瞳は心の映し鏡 〜交錯〜














…お前が好きだ」

両の手を握り締め、俯いたままやっとのことで言葉を吐き出した馬超。

そして、相手の反応をこっそりと確かめるように視線だけをに向けたが。

言われた本人の言葉に彼は再びがっくりと視線を床へ戻してしまうことになる。





「ごめん…馬超。

私ね。

この乱世の中で『恋』だの『愛』だの…語る気にならないのよ」





はそう言うと…項垂れる馬超を一瞬見やって「ごめんね」ともう一度呟き、踵を返した。

人気のない城の中庭。

その真ん中に置き去りにされた馬超は、暫く項垂れたまま動けなかった。

辺りを明るく照らす太陽の光は、季節に似合わず暖かさを運んでくる。

しかし、落胆の様相を呈する彼の周りだけは、その暖かさを感じることが出来なかった。

「人の気持ちに『乱世』など…関係ないだろう」

馬超は独り言を吐き、重い足を引き摺るように自室へ向かって歩を進めて行った。







その様子を少々遠くから柱の影で見ている人物が居た。

の親友で、彼女直属の女官である

顔を顰め、唇を強く噛み締める。

…馬超様…」

その言葉からは彼女の気持ちを汲み取る事が出来なかったが。

表情の中からはある一つの決意が滲み出ていた。







、馬超、

この3人の心がこの時から交錯し始める………。

















「…それで、馬超様を置き去りにして来ちゃったわけ?」

「うっ…うん…。 なんか居心地が悪くなっちゃって、ね」

「そう…」

自室に戻って来て数刻。

が夕餉を手に部屋の中に入ると、は直ぐに先程の出来事を報告した。

その一部始終を影で見ていた事を悟られないように極力気持ちを抑えて相槌を打つ







が夕餉を卓の上に乗せて「どうぞ」と言い、顔を上げて踵を返すと。

「ありがとう」

は何時ものようにお礼の言葉を送り、明るい笑顔をに向ける。

すると。

…」

部屋を出ようとしていたがその歩を止めて振り返った。

そして、卓の前に座ったの顔を真剣な眼差しで見つめる。

「…? どうしたの?」

の表情に戸惑いながら首を傾げ、尋ねる。

刹那、の隣に駆け込むように座り、耳打ちするように言葉を紡ぎ始めた。





。 私…決めたわ。

私、馬超様に告白する。

…いいでしょ?」





「いいも何も…、馬超の事好きだったの?」

親友の思い掛けない一言に困惑の表情を向ける

今迄…そのような素振りなんて微塵も感じられなかった。

の口から発せられる馬超とのやり取りも何食わぬ表情で聞いていたのに…。





もしかして…自分の気持ちを押し殺して???





ははっと息を呑むと、はにかんだように俯くの肩に手を乗せた。

そして、先程と同じような明るい笑顔を親友に向ける。

…ごめん、貴女の気持ちを解ってやれなくて…。 いいよ。 私、応援する!」

「…本当にいいの?」

「うん! 親友の幸せの応援をするのは当然でしょ?」

「…ありがとう。 じゃ、私…仕事に戻るわ」

「了解。 …頑張ってね」

「うん。 ありがとう…。 また後でね」

「うん!」

は軽やかな足取りで部屋から出て行くを笑顔で見送った。







しかし。

その表情とは裏腹に…。

の心の中には真っ黒な靄がかかっていた。

その『靄』の正体は…。

未だ、自身には解り得ない代物だった………。

















「………何と?」

馬超はたった今聞かされた言葉に自分の耳を疑いたくなった。

の口から発せられる事を望んでいた…言葉を。

今、その親友が………。





「馬超様…。

私、以前から…貴方の事をお慕いしておりました…」





…。 お前はから何も聞いていないのか?」

驚愕と戸惑いの気持ちを入り混ぜながら馬超がに問いかける。

すると、

「勿論、本人から聞いておりますわ…それも詳しく」

と言いながら女官らしい柔らかな微笑みで馬超の瞳を真っ直ぐに見つめた。





「尚更…ですわ。

は色恋沙汰には興味がない様子ですし。

ならば…今申しましても問題はないでしょう?

