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あなたには敵わない。













大きな戦も未だ準備段階で。

安穏な空気が城内を支配していても…。

一月に一度は開かれる軍の会議。

今ある『平和』が………つかの間の物なのだ、と思い知らされる行事。

その緊迫感漂う室内にて…。







大きな地図を卓に広げ、大小の駒を置きながら陣形の指南をする陸遜に。

突如、耳を劈くような大声が降りかかる。

「グダグダと余計な事、考えてねぇでよ…来たヤツを片っ端からぶった斬りゃいいじゃねぇか」

「………甘寧殿」

皆に聞こえるように大きく溜息をつき、陸遜がやれやれ、とかぶりを振る。

「…これだから敵兵に『猪武者』だと言われるのですよ? 甘寧殿」

「はぁ? 俺にはそんな言葉、関係ねぇよ。 『戦』ってよ…総大将をぶっ倒しちまえばそれで終わり、だろ?」

「…貴方は…。 どうやら言葉の意味がお解かりではないようですね」

卓に両手をついて力説(?)する甘寧に、困ったような顔を向ける陸遜。

しかし、直ぐに何かを思いついたのだろう…その唇の端をくっと吊り上げた。

そして、「何が言いてぇんだよ」と睨みつけてくる甘寧をしっかりと見据え、言い放つ。

「ならば…甘寧殿、こうしましょう。 より多くの敵兵がいる方向へ、その都度私が指示いたします。それなら異存はありませんね?」

この陸遜の指示。

よくよく考えてみれば体のいい『掃除役』なのだが…。

余計な小細工が必要でない甘寧にはうってつけの『策』だったのだろう。

今迄憮然としていた表情が一瞬にして弾けた。

その場に立ち上がって腰に差していた『覇海』を鞘から抜き、肩に担ぎ上げると。

「おう! 流石は軍師殿、だぜ! 俺の事解ってるじゃねぇか。 …んじゃ、この話はこれで終わり、だな」

他の者が唖然と見つめる中「じゃぁな!」と手を上げ、意気揚々と自室に向かって踵を返す。

その背中を一瞥し、直後拳を唇に当てくくっと小さく笑う陸遜。

心の中で「やはり…『猪武者』は扱いやすいですね」と呟きながら。










軍議も終わり、皆がそれぞれの自室に向かい始めた頃。

陸遜は「さぁて、と」とのっそり立ち上がる凌統に声をかけた。

「凌統殿…ちょっと宜しいですか」

「ん? …何だい?」

「はい…。 実は貴方に…甘寧殿の援護を頼みたいのですが…」





陸遜は。

先程から甘寧と凌統の関係に乗じる策を練っていた。

和解したとはいえ、未だ『好敵手』と言った方が正しいかも知れない彼らの『微妙な関係』。

そこから…。

普段から飄々としていまいち掴み所のない凌統を如何にして『やる気』にさせるか…。





「あいつの援護? 俺がか?」

「はい。 貴方なら甘寧殿と上手くやっていけると思いまして」

「…まぁ、あんたが『やれ』って言うんなら…」

「全く、骨が折れるねぇ」と両手を挙げて首を傾げる凌統。

その思った通りの反応に陸遜は苦笑する。

やはり…普通に指示するだけでは駄目なようですね、と。

自身の胸の前で腕組をし、視線を宙に泳がせる。

そして、暫し思案した後…ふと何か閃いたように顔を上げると。

急に押し黙った陸遜を訝しげに見ている凌統と視線がかち合った。

「どうした? 陸遜」

「いえ…何でもないんですが。 ただ…今の貴方の様子では、甘寧殿に手柄を全て取られるな、と思いまして」

陸遜はそう言うと、仕事を離れた時のような柔らかい笑顔を凌統に向けた。

こう言えば凌統殿も黙っていないでしょう、と心の中でほくそ笑みながら。

すると、凌統は陸遜の思惑通りの反応を示す。

一瞬はっと息を呑むと、その目から炎が出るのではないか、と感じられる程に力の籠もった視線を陸遜に投げると。

「甘寧だけにいい思いはさせられないねぇ…。 それじゃ、思い切り暴れて甘寧と…あんたに一泡吹かせてやるよ」

甘寧と同じように意気揚々と自身の部屋へと戻って行った。

珍しく大股でどたどたと歩く後姿を見送りながら、陸遜はまたしても唇の端を吊り上げてくくっと笑う。

