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死に往く人
透き通るような晴天の下、何処までも続きそうな広い平原。
その中を二組の人馬が往く。
その馬上の彼らにも容赦なく吹き付ける風…。
それはこれから訪れるであろう季節を予感させる程冷たかった。
「…ねぇ…少し冷えて来たね」
女の方-英蓮-が隣に居る馬上の人に語りかける。
軽装の鎧に身を包んだその姿は女性らしい装飾品を一切身に付けておらず、『女』と言うより『武人』と言うに相応しい。
しかし、乾いた風に逆らう事なく靡くその長い髪は彼女の出で立ちに似合わず艶やかに黒く、顔はまだ少女のようにあどけなさが残っていた。
一方、語りかけられた男の方-楽陵-はと言うと…。
「あぁ…そうだな」
その鋭い目線を前に向けたまま、表情も変えずにそっけなく答えた。
その共に往く人の反応に苛立ちを覚えた英蓮は綺麗に整えられた眉を吊り上げる。
そして、自身の馬をほんの少し速く進めると楽陵の進路を妨げるように前に出て、
「もう…雷敬! 何見てるのよ!」
と手綱を持った手で腕組みをしながら声を上げた。
すると楽陵は
「…おい、英蓮。 …あれを見てみろ」
英蓮の態度に臆することなく自身の指を先程から見据えてる方向に示す。
「え…?」
その指に指し示されるがまま英蓮が振り返ると、視線の先に人の群れがあった。
群れの面々は、遠目に見てもその雰囲気から一目で『まともではない』と感じられた。
そして各々がその肩に片手持ちの斧を担ぎ、意気揚々と二人との距離を縮めていく。
「あの山賊共…狙いは私達、ね」
「あぁ…。 間違いないだろう」
「さぁ、雷敬…どうする?」
「お前が訊くまでもない。 …少しは楽しませてもらえそうだ」
「…ふふ、貴方らしいわね」
相談する時間を作るが如く馬の歩みを止め、山賊の群れを見つめ続ける二人。
しかし、彼らに『相談』は必要のないものだった。
何故なら。
顔を見合わせた時、互いの表情から既に同じ答えを得ていたのだから…。
平原の真中に聳(そび)える大きな木。
それは『何故この様な処に一本だけ…』と思わせる程太く、枝にはこれからの季節に似合わず青々とした葉が茂っていた。
その大木に乗ってきた馬を繋げ、傍らに二人並んで腰を掛ける。
山賊を待ち受けながら見つめ合う二人の目は、これから繰り広げられるであろう戦いを楽しみにしているかのように爛々と輝いていた。
さぁ…て。
どう殺りますか…?
更に冷えてきた空気を凌ぐように肩を抱き合い…寄り添う二人の元に、いよいよ山賊が徒党を組んでやって来た。
「このような乱世で優雅に二人旅かい? …お二人さん」
山賊の頭らしき男が声を掛ける。
周りの輩共とは異なり、彼の容姿や身のこなしからは洗練された物を感じさせる。
しかし、その眼光は鋭利な刃物のように鋭く、奥底に誰も寄せ付けないような固さを持っていた。
これが…頭目を名乗り、荒くれ共を束ね続ける事が出来る『強さ』なのだろう。
その気配を感じてか否か、楽陵は英蓮の頬に寄せていた顔を僅かに上げ、頭目の目を不敵に見据えると…相手に威圧感を与える程の低い声で呟くように言う。
「………何の用だ」
「とぼけるな。俺達がどんな奴かなんて、見れば誰だって解るだろう?」
「あぁ…」
「ならば話は早い」
頭目は短く言うと肩に担いでいた斧をぶん、と振り下ろした。
そして、その切っ先を楽陵と英蓮二人の目の前に晒す。
「あんた達が強いって事は見たら直ぐに解る。
出来ればあんた達とは戦いたくはない。
だが…俺達も食って行かなきゃならないんでね…。
まぁ…ちょっとでいいんだ。
いただけるもんを…いただけないかね。
なんなら…其処に居る女、だけでもいいんだが」
頭目の言葉を物怖じせず冷静に聞いていた二人だったが、『女』と言うところで流石に腹を立てたのか、二人は同時に眉を吊り上げた。
「ねぇ、雷敬。 今…聞き捨てならない言葉を聞いたような気がするんだけど…」
「あぁ…俺も聞いた。 『女』って…英蓮の事か?」
眉を吊り上げ、先程よりも凄味のある表情で頭目を睨む楽陵。
すると、その場が荒くれ共の嘲笑で騒がしくなった。
ゆらりと立ち上がった二人に汚らしい笑い声が降りかかる。
「あははは…! こいつ馬鹿な事を言ってやがるぜ!」
「『女』って言えば…あんたの隣に居るべっぴんさんしか見当たらないだろううが! へへ…」
「それとも…お前が『あたし、女よ』って言いたいのか、あぁん?」
ふざけながら女の真似をし、楽陵の目の前に躍り出る荒くれ共の一人。
そして、嘲笑の渦がより一層激しくなった刹那。
ざしゅっ!!!!!
