酔狂










 雨が降りしきる。
 これでもか、と言う程激しく…そして冷たく。
 彼方の空までが灰色に溶かされ、そのまま流れて消えていきそうな勢い。
 私は濡れたまま空を見上げ、身体中を伝い落ちる雫の感覚を楽しんでいた。
 他人(ひと)はこれを『酔狂』と言う。
 好きで雨に打たれるような奴はお前くらいだ、と。





 「…
 背後から私の名を呼ぶ声が悦楽の時の邪魔をする。
 「…風邪を引くぞ」
 振り返ると、憮然とした表情をしたが立っていた。



 私が軽くかぶりを振りながら
 「…好きでこうしているの…邪魔をしないで」
 と吐き捨てるように言い放っても、は構わずに私の傍に立つ。
 「何が楽しくて…このような真似をするのか、俺には解りかねるが」
 私と同じように天を仰ぎながら何とも言えない表情をする
 その複雑な表情を見て、私はくすりと笑った。
 「…その解りかねる行動を真似するの方が理解できないわ、私は」
 「はは…そうかもな。 しかしな…一人よりは二人の方が楽しいだろう」
 は私に笑いかけながら言うと、掌に雨の雫を受け止めるように両手を広げる。
 「…何が楽しいんだか」
 私は彼に聞こえないくらい低い声で呟き、再び天を仰いだ。










 雨は更に強く大地を叩き、
 痛めつけるような大粒の雫が辺り一面に水溜りを作っていく。





 「…好きよ」
 私は視線を彼の方に動かし、顔に僅かな笑みを乗せて彼に言ってみた。
 すると、案の定…呆気に取られた様子でが私を見る。
 「…今、何と?」
 その素っ頓狂な顔は普段の彼からは想像できない。
 言われ慣れないのか、何時も同じ表情を向けてくる。
 私が何度も言っているのに…ね。
 だから私は少し意地悪をしたくなる。



 「…『好きよ』って言ったのよ………。 雨が、ね」



 最後に付け加えた一言にはがっくりと肩を落とす。
 「そうか…雨が、か」
 …その落胆ぶりが私の心を擽る。



 貴方は、私に…何を期待するの?



 やはり『酔狂』なのだろうか?
 豪雨に敢えて身を任せ、その感覚を楽しむ自分。
 好きな男の反応を見て楽しむ自分。
 そして…こんな自分に付き合ってくれる隣の男。



 私は、に…何を期待しているの?










 「雨か…。 しかしな、
 再びが私の名を呼んだ。
 先程とは違う、優しい声で。
 私は反射的に彼の視線に己のそれを合わせる。
 すると…。



 「……………!!!」



 強い腕に抱きすくめられる感覚と、雨とは対照的な暖かいものが唇に触れる感覚。
 突然の事で私の目が丸くなる。
 彼は唇を離すと私と再び視線を絡め
 「…お前も同じ表情(かお)をするじゃないか」
 仏頂面で呟いた後…ふん、と軽く鼻を鳴らした。
 …やられた。
 でも、抱きしめられるこの身体が凄く暖かくて…。



 容赦なく降り続ける雨の中…。
 私達はもう一度長く、優しい口付けを交わした…。










 どちらの企みに、どちらが嵌ったのかはわからない。
 だけど…ここで負けるわけには行かない。
 「は…? 雨の中接吻するのが好きって言いたいわけ?」
 私の反撃に彼は再びふん、と鼻を鳴らして軽く笑う。
 「…雨よりもの方が好きだ、と言いたかったのだが。 本当にお前は『酔狂』な奴だな」
 何とも照れくさい台詞をさらりと言ってくれるわ…。
 先程素っ頓狂な表情を見せた男と同一人物か?と疑いたくなる程だ。
 その変わりように私は少しだけ腹が立った。
 「『酔狂』で悪かったわね! その『酔狂』に惚れたのは誰よ!」
 と言ってみる。
 すると…。



 「はは…。 俺も『酔狂』と言う事でいいじゃないか」
 高笑いをしながら簡単に言ってのける
 …今回は私の負けね。
 「くすっ…。 『類は友を呼ぶ』って事ね。 了解」
 「…『友』じゃない。 …俺とお前は『恋仲』だ」
 彼の言葉に私は観念しての腕をそっと取った。










 私と
 肩を寄せながら家路につく。
 雨の中、雨宿りもしないで可笑しな問答を交わす二人を。
 他人(ひと)は笑いながら言うだろう。





 『酔狂』な二人、と………。










 劇終。







 アトガキ

 連休明け一発目更新ブツです(笑

 しかし。
 実は…この作品のお相手は当初『不明』でした。
 不明のまま…ついに『ダブル名前変換』に逃げた私(こら

 ダブル名前変換も本当に久し振りで。
 言うまでもなく様々な『俺キャラ』を妄想しながら執筆。
 一人称での語りもオリジナル以来という…挑戦的(ぇ)な作品になりますた(汗

 執筆時間僅か1時間という。
 全くもって拙い出来になってしまいましたが。
 本当に久し振りにあったかい作品が書けたのではないか、と自負。
 管理人のキャラと同じような『おかしい』モノになりましたが(苦笑

 次回はもっと素敵な作品をご提供出来たらな、と思います(汗
 とりあえず…様々な『俺キャラ』でおかしな世界を楽しんでいただけたら幸いです…。

 ここまで読んでいただき、ホントにありがとうございました!


 2007.5.6     飛鳥 拝


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