「お疲れ様です…凌統殿。 …これで他の方達もやり易くなるでしょうね」

全てが陸遜の策通りに動き始める………。










一人卓の前に座り、広げていた地図を片付け始めた陸遜の背後に一つの気配が近付いてきた。

何か言いたげなその気配に陸遜がゆっくり振り返ると。

「!! …英蓮」

そこには。

彼が今一番大事に想っている人、英蓮が立っていた。

陸遜は少々の動揺を覚えながら、それを押し隠すかの如く気丈に英蓮を見つめる。

英蓮。 軍議はもう終わりましたが?」

「いいえ、終わってないわ。 貴方は…未だ私の行動を指示してない」

「………」

「…で、私は何をすればいいのかしら?」

英蓮は自身の腰に手を当て、依然座っている陸遜の頭の上から声を叩きつける。

それには流石の陸遜も答えないわけにはいかない。

出来れば…「何もしないでください」と言いたい。安全な場所で自分の帰りを待っていて欲しい。

しかし、そんな事を言いようものなら…きっと彼女に叱咤を喰らうだろう。

「私は武将なのよ」と。

さて…、如何しましょうか。





何時しか目を閉じ、考え込んでいる陸遜を見据えながら英蓮は僅かに苦笑を洩らす。

陸遜の考えている事は手に取るように解る。

自分を危険な目に遭わせたくない。

…戦に出る事すら許したくないのだろう。

しかし………。





いまいち煮え切らない陸遜の態度に英蓮は痺れを切らす。

「…じゃ、私もあの二人と一緒に動こうかしら。 …楽しそうだし」

自身の手を頭の上で組み、軽く背伸びをしながらおどけた調子で言い放った。

すると。

陸遜は一瞬にして我に返った。

顔を紅潮させて立ち上がり、英蓮と視線を絡める。

「いけません! 貴女をあんなケダモノ達と共に行動させるなんて…それだけは許しません!」

「ひどっ!!! 大事な軍の戦力を『ケダモノ』扱い? 伯言、失礼にも程があるわよっ!」

「…今のは確かに失言でした。 ですが…英蓮。 私は貴女を前線には出したくありませんから」

「それじゃ…貴方は武将の私に『戦うな』って言いたいわけ?」

突如始まった口論。

陸遜の口から思わず吐き出された本音に英蓮は理解しながらも声を高める。

何故なら。

自分の事を大事にしてくれる陸遜の気持ちに報いるには…。

一番は『彼のために戦う事』だと思うから。

自分が武将だからこそ、愛する人に出来る事…。





暫し、睨み合いの時が続いた後。

英蓮は怒りを少々抑え、胸に手を当ててふぅ、と一つ息をついた。

そして、気持ちを落ち着かせたところで陸遜に真っ直ぐ向き直ると、改めて言う。

「………伯言は、私の事を『戦力』だと思ってないのね」

「いえ…そのような事は言っていません。 ですが…」

「ですが?」

「……………」

英蓮の先を促すような問い掛けに言葉を詰まらせる陸遜。

言えない。

言えるわけがない。

自分は軍師…武将を『駒』として動かさなければいけない。

その『軍師』が…『駒』を動かさない、という事は………。

陸遜は悔しそうに顔を伏せ、口を噤んだまま押し黙る。

すると、突然に…陸遜の頭に暖かく触れるもの。

自分の髪をわしゃわしゃ、と撫でるそれは、英蓮の手だった。

陸遜が伏せていた顔を上げると。

先程までの表情は何処へやら…満面の笑みを浮かべた顔がそこにあった。

英蓮は依然陸遜の頭を撫でながらうんうん、と頷いて。

空いている方の腕を伸ばすと…戸惑う陸遜の身体を自身へと引き寄せながら言葉を紡ぐ。





「貴方の言いたい事は良く解るから…もう言わなくてもいいよ。

私は『遊軍』として動くわ…。 いつものようにね。

ただ…つまらない事はさせないでよ? 伯言」





英蓮の圧力…もとい、包容力に。

いよいよ観念しようとする陸遜だったが。

「解りました…。 ですが…頭を撫でられるのは…」

「ふふっ…『子ども扱いするな』でしょ?」

「…解っているなら…その手、離してくれませんか」

「だぁめ! 私がしたいんだから。 伯言の髪、柔らかくて大好きなんだもん」

「………」

英蓮の手…とても心地いいですよ。

