――群青色の世界の中、ここ宴の場は明るい。

    今宵最大のステージが今、幕を上げたのだ。



    ――熱い夜は、まだ終わらない――










  瞬夏終闘 後編
     
――続・世界で一番ヤバイ夏――










 「美しい音楽の中………いよいよ美女達の登場です――」
 「父上、ガラシャは美女じゃないのか?」
 「………しっ! 黙っていなさい」



 漫才のような司会っぷりに少々の笑いが起こる中、舞台袖より南国の衣に身を包んだ女達が登場して来た。
 未だと面識のない女性も居ますね、と陸遜は出演者の名前を挙げていく。

 の後方に座る男の妻であるという甄姫を筆頭に貂蝉、大喬、小喬、阿国とビーチで会った仙人・女カ。
 そして――

 「やっほー!」
 「あっ、尚香ちゃん!」

 初め、にカクテルを持って来てくれた尚香の姿もある。
 改めて見てみると正真正銘の美女ばかりで、彼女達が傍に居たら磐石な国でさえもあっさり傾きそうだ。

 「ほえぇ………何処からこれだけの美女を集めて来たんだろう」
 「これも信玄殿のお人柄なのでしょう、何よりも人を大事にする方ですから」
 「うん、凄くいい人そうだもんね…お館様って」

 人徳の厚い者の周りには、人が自然と集まる。
 これも信玄の人となりなのだろう。
 は感心しつつもステージに注目した。







 緩やかな曲の終わりと共に美女達が退場していく。
 それぞれに柔らかい笑みを浮かべて踊る様は至極美しく、そして楽しそうだった。
 前のステージの熱さは何処へやら、今は南国の夜そのままのロマンチックな空気に包まれている。



 「綺麗でしたね、
 「うん、こんなステージなら何度でも見たいね………毎晩やってくれないかな」

 「ふふっ………そうだ、知っていますか? フラダンスの振り付けにはそれぞれ意味があるという事を」
 「あ、知ってる! どれがどういう意味なのかは解らないけど」
 「流れる歌に合わせて踊りに想いを籠めるのですよ――いいですか、よく見ていてください」



 手のひらを自分に向けるのは『私』。
 手のひらを下にしてゆっくり前に出すのは『あなた』。
 そして――



 詳しく説明しながら、陸遜は徐に手のひらを一旦下にして広げてから優しく胸の前でクロスした。



 ――これが『アロハ』の意味――



 「私は貴女を愛しています」
 「うわぁ凄い、気持ち籠ってるねぇ………て、え!?」

 は心の底から驚いた。
 何時の間にかの手が陸遜の手によって握られているのだ。
 戸惑いに目を瞬かせながら陸遜の顔を見ると、穏やかな中にも真剣な様子が覗える。

 「驚かせてすみません、ですが………殿より貴女の話を聞いてからずっと、私は貴女に会いたかった」
 「え、いやあの陸遜???」
 「幸村殿と殿が席を外してくれたのは好機でした。 、貴女は私の思っていた通りの方だ、私は貴女を――」

 「あーちょ、ちょっと待って陸遜。 その気持ちは嬉しいけど…私は未だあなたの事、よく知らないし」
 「………っ! すみません、先走りすぎましたね」

 これもロマンチックなムードのなせる業なのか。
 陸遜はここで漸く我に返ると、固く握っていたの手を解放した。
 しかしがホッと胸を撫で下ろす一方、彼女を見つめる陸遜の瞳には未だ情熱がメラメラと燃え盛っていた。

 「………んもう、ホントに驚いたんだからね!」
 「申し訳ありません、ですが――」



 ――貴女の夏は未だ始まったばかりです。
    私はきっと何時か、貴女の心を掴んでみせます。

    覚悟しておいてくださいね、――













 一方、宴の席を離れたと幸村は――



 「うわっ冷たい! ここも陽が落ちると水が冷たくなるのね」
 「南国といえど夜は少々冷えます――お気をつけくだされ、殿」

 昼間は観光客や水遊びを楽しむ人々が犇めき合うビーチも、今は人が見当たらない。
 そんな夜の波打ち際を、二人は歩いていた。
 は片手に脱いだパンプスを、もう片手は長いドレスの裾を持っている。
 そして幸村もに倣うように靴を片手に、タキシードのズボンを膝までたくし上げている。