何かを切り裂く一瞬の音と共に荒くれ共の目の前に紅い幕のような飛沫が飛ぶ。
次の瞬間。
その場が水を打ったような静寂に包まれ、草に敷かれた血溜まりの上に一つの首が小さな音を響かせて転がった。
「…言いたい事はそれだけか」
楽陵の口から発せられた低い声は、静寂を破るのに充分な重さを持っていた。
刃にこびり付いた血を一振りで払うと、修羅のような面差しで山賊を見回す。
頭目は足元に転がる仲間の首を躊躇うことなく横へ蹴ると
「これは、お前達の返事と取っていいんだな?」
斧の切っ先を再び二人に向ける。
そして、それを合図に、荒くれ共が二人の周りを一瞬にして取り囲んだ。
山賊共によって完全に逃げ場を失った二人は、背中合わせに立ち、お互い得物の柄に手を掛ける。
…しかし、彼らの表情は先程まで見せていた怒りが微塵もなく、寧ろ新しい悪戯を実行しようとする子供のように、その目は明るく…そして鋭く輝いていた。
「…ものの見事に囲まれたな」
「その割には随分嬉しそうじゃない」
「はは…これならこちらの期待通り楽しませてくれそうだからな」
「何なら…こいつらに『あたし、女よ』って…『しな』の一つでも作ってあげたらもっと楽しめるんじゃない?」
「阿呆抜かせ…。 それよりも英蓮…お前を欲しがるこいつらの神経が知りたいな、俺は」
「ちょっと雷敬、それはないじゃないっ!!」
「ま、他の物好きなんぞには渡さんよ…英蓮は俺のものだからな。物好きは俺だけで充分、だろう?」
「もっ…物好きって………!!! やだ…こんな時に…」
緊迫した筈の場面であるのにも関わらず、会話に夢中の二人。
その態度が気に入らないのか、今迄押し黙っていた山賊共が騒ぎ出した。
「何ごちゃごちゃ言ってやがるんだ!」
「さっさとかかって来やがれ!」
各々口にしながら斧を振り回す。
しかし。
先程見せ付けられた楽陵の一閃に恐れをなしているのか、荒くれ共は二人を遠巻きにしたまま距離を縮めようとしない。
楽陵はそれを一瞥すると笑いを洩らしていた口を一瞬だけきゅっと結ぶ。
そして、自らの得物を片手にしっかりと持ち、頭目の目の前にその切っ先を晒した。
「…さぁ、死合おうか」
楽陵の言葉を受けて英蓮が一つ頷き、頭目の目の前に躍り出る。
しゅっ!
細剣から繰り出す一閃を頭目は難なく避ける。
そして自らの斧を構え、英蓮に目掛けて切りかかった。
が。
その場所には既に英蓮の姿はなかった。
英蓮は最初の一閃の後直ぐに遠巻きにしている山賊共の一角まで駆け、身を低くすると
「このぉぉぉおおおっ!!!」
掛け声と共に激しい一閃を放っていた。
その一撃でその場は瞬く間に紅い色に染め上げられる。
しかし、英蓮の攻勢はそれだけでは終わらない。
目の覚めるような速さで動きながら、次々に一撃を繰り出す。
更に豪雨のように飛び散る飛沫。
荒くれ共は、英蓮のあまりにも素早い剣撃に呆然とし、あんぐりと口を開けたまま動けないで居る。
すると、不意に彼女は動きを止め、その群れを冷ややかに一瞥すると
「ねぇ…あんた達。 やる気、あるの?」
呆れた調子で両手を挙げた。
一方、楽陵の方は英蓮が離れた後、既に頭目と10合程打ち合っていた。
…こいつ、なかなかやるな!
楽陵と頭目、お互いの得物がぶつかり合い…唸りを上げる。
「くぬぅぅぅぅ…」
額から汗を流し、必死に圧されまいとする頭目。
その鬼気迫る顔を眼前に、楽陵は不敵な笑みを浮かべる。
「貴様の力は…その程度か」
「なっ…何だと!!!」
頭目の顔が更に上気した刹那、楽陵の得物に重さが加わる。
キィンッ!!!
楽陵は一旦圧された得物に再び力を籠めると、頭目の斧を弾いた。
ほんの少し間合いを置いた二人。
刹那、楽陵の刃が頭目に迫り、喉元でぴたり、と止まった。
「ひっ!」
楽陵は、一瞬声を上げる頭目を見下ろすように見据えると
「なかなかに楽しませてもらった。 だが…これで仕舞いだ」
得物を横に薙ぎる。
ざっしゅぅっ!!!