そう思っても陸遜は口には出さなかった。

彼も、英蓮の気持ちが容易に理解できたから。







自分の頭に感じる暖かさにとろけそうになりながら。

陸遜は英蓮に解らない位の微かな笑みをその顔に乗せて、心の中で零した。





「貴女には敵わないですね」

と。



















「陸遜様! 攻撃拠点付近にて、伏兵出現との知らせが!」

「!!! …ならば、甘寧殿の兵を向かわせなさい」

「ですが…甘寧様の軍団は現在…別の場所の伏兵を相手にしているのでは…」

「…甘寧殿と凌統殿であれば…今頃は粗方片付いているでしょう。 構いません。 行ってください」

「はっ!」

「お気をつけて」と言いながら、柵を抜けて走り出す伝令を見送る。

呉軍本陣にて。

陸遜は大勢の兵士をてきぱきと動かしていく。

地図上に並べた駒のように。





特に…甘寧と凌統の二人に対しては容赦しなかった。













今日何度目かの伏兵撃破。

折り重なる屍の山を満足そうに見つめる甘寧と凌統。

その背中に伝令からの言葉が降りかかる。

「甘寧様! 凌統様! 攻撃拠点付近から伏兵出現の知らせが! 陸遜様が急ぎ救援を…とのことです」

「何ぃ? 今度はそっちかよ! くっそぉ…あンの鬼軍師! 帰ったらただじゃおかねぇ!」

「まぁまぁ…。 でも、あんたが行きたくなかったら…俺だけで行ってもいいんだぜ?」

「ん? 誰がそんな事言ったよ? まだまだ行くぜぇ!!!」

「…俺も負けらんないっつの!」

仲がいいのか悪いのか…敵対心を露にして言い合いながら拠点へと歩を進め出す。

と、その両人の前に…更に新たな伝令が姿を現した。

「…陸遜様からの伝令です! 防御拠点へ援軍に向かってください、とのことです」

「「何だって???」」

これには流石の二人も怒りがふつふつと込み上がってきた。

凌統が「俺ら…これから攻撃拠点に行くんだけど?」と伝令に食って掛かる。

すると、伝令はその勢いに臆する事なく…二人の前に跪いたまま口を開く。

「陸遜様は『今お相手している方々を片付け次第、直ぐに向かってください』と仰せです」

「「………ひどっ!!!」」

伝令…いや、陸遜の鬼のような一言に…二人は一瞬息を詰めた後、声を揃えて叫んだ。













再び呉軍の本陣。

今回の戦に…君主は出陣していない。

したがって…今は陸遜自身が総大将ということになる。

此度の戦…一筋縄ではいかないようですね。

陸遜は簡単に作られた椅子に腰を下ろし、深く溜息をついた。

皆さんは…大丈夫でしょうか?

英蓮は…無茶をしていないでしょうか?

先程、「敵軍の補給拠点を発見した」との報告を受けて。

遊軍として待機していた英蓮を向かわせたばかりであった。

補給拠点の占拠くらいならば…余程の事がない限り苦戦はしないでしょう、と。





「陸遜様! 防御拠点にて…援軍要請があるのですが…」

…またか。

陸遜はやれやれ…とかぶりを振る。

「では、甘寧殿の軍団を…」

「陸遜様。 お言葉ですが、先程…伏兵の下へ、と仰いましたよね?」

「えぇ…。 ですから、彼らには『今お相手している方々を片付けてからで構いません』と伝えてください」

如何にも『私は悪くありません』と言わんがばかりの笑顔を伝令に向ける陸遜。

その中に潜む恐ろしさを感じたのか…伝令は背筋をしゃん、と伸ばして「はっ!」と拱手する。

直後、機敏に走り去る伝令の背中を見送り、にやりと笑う。

「…これなら彼らも満足するでしょう…」と小さく呟きながら。

現在の戦況は互角、といったところでしょうか…。

いや、闘争心を剥き出しにしている甘寧殿と凌統殿が居るだけ…こちらに分がありそうですね。

陸遜が笑顔のまま独り言を零す。

さて…そろそろ本陣を突く頃合でしょうか…。

そう思い、立ち上がった刹那。

その耳に…遠くから自軍の兵士が声を上げるのを聞いた。





「こんな所にも伏兵が!!!  急ぎ、陸遜様に報告を!!!」





………しまった!!!