勿論、貴方の気持ちも重々承知しておりますわ。

ただ、私の気持ちを馬超様に知っていて欲しくて………」





はまくし立てるように一気に話しきると頬を赤く染め、俯いた。

その仕草に馬超はの中にある『女性らしさ』を感じていた。

普段のからは感じる事のできない部分。

(あいつにもこれくらいの色気が欲しいものだ)

とこの場に似つかわしくない事を考えてしまい、馬超は思わず苦笑を洩らした。





…どうしたものか。

突然このような事を言われたところで…俺の気持ちは急に変わるものではない。

しかし…彼女はの親友だ。

無下に出来るわけがなかろう…。





難しい顔をして首を捻り出す馬超。

その顔を目の前に、が一瞬僅かに唇の端を吊り上げたが。

馬超に気付かれないうちに直ぐ表情を元の柔らかい微笑みに戻す。

「馬超様…そのように悩まれる事はありませんわ。 私は自分の想いを伝えたかっただけ…」

はそう言うと力なく垂らしている馬超の腕に自身の手を添えた。

そして、「仕事に戻りますわ」と素早く踵を返し、そそくさとその場を離れて行った。







取り残された馬超。

彼の心の中に一つの厄介な悩みが生じた。





を傷つけたくはない。

………彼女は、愛する人の、親友だから。

















あれから月が一廻りした頃…。

世間では何事もなく時が流れている。

しかし、三人の心の中だけは…何ともいえない雰囲気に支配されていた。

馬超の悩み。

の気持ち。

そして…は自身の心にある靄の存在に辟易していた。





が楽しそうにしているのを見ていれば…私も嬉しい筈なのに。

なんか、すっきりしないのよね…。





自室の床にごろん、と仰向けに寝そべり、天井を見上げる。

今は一人。

彼女の女官であるは馬超と城下へ買い物に出かけてしまった。

「あぁ〜あ…私も一緒に行けばよかったかな」

は退屈を持て余しているのか…大きな欠伸をしながら呟いた。





   ☆   ☆   ☆





先刻、の付き合いで馬超の元を訪れた。

「馬超様と一緒に買い物がしたいんだけど…付き合ってくれる?」

というの言葉に従って。

最初は自身も一緒に行くつもりだったが…。

の気持ちを考えると、次第にその気分も削がれていった。

…貴女も勿論、一緒よね?」

と言う親友の言葉にも

「ごめん…私は此処に残るわ」

目を閉じ、頭を振るしか出来ない










…じゃ、行って来るね」

馬超の愛馬に横向きで乗っているに微笑みかける。

その様子が心から幸せそうに見えて、は思わず視線を余所へ逸らしてしまった。

「行ってらっしゃい…気をつけてね」

せめて表情だけでも…と顔に笑みを湛える。

そして、努めて平静を装いながら馬超に笑顔だけを向ける。

…視線は逸らしたままで。

「馬超…を宜しくね」

「…ああ」

馬超は短く言葉を返し、愛馬に跨るとの腰に手を回して手綱を握った。

そして、続きの言葉を待つを半分無視するように黙って馬を駆って行ったのだった………。





   ☆   ☆   ☆





「ただいま! !」

天井を見つめているうちに少々転寝をしてしまったらしい。

は親友の弾けるような声にびくっと身体を震わせ、飛び起きた。

「…! 、おかえり」

「あ、ごめん…寝てた?」

「…いや、大丈夫。 買い物、どうだった?」

の気遣うような視線を避けるように軽く首を振ると、はその顔に悪戯っぽい笑みを浮かべる。

すると、訊かれたは僅かに顔を上気させて勢いよくに詰め寄った。

! 城下でね…馬超様が…っ」

上ずるの声から、嬉しい事があったのだと…流石に今のにも容易に理解出来た。





ちくり。





刹那、の胸に形容し難い痛みが走る。

はその痛みに一瞬顔を歪めたが、直ぐに笑顔を作ると

「馬超が…どうしたの?」

その顔をに近付け、先を促した。

しかし、はその問いに答えず、バツが悪そうな顔をに向ける。

そして。

「うぅん、ごめんね、何でもない…」

独り言のように一つ呟くと、に背中を向けて部屋の扉へと歩を進めた。

「ちょっ…待ってよ、………」

が床から身を乗り出し、に手を差し伸べたが。

は「仕事に戻るわ…」と振り返りもせずに部屋から出て行った。