 僅かな月明かりが砂浜を照らす中――
 達が居る宴の席同様、ここにもロマンチックなムードが漂っていた。

 「でも、冷たくて気持ちがいいわ。 ドレスを脱いで泳いじゃおうかしら!」
 「うわっ! そ、そそそそれだけは止めてくだされ殿!」
 「ふふっ………冗談よ、幸村」

 静かなビーチに笑い声が木霊した。
 しかし、そんな楽しげな雰囲気も幸村の一言で少々寂しい空気が過ぎる。



 「………殿、ここにはそう長くも居られないのですよね」
 「うん、長くて一月、ってとこかな。 向こうには仕事もあるし」
 「そうですか………残念です」

 心からそう思うのか、幸村が力なく項垂れる。
 その横顔をちらりと見ながら、は彼に出会ってからの事を思い出した。



 この地に降り立って右も左も解らない自分に、一番最初に声をかけてくれた幸村。
 落し物を拾ってくれただけの間柄だった二人。
 それがほんの短い間に随分近くなった。

 この、心にある想いが恋へと変化したのは、何時からだっただろう――。



 「しかし殿、私は………この出会いを思い出にしたくはありませぬ」
 「うん、私も」



 『一期一会』という言葉がある。

 ――たとえ何回も会う機会があるように思う人でも、これが最後かも知れないと考え、そのときを大切に――

 私がここを離れてしまったら、この人とはもう逢えないかも知れない。
 そんなの、考えるのも嫌だわ!



 は今、心にある想いを確たるものとした。
 意を決したように一つ頷くと、改めて幸村に向かって満面の笑顔を見せる。



 「幸村………私の事、好き?」
 「え、あ、も、勿論、私は殿の事をお慕いしております! 私で宜しければ、これからも、その………っ」
 「うん、それを聞いて安心した。 じゃさ――」



 ――向こうに帰っても、また来る!
    お金をうーんと貯めて、何度でも!

    そして――



 「何時か必ず、貴方を迎えに来るから!」
 「えっ!? そ、それはどういう事ですか殿!?」

 「そのまんまの意味よ、幸村! 何時か一緒に暮らそうね、って事!」

 「ま、待ってくだされ殿! そのような事は男の口から言わねば――」
 「あぁもう! 細かい事はいいから、首を洗って待ってなさい、ねっ!」



 嬉しさと戸惑いがない交ぜになってあたふたする幸村を指差し、は不敵ににっと笑った。

 人を愛する心を更に燃え上がらせるのも…この地ならでは、なのかな。

 そんな事を考えながら――。















 ――たくさんの人の様々な想いを孕みつつ、南国の夜は更けていく。



    今、この地は――

              世界で一番ヤバイ夏、真っ盛りである――。










 劇終。



 アトガキ
 
※タイトルは『しゅんかしゅうとう』と読んでくだされ! 情報屋命名v

 お久しぶりの飛鳥です………いやー完全復活まで長かった事!(をい
 というわけで、景気付けの一発はまはなさんへのキリリクでございます。
 64146という素晴らしいミラー番を報告してくださったので気合が入りましたよv

 今回は………以前まはなさん宅へ強制投稿!?したお話の続編です。
 南国無双(まはなさん宅では『m+Beach』という企画名)に捧げるブツ。
 相変わらずのギャグちっくな流れのラストはちょっとラヴラヴなムードで…と書いたのですが…
 ヒロインのキャラ的に、こんな感じになっちまいましたv(笑←笑い事ではない

 ちなみに、思った以上に長くなってしまったため、前後編と分けさせていただきました。
 これも無双と南国への愛のなせる業なんですかね?(←訊 く な

 まはなさん、このようなものでも宜しければどうぞ煮るなり焼くなりお好きにしてくだされ!
 いちゃもん、書き直しなど………いくらでも承りますはいぃっ!

 手前味噌なんで些か不安はありますが――
 改めてこれからもよろしく、という事で!!!




 最後に、ここまで読んでくださった方々へ心より感謝いたします。


 2010.03.17(同18日改訂)   御巫飛鳥 拝


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