楽陵の一閃で頭目の首と身体が二つに分かたれた。
どさり、と音を立てて崩折れる身体。
残された荒くれ共は、その音で我に返ると
「ひっ…ひぃぃぃぃぃぃ!!! いっ…命だけはお助けをぉぉぉっ!」
英蓮と楽陵、二人の目の前で一斉に膝を付き、命乞いを始めた。
二人は顔を見合わせ、『やれやれ…』といった様子で軽く溜息を付く。
「…あんた達の中で、『頭目の仇を討とう』って奴はいないの?」
英蓮はそう言うと手にしていた細剣を持ち直した。
そして視線を鋭くし、輩共に向かって細剣を強く一振りすると怒号を響かせる。
「…情けないっっっ!
死にたくなければ…もう二度と私達の目の前にその身を晒すな!
貴様等がまた山賊として現れたら…
その時は容赦せず、この細剣の餌食にしてくれる!」
縺れる足で散り散りに逃走する山賊共。
やはり頭が倒れればその統率は崩れる。
彼らはそのいい例だった。
一悶着はあったものの…再び馬上の人となり、道なき道を往く二人。
「冷えた身体には丁度いい運動になったわね…雷敬」
「あぁ…お前はな。 しかしな…英蓮、あの程度では俺の身体は温まらんよ」
「ふ…言うと思った」
英蓮は楽陵の言葉に軽く笑い、再び前方を見る。
空は何時の間にか夕陽によって紅く染め上げられ、二人の目線の先には現れ始めた白い月が何かの印の様にぼんやりと光を放っていた。
そして平原を吹きすさぶ風もより一層冷たさを増してきた。
「寒くなってきたな」
「うん…。 雷敬は大丈夫?」
「俺は大丈夫だが…英蓮が大丈夫ではないだろう」
「…流石に、ね。 そろそろ今夜の寝床を探さないと…」
英蓮は身体を小刻みに震わせながら掠れた声で答える。
すると。
楽陵は英蓮が持つ手綱を奪うように手に取ると…。
「えっ…ちょっ、雷敬!」
英蓮の身体を片腕でひょい、と抱え上げ、そのまま自分の前に座らせた。
そして二つの手綱を持ち替え、英蓮を抱き締める様に両腕で包み込む。
「…これなら少しは寒さを凌げるだろう」
「うん…。 ありがとう、雷敬」
「否、俺もこの方がいいからな…」
「………」
二人が寄り添ったからなのか、それとも…二人の照れで互いの体温が上昇したからなのか…。
馬上は暖かい温もりに包まれた。
「ねぇ…雷敬」
「…何だ?」
「今、ふっと思ったんだけど…」
英蓮は、楽陵の胸にその身を預けながら顔だけを楽陵に向けた。
そして、視線を地面に落として呟くように言葉を紡ぐ。
「この乱世…。
しかも、さっきみたいに山賊も徘徊するこの世…。
武人である私達は…『死に往く旅』をしているんだなって思った」
「はは…『死に往く旅』か。 英蓮も上手い事を言う」
「…茶化さないでよ」
英蓮が少々むくれた顔で楽陵を睨む。
すると、楽陵は前方に向けていた顔を英蓮のそれに近づけると、英蓮と同じようにぽつりぽつりと言葉を吐き出した。
「しかしな…英蓮。
人は誰でもこの世に生れ落ちた瞬間から『死に往く旅』をしているものだ。
それは…戦乱の世でも平和な世でも変わらんぞ。
それに…今は傍らに英蓮…お前が居る。
そう思えば…この乱世も、『死に往く旅』も…悪くはない」
楽陵の言葉に、英蓮は暗くなりかけた心に暖かい灯りが点ったように感じた。
こみ上げてきそうな涙を堪え、楽陵の身体をぎゅっと抱き締める。
「うん…そうね、悪くない」
人馬は更に往く。
この平原の先に何があるか。
この乱世の果てに何を見るか…。
彼らは未だ知る由もないが。
それでも往くだろう。
その身、朽ち果てるまで。
死が二人を分かつまで………。
劇終。
アホガキアトガキ
いや~、やっちまいました!
管理人初のフリー夢~☆
しかも、ダブル(トリプルか???)名前変換!
これも初の試みですw
一応、無双キャラでの変換も可能なようにしたつもりです。
(でも、やっぱり限界があるので一人称『俺』限定で…汗)
しかし…お相手に出来るだけ個性を持たせないで書く…
というのがめっさしんどかった!
だって、同じ『俺』キャラでも…話し方や特徴が全然違うんだもんさ!
愚痴はこの辺で(汗
このフリー夢…反響が怖いですが。
こんなモンでも…
もし宜しかったら貰ってやってくださいませ☆
最後までお付き合いくださり、有難う御座いました!
2006.9.17 御巫飛鳥 拝
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