………ちくり。





胸の痛みと、得体の知れない黒い靄に侵されて行くの心。

それに耐えられなくなったは。

「もう…何なのよっっっ!!!!!!!」

心の底から搾り出したような怒声を吐き出す。

その直後。

卓の上に置いたままにしていた茶碗をその手に引っ掴むと壁に向かって力任せに叩き付けた。










「この………胸の痛みは………何?」

は床に散らばった茶碗の残骸をぼうっと見つめながら一人、呟いていた。

も、言いたい事があったら…はっきり言えばいいのに…」

二人が『親友』だと自覚してから、どのような事でも包み隠さず話していたのに。

何故、が途中で言葉を濁したのか…。

そして。

「馬超も…あの時、どうして…」

と城下に向かう時、自分を無視するように行ってしまった馬超。

遡れば。

『ごめん…私は此処に残るわ』

が言った時、何故それを制そうとしなかったのか。

何故二人きりで出かけることを躊躇わなかったのだろう…。

「馬超…あの言葉は、嘘だった、の…?」

には全く理解出来なかった。





目を擦り、ぼやけた視界を元に戻すと…は床からゆらりと立ち上がり、壁へと歩み寄る。

今は一人………この残骸を片付けてくれる女官も居ない。

は手を伸ばし、その欠片を拾い集め始めた。

そして、手のひらに積み上げられる欠片達を見ながらふと考える。





これって…なんか…私の心の中みたい。





ふふっと自嘲気味に微かな笑い声を床に落とす。

何私らしくない事考えてるんだろう、と。

集め終わった欠片を塵籠へ放り込むと、は思い切り頭を振った。

徐に立ち上がり、扉へと踵を返す。

その時、は気持ちの靄が少しだけ晴れたような気がした。





………案ずるより生むが易し、ってね。














「馬超! 入るわよ!」

は馬超の部屋に辿り着くや否や、扉を叩く事なく思い切り開け放った。

中に入り、ずかずかと馬超の元へ歩を進める。

の物凄い勢いに呆然とする馬超。

手入れをしていた龍騎尖を握り締めたままの方を向き、凍りついていた。

「馬超。 貴方に訊きたい事があるんだけど」

固まっている馬超にもお構いなしには目の前に座り込むとその顔をずい、と馬超のそれに近づけて詰め寄る。

只ならぬ空気を纏ったを見て、馬超は背中に冷たい物が伝うのを感じた。

の間に何かがあったのだろう、と心の中で思いながら。







「どうしたんだ? 

平静さを装い、馬超は努めて静かに問う。

声は少々上ずっていたが、幸いには気付かれなかったようだ。

は言葉の続きに迷っているのか、口を噤んで小首を傾げていた。

刹那の沈黙の後。

は意を決したかのように馬超の顔を見上げ、視線を絡めた。

そして…重たい口をゆっくりと開き、問いの続きを吐いた。

「馬超…。 貴方、の事をどう思ってるの?」

「…どうも何も…。 はお前の親友、だろう?」

馬超が言いよどむ事なく至って普通に答えた。

すると。





「私が聞きたいのはそんな事じゃないっ!!!!!」





は眼光を鋭く光らせ、目の前の床を力いっぱい両手で叩く。

そして、勢いをそのままに…再び馬超に詰め寄りながら言葉を繋げる。

の事をどう思ってるのか…貴方の気持ちが聞きたいのよ!」

「ちょっ…ちょっと待て、。 とりあえず落ち着け」

馬超はの頭に上った血を鎮めるかの如くその肩に両手を乗せ、軽く叩き続けた…。







「…ごめん、馬超」

「落ち着いたか?」

「うん…」

一刻の後。

自身の胸に手を宛がい数回深呼吸したは。

先程の自分がしでかした事を思い出し、恥ずかしげに俯いていた。

その様子を見て、馬超は少々可笑しそうに笑った。

。 お前が勢いよく入ってくるから…何事かと思ったぞ」

「いや…だから、ごめん、て…」

「…其処まで謝られても困るが」

の態度が豹変した事に、どうしたものか…と馬超はその顔に苦笑を混ぜて自身の頭を掻いた。

そして、意を決したのか…目を閉じた後その視線をの方へ真っ直ぐに向けて言葉を紡ぎ始める。





の事は大事にしたいと思っている。

しかしな、その理由は…の親友だから、それだけだ。

…。 この前お前に言っただろう…?