陸遜が伝令を呼んだ直後。

その背後から「ふははははは…」という奇妙な笑い声が響いた。

驚き、その声の方向へ視線を走らせる。

すると、そこには。

黒い羽扇を口元に寄せ、扇ぎながら得意げに陸遜を見下ろす敵の軍師が居た。

「…馬鹿めが。 敵陣を突く事しか考えず、本陣を疎かにするとは…如何にも凡愚が陥りそうな落とし穴だな」

「………」

的を得た相手の一言に何も返せなくなる陸遜。

確かに。

此度の戦に君主が出ていない事に陸遜は完全に油断していた。

本来は本陣を一番に守らなければいけないのに………。

「ちっ…やられましたね」

珍しく舌打ちをし、口惜しげに唇を噛み締める。

そんな陸遜を依然見下す司馬懿が再び「ふははは…」と笑う。

そして。

「では…私はこれで失礼させてもらう。 そうだ…折角だ。 貴様には私の軍を特別に与えてやろう」

「但し…敵として、だがな」と更に高笑いを空に響かせた。

司馬懿に言われるがまま陸遜が視線を周囲に廻らせると。

「成程…。 貴方が軍に居れば…やはり一筋縄ではいかないですね」

わらわら、と彼の周りを取り囲む敵兵共。

それを見た陸遜は一瞬俯き、大きく溜息を吐く。

そして再び顔を上げると…。

既に司馬懿はその場から忽然と姿を消していた。







「奇術師ですか…あの方は」

陸遜はそう言うと…自分の言った事に可笑しかったのか、ふふ…と軽い調子で笑った。

そして、「次にお会いする時は…断じて手加減しませんよ」と笑いの矛先を変える。







さて…如何しましょうか。

陸遜は遠巻きに武器を構える敵軍の面々と改めて対峙した。

自分の軍団の兵達は本陣外に出現した伏兵を相手することに必死だろう。

策を練るには…駒が必要だ。

その『駒』が居なくては…。

自分はただの『凡愚』かも知れませんね…。

陸遜は先程司馬懿から放たれた言葉を反芻し、自嘲を含んだ笑いを足元に落とす。

「…やはり、『孤軍奮闘』しかありませんか…」

やれやれ、と腰に装備していた『閃飛燕』を鞘から抜き出す。

その冷たく光る銀色の切っ先に…突然感じる軽い戦慄。





この大軍…。

私一人で撃破できるでしょうか………?





「陸伯言…参ります!」










陸遜が敵兵に向かって刃を構え、身を低くした。

それに倣うかのように…陸遜に走り寄り、斬りかかる兵士達。

それぞれの得物がぶつかり合う…

まさにその直前。

突如、陸遜の目の前に一つの影が躍り出た。

刹那、その影が視界を覆い隠した瞬間…敵兵の塊が四散し、目の前から消え去った。

そして。

影が振り返り、怒号を響かせる。





「貴方、馬鹿じゃない?!

