寧ろ…より親しい間柄――姉妹のようだと言った方が相応しいかも知れない。
それ程に、彼女達の息の合った共闘には目を見張るものがあった。
二人が率いる軍の素早い攻撃に、質より量の軍団が敵う筈もなく――
人垣のように取り囲んでいた敵兵は、何時しか残らず地に倒れ伏している。
周囲を見渡し、次なる増援の気配がない事を感じるとは漸くほっと胸を撫で下ろした。
「………ふぅ、とりあえずここは片付いたみたいね」
「そうですね、大将も討ち取った事ですし…では、他の軍を助けに参りましょう!」
だが、は未だ動き足りないらしい。
空いた両手を準備運動が如く動かしつつ満面の笑みを見せる。
この戦地よりも賑やかな街中が似合いそうな笑顔に微笑みで返しながらもは心の中でそっと呟いた。
やっぱり優れた将と謳われる武田信玄の娘ね、と。
しかし、この安穏とした時間は長くは続かなかった。
がの言葉に応じようと口を開きかけた刹那、背後に感じる只ならぬ空気。
この殺気とも取れる気配に、二人が恐る恐る振り返ると――
「様、殿…あれ程お待ちくだされと申し上げましたのに………」
「「…げぇっ! 幸村っ!!!」」
今にも爆発しそうな怒りを胸に秘めた青年が自慢の十字槍を片手に立っていた。
女二人――しかも、片や主君の娘だ――に先陣を切らせてしまっては彼にしたら立つ瀬がないのだろう。
幸村の全身から醸し出される雰囲気に、二人は慌てながら揃って言い訳を探し始める。
「ごめん、あ、あのね幸村。 これはのせいじゃないの…乱戦を突破しようと思ったら何時の間にかこんな感じになっちゃってて…」
「そ、そうなのよ! 敵に誘導されたって言うか…だからを怒らないでやって、ね――」
「…はぁぁ…」
女二人の美しいまでの友情に、幸村は大きく溜息を吐いた。
しかし、だからと言ってこのまま黙って見過ごすわけにもいかない。
唇をきゅっと引き締め、迫り来る怒りを抑えながら説教紛いの言葉を連ねていく。
――宜しいですか様、殿。
貴女方が幾らお強くても、突出するのは罷りなりませぬ。
これでは軍の和を乱す恐れがあります。
それに、様。
私は常に貴女をお守りするよう、お館様から言われております。
貴女がそのようでは、私はどのような顔をしてお館様にお会いすれば良いか――
説教の矛先は何時しかへと向き、このまま延々と続く――かに思われた。
しかし、ここでが話の先を言葉で遮る。
「――ちょっとごめん幸村。 一つだけいい?」
「はい…何でしょうか、殿」
如何にも彼らしい律儀な返事だ。
はそれを確認するようにこくり頷くと、幸村とをちらちらと交互に見遣りながらにんまりと口角を吊り上げた。
「前から思ってたんだけど、貴方がを護るのは他にも理由があるような気がするのよね」
刹那、突如吐かれたの言葉を聞いた二人が実に対照的な反応を示す。
「ちょ、と、突然何を仰るんですか殿!?」
余程思いがけなかったのか、幸村の顔が瞬時に上気し、コキンと身体を強張らせた。
一方、今迄幸村の説教でしゅんと首を垂れていたは顔を上げ、小動物のようなきょとんとした表情を向けている。
――思った通りだわ。
合点がいったらしく、はにんまりとした笑顔をそのままに一つ頷いた。
幸村が見せた解り易い反応――これは、自身もかつて体験した『恋』そのもの。
しかし、二人の間にある微妙な距離は幸村が前に踏み出せない事を物語っている。
大方お館様の姫君に邪まな感情など…とでも思っているのだろう。
そこには以前よりじれったい思いを感じていた。
この状況…如何にすべきかしら、といったお節介な思案を含めて――
ふと見ると、痛いところを突かれた幸村は依然固まったまま口をぱくぱくさせている。
………とりあえず彼の事は置いておこう。
「でもさ、貴女はいいわね…何時も傍に幸村が居てくれて」
このままでは話が先へ進まない。
そう思ったは、言葉を変えれば彼女の本当の答えも聞けるだろうとの方に話を振った。
すると――
「はい! 幸村の事はとても頼もしく思っております。
本当は………私も武田の娘、護られているだけではいけないと思うのですが…
それでも、幸村が居てくれるから私は安心して戦えるのです」
案の定、先程とは違った反応が返って来た。
しかも相槌を打ちながら覗き込むように顔を見れば、思惑通り彼女の言葉の裏にある気持ちも自ずと理解出来る。
彼を語るの瞳が、嬉しそうに輝いているのだ。
瞬間、は何かを確信したのかふふ、と喉の奥で小さく笑った。
なぁんだ。
もしっかり恋してるじゃないの。