『お前が好きだ』という気持ちに嘘偽りはないぞ。 今もそれは変わらない」







更に一時。

依然俯いたままのと…顔を僅かに上気させ、次に吐くべき言葉を探す馬超。

しかし、この沈黙は二人にとって決して不快に感じるものではなかった。

がふと顔を上げると、目の前には困ったような…それでいて暖かい笑顔を湛えた馬超が居る。

刹那、の心を覆っていた靄が次第に晴れて…今まで見えなかった一つの欠片が優しく光ったような気がした。





「…解ったわ、やっと」

は納得したように一つ頷くと、自分を見つめ続ける馬超と視線を絡めて言い放った。

そして、馬超が「何が…」と言葉を返そうとするのを自らの手で制し、柔らかな微笑を相手に与える。





「 今迄、親友の幸せが私の幸せに繋がってると思ってた。

でもね、それはただの『綺麗事』だった。

が貴方に告白する、と私に宣言してから…。

私の心の中に居座り続けた『靄』の正体。

それが今…解った。

自分の気持ちに従ってると、それを嫌がらない馬超…貴方に。

私…嫉妬してたんだ、ってね」





馬超は話しながら頬を赤らめていくに今まで見なかった『女性らしさ』を感じた。

同時に、愛おしさがこみ上がってくる。

刹那、言葉の続きを紡ごうとするの身体を引き寄せ、自身の腕の中に包み込んだ。

馬超の胸に顔を埋める形になったは、急な事に戸惑いながら声を震わせる。

「馬超…。 私、未だ全部言い切ってない…っ」

「すっ…すまない。 今のお前が余りにも可愛かったものでな」

「…全部言う前に照れさせないでよ」

「すまん! …続けてくれ。 俺も全て聞きたい」

は先を促す馬超の腰に手を回した。

そして、照れ隠しなのだろう…その胸に額を付け、俯き気味になって呟くように言葉を吐き出す。





「素直になるのが怖かった。

本当の事を言ってしまったら…や貴方との仲を壊してしまいそうで。

でも…貴方はちゃんと言ってくれた。

気持ちに…私も従うわ。



…馬超…。 貴方を、愛してる」





抱きしめ合う二人の腕に力が籠もる。

がゆっくり顔を上げると、二人の視線が再び絡まり合った。

…お前の気持ち、今受け取った。 俺も、お前を愛している」

馬超はそう言うと、少し身体を屈めての唇をそっと奪った………。







…。

私も、自分の気持ちに…素直になるわ。

たとえ…それが貴女を傷つける事になっても………。

















自分の部屋に戻るの足取りはこの上なく重かった。

複雑に交錯している心を背負うようにその足を引き摺っている。

馬超と通じ合えた事の喜び。

素直になれたことで軽くなった気持ち。

そして、その事が無二の親友を失う事になるかも知れないという事実。

………の心の中に新たな靄がかかっていく………。







「おかえりなさい、

が扉を開けて部屋に入ると。

先刻が汚した壁や床を掃除しているが普段と変わらない笑顔で迎えた。

それに微妙な笑顔で答える

の顔を見ていると…折角決意した心が萎えていく。

物言わず床に座り、項垂れるが歩み寄った。

「…? どうしたの? 元気ないじゃない」

「………」

その只ならぬ様子には真剣な眼差しでの顔を覗き込むと決定的な言葉を吐き出す。

「………馬超様に、逢って来たのね」

「………うん」

項垂れたままやっとの事で重苦しい口を開く

部屋の中にも二人の雰囲気に相応しい空気が流れた。

には、が何かを言いかけているのが容易に解ったが。

敢えて促す事をせずにの顔を覗き込んでいた。





…ごめん。

貴女に合わす顔がない…。

裏切ってしまった…。 貴女の気持ちを知ってて…。

………私、馬超が………」





「…やっと気がついたの?」

顔を上げ、の言葉を途中で制した。

真剣な顔がみるみるうちに変わっていく。

満面の笑顔に少しの怒りを散りばめて。

そして、可笑しそうにくすくすと笑いながら…独り言のように言葉を連ねる。





「もう…気付くのが遅いわよ。

私も限界に近かったんだから。

馬超様も馬超様よね!