周りにばかり気を遣うあまり…肝心の本陣をがら空きにするなんて…!」





呉軍の名立たる軍師を『馬鹿』呼ばわりする影。

その勇ましい姿に陸遜は一瞬だけ苦笑した。

直後、訝しげな表情で見つめ、問う。

英蓮…。 敵の補給拠点はどうしました?」

「あぁ…あれね。 殆ど秒殺よ、あんなの。 …思った以上につまんなかったわ」

英蓮は輝く笑顔でさらりと言ってのけると、新たに斬りかかってくる敵兵の首に得物をぶち込む。

美しい曲線を描きながら飛び散る飛沫。

それを冷ややかに見やりながら英蓮は更に言い放つ。

「話は後よ。 …今は本陣を守らなきゃ、でしょ?」

「………そうですね。 では、私も」

英蓮に背中を預けながら『閃飛燕』を手に構える陸遜。

刹那。

その目にギラリ、と鋭い色を湛える。

「貴女に『知勇だけではない』というところをお見せしますよ」

「あら…言ってくれるじゃない。 …これなら少しは楽しめそうね」

「ひどっ!!! 『少しは』って…それはあんまりですよ、英蓮」

「くすっ……… !!! 伯言! 来るわ!」

「言われなくてもっ!」

迫り来る軍勢に二人は同時に刃を向けた。

















程なく本陣は肉の塊に埋め尽くされ、それが戦の終わりを告げた。

一時して本陣に『呉軍勝利』を告げに帰還した伝令は…この有様に驚愕したが。

総大将の無事と、傍らに立つ英蓮の姿にほっと胸を撫で下ろした。

この『呉軍勝利』は。

総大将が居てこその偉業なのだから。







凱旋の道すがら。

英蓮は先程見せられた陸遜の武勇に頼もしさを感じていたが。

少々面白くないのか…。

先を行く馬上の人に、厭味を含んだ言葉を投げつける。

「伯言、貴方軍師より武将の方が向いてるんじゃない?」

「ひどっ!!! お願いですから…手厳しいことを言わないでください!」

後ろを振り返り、懇願の表情を向ける陸遜。

それを冷ややかに見つめるふりをしながら英蓮は更に続ける。





「でもね…本陣をがら空きにするなんて、軍師失格よ。

貴方は何時も自分の事は後回しで…周りの事を考えすぎだわ。

私…その事に前からずっと心配してた。

だから…今回、拠点制圧をとっとと済ませて貴方の元へと向かった。

予感的中、だったわね。

伯言。 ここで言っておくわ。

いい?

これからは…自分の事も大事にしなさい。

あと、自分の仕事に私情を挟まない事。

………解った?」





英蓮の言葉に。

陸遜は目から鱗が落ちるような思いを抱いた。

軍師として軍を任される身。

それは…『駒』を動かす事だけではなく。

ましてや将達の命や進退を握っているという事だけでもなく。

同時に、自分自身にも責任を持たなければいけない…。

歩を進めながら暫し思案する。

自身の額に手を当て、考え込みながら…ふと自分の後ろに視線を向けると。

そこには何時も変わらずに寄り添ってくれる馬上の笑顔。

英蓮………。

本当に貴女には敵いませんね。

しかし…。

私も黙っているわけにはいかないですよ?










何かを思いついたのだろう…。

陸遜が急にぱっと顔を上げ、英蓮に向き直った。

その仕草に英蓮は驚き、びくっと肩を震わせる。

「なっ…何よ」

「…英蓮。 今、一番の策が閃きました」

「…策? 今更?」

場違いな陸遜の発言に英蓮は訝しげな顔を見せる。

すると。

陸遜は心底楽しそうに…無邪気な笑顔を英蓮に向け、言葉を放った。





英蓮。 貴女にこれから一つだけ指示をします。

この先は…私と共に行動をしてください。

戦の時も勿論ですが。

…一生涯、私から離れないでください。

そして…貴女には…何時如何なる時も私の背中を護ってもらいます。

英蓮…。

これだけは、必ず実行していただきますよ」





「お解かりいただけましたね?」と念を押す陸遜。

その求婚とも取れる言葉に英蓮ははっと息を呑んだ。

直後、動揺を鎮めるように俯き、大きく肩を揺らしながら息を吐く。

そして、少女の頃に戻ったような小さな胸の鼓動を心地よく感じながら…。

満面の笑顔で、精一杯の答えを紡ぐ。





「それじゃ、私も…一生涯伯言に背中を護ってもらおうかな」










   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆










空は何時しか夕暮れの様相を呈し。

傾いた太陽から降り注ぐ橙色がそこに居るものの影を長く、地に落としていた。

そして…虚しく空を仰ぐと。

何羽かの黒い鳥が大きな羽を羽ばたかせながら。

「かぁ…かぁ…」と彼方へと飛び去っていく…。






今となっては『元』がついてしまう防御拠点にて。

屍だけがその場を支配する中…。

戸惑う二人の武将が居た。





「なぁ…他の奴ら、何処へ行った?」

「………もしかして、俺ら忘れられてね?」





そして二人は顔を見合わせ………。





「「ひどっっっ!!!」」















劇終!









管理人のアトガキ。


『カラクル』小骨様からのリクエスト。
此度は素敵なリクエストをありがとうございました!

内容は。
お相手は陸遜。黒オーラを発しつつもヒロインには黒くなりきれない灰色バージョン(バージョンて…
年上武将をヒロインに、無双時代を舞台に繰り広げられるギャグ。

先ずは…スミマセン、と謝っておきます(汗
脇役が出過ぎで…キャラが目立ち過ぎてます。
なんかドタバタ?な感じに… orz

そして。
今回りっくんは『少年』バージョンです(何
雰囲気的には…未だ台頭しない頃のりっくんをイメージしてみました。


小骨様!
長らくお待たせしました(汗
粗品です(をい)………。宜しかったらどうぞお持ち帰りください。
(直リンでも、レイアウトを素敵に変えてくださっても構いませんw)


………詳しい裏話などは日記にて。
宜しければどうぞ(汗

そして、此処までお付き合いくださった皆様に。
本当にありがとうございました!


2007.1.18     御巫飛鳥 拝

使用お題『あなたには敵わない』
(当サイト「陸遜に言わせたい台詞10連発」より)



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