まぁ、本人には自覚がないみたいだけど………。
そうとなれば話は早い。
あとは目の前でやはり固まっている生真面目君の背中をちょっとばかり押してやればいい。
は唇を軽くきゅっと引き締めると、笑みに先程とは少々違う雰囲気を乗せる。
「…でもね、。
今は戦乱の世――しかもこの地は異界の者の手で捻じ曲げられた世界、何が起こってもおかしくはないわ。
今歩みを共にしている貴女達も、何時離れ離れになるか解らないのよ――」
――私と、あの人のように。
だから、二人の絆をより深いものにしなきゃ。
固い絆があれば、例えこの戦地でたった一人取り残されたとしても挫ける事なく乗り越えられるから。
の言葉には説得力があった。
彼女の想い人が今、違う軍に居るのはや幸村も知るところだ。
は目が覚めたように両手で口を塞ぎ、はっと息を呑む。
「…! ごめんなさい、。 貴女が辛い思いをしているのに、私ばかり――」
「私は大丈夫よ、。 貴女達の世界で言う「しのびさん」からしっかりあの人の情報は聞いてるし」
考えなく放った己の言葉に反省しているのだろう、半分慌てた調子で詫びる。
その頭に手を添え、ぽんぽんと叩きながらは改めて未だ硬直状態であろう幸村を見遣った。
しかし――
「ありがとうございます、殿」
「………うわぁ! いきなり現れないでよ、幸村っ!」
突如背後に迫る笑顔に、は心の底から驚いた。
少々重いの言葉で、幸村の硬直状態が漸く解けたらしい。
しかし何処か吹っ切れたような笑顔を見て、は納得したような…それでいて茶化すような笑みを返す。
「…漸く目が覚めましたか、幸村殿?」
「えぇ、貴女のおかげです。 …今は未だ完全には踏ん切りはつきませぬが、何時か必ず様に――」
「そっか。 しっかり頑張んなさいよ、幸村」
は幸村の背を少々勢いよく叩きながらここまで言うと 「私の出番は終わりだ」 と言わんがばかりに踵を返し、二人に背を向けた。
二人の今後を、心から楽しみにするような表情を浮かべながら――
「んじゃ、私は先に行ってるわね。 お二人さんは後からごゆっくりどうぞー!」
――だが、話はそこで終わらなかった。
「待ってください、! 私も、貴女のようにより強くなるため、ご一緒いたしますー!」
「あぁっ! またしてもっ! お、お待ちくだされ、様ぁぁぁっ!!!」
突如背後から姦しい足音と二人の声が響く。
………どうやら、彼女はの言葉を違うように捉えたらしい。
は今直ぐ頭を抱えたくなる衝動を抑えながら、溜息と共に独り言を零した。
――前途多難ね、幸村。
でも…一体、は何時自分の恋心に気付くのかしら――
あとは貴方の頑張り次第、ってとこね――
劇終。
アトガキ
注意 : タイトルは 『いくさばにおどる こい おもい』 と読んで下さい。
ボキャブラリーが貧困でゴメンナサイ orz
というわけで、こちらのお話は――
昨年より懇意にさせていただいている『Kuulei』管理人・波音まはなさんへ捧げる相互リンク記念夢です。
こちらの夢を書くに当たってリクエストくださった内容は
『まはなさん宅のヒロインちゃんと拙宅のヒロインのコラボに真田幸村を絡めて』
…というものでした。
いやぁ、他サイト様のヒロインとのコラボは書いていて楽しいwww
しかも、まはなさん宅のヒロインちゃんは、ゆっきーと微妙な距離にある。
なんとも萌えぇ!な関係で…管理人は読む度に悶えまk(←やめなされ
余談はこの辺で(汗
リクエストを受けた瞬間に思いついたネタ、それは――
拙宅のヒロインを思いっきりお姐さんモードにしちまえ!という事(笑
しかし、微妙な関係の二人をちょーっと近づけちゃおうかな、なんて思った結果が…
微妙なギャグ雑じりのドタバタ;;
まはなさん、スミマセン…こんなんでもよろしかったらお持ち帰りくださいませ orz
そして、こんなアホー仕様のアタクシですが…今後ともよろしくお願い致します!
(因みに…拙宅ヒロインのお相手さんは、皆さんのご想像にお任せしますv)
最後に、ここまで読んでくださった方々へ心より感謝いたします。
(アトガキ、長くてすみませんでした orz)
追記。
このお話にピッタリなイラストを、まはなさんご本人からいただきました!
(同じく、相互記念です)
恐らく…このお話以上に悶える事請け合いなので、皆様必見ですっ!
イラストページにはこちらから飛べますよん♪
2009.01.22 御巫飛鳥 拝
(追記:01.27)
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