あの時…さっさと私を振ってくれればよかったのに。

そうすれば…私も此処まで苦労する事なかったのにさぁ…」





は唖然としていた。

突然変わったの態度と吐き出されていく文句のような言葉。

それは今のにとって全く理解し得ないものだった。

は固まって口をぱくぱくさせているに最初見せた笑顔をに向ける。

「よかったね…

「へっ???」

「これからは…馬超様ともっと仲良くしなさいよ! 素直じゃないんだから…全く」

「…? だって、…貴女も馬超を…」

親友の発言にますます疑問符がつく。

表情を訝しげに変え、に問いを投げかける

その態度には小さく溜息を一つ吐くと。

表情いっぱいに悪戯っ子のような意地悪さを溢れさせてに詰め寄った。







私が貴女に…何時『馬超様が好き』って言った?」





「!!!!!」

の顔が再び凍りついた。

遡れば。

は確かに『告白する』とは言ったが…『好きだ』という気持ちは明確にしていない。

の「好きだったの?」という問いにも答えていない。

親友の意外な種明かしには一瞬小さく息を吐くと。

これ以上ないくらい高く笑い出した。

それに倣っても楽しそうに笑い出す。

「あっははははは!!! 親友にしてやられたわ!」

「ふふっ…。 私の演技力もなかなかでしょ?」

「…人の気も知らないで」

「それは貴女だって同じよ。 私、馬超様…好みじゃないもん」

「あ…それはなんとなく解ってた。 でもさ『蓼食う虫も好き好き』って言葉があるじゃない」

「ぶっ…それ、意味が違うって。 …しかも何気なく馬超様に失礼だし」

「「あははははは…」」







と一緒に笑いながら。

は改めて親友の存在そのものに感謝していた。

その瞳に溜まっていく涙は…。

果たして親友への気持ち故か、或いは笑いすぎ故か。





は親友の肩を抱くと、気持ちのままに言葉を放った。

…ありがとう!」

















「…そうか、俺も騙されていたわけか」

「ある意味、一番の被害者は孟起…貴方かもね」

「はは…違いない」

馬超がに初めて自分の気持ちを伝えた場所に二人、肩を並べて座った。

明るい太陽があの時と同じく、暖かい空気を運ぶように顔を出している。

しかし、寄り添う二人には…太陽の暖かさなどどうでもいい事だった。

それは…『幸せ』という暖かさが二人の心にあるから。







顔を寄せ、啄ばむような口付けを交わす二人。

人目を憚らないその様子に軍の人間達は。

ある人は頬を赤く染めながら、ある人は微笑ましく見つめながらその横を静かに通り過ぎた。

彼らがやっと掴んだ幸せを邪魔する事なく…。





「私のために一肌脱いでくれたんだから…本当に大事にしなきゃ」

「そうだな。 俺も…に感謝しなければ」

「うん。 それに、孟起…貴方にも感謝してるわ」

「…何故だ?」

寄せていた顔を上げ、馬超がに訝しげな表情を向ける。

すると、はその頬に自身の手を添えて

「貴方がはっきり言ってくれたから。 だから私は…自分の気持ちに素直になれた」

「ありがとう…孟起」と一旦離れた馬超の唇に自身のそれを重ねた。

そして。

その様子を苦笑交じりの笑顔を湛えながら少々遠くの柱の影で見ているに向かってひらひらと手を振った。







「…私もいい人、探そうっと」

は遠くで振ってくる親友の手に軽く答えると。

「後はお二人で…ごゆっくり」

と心底嬉しそうに呟き、その場を後にした………。













劇終。









アトガキ


『それを愛と知っていたなら』の管理人である角松奏様からのリクエスト。
此度は素敵なリクエスト、ありがとうございますっ♪

内容は
1.お相手は馬超。
2.素直になれないヒロイン
3.シリアス→甘

以上で。
しかし、書き易かったばちょんに思わぬ苦戦…。

リクエストをいただいたとき、大体の構想が頭の中にあったんだけど…。
果たして、親友を出張らせていいのか…と思ったり。

そこで考えた苦肉の策(をい
親友も名前変換にしちゃえっ♪(逝 っ て 来 い
…奏様、スンマセン…軽くて。

そして、真のサブタイトルが −嫉妬は愛情の欠片−
作品を読んでから見ていただいた方が…その意味がよく解ると思ったので。

しかし、私的には満足したものが出来たと思っています。
奏様…こんなんでも宜しかったらもらってやってください(切願



そして、此処までお付き合いくださった皆様に。
本当にありがとうございました!


2006.12.2     御巫飛鳥 拝

使用お題『この痛みは…誰のせい?』
(当サイト「切なさに悲鳴を上げそうな10のお題」より)


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