「ぃよっし! 頑張るぞー!」
誰かさんのおかげで普通に使うようになったキッチン。
その前で私は思いっきり気合を入れる。
――その誰かさんを、喜ばせるために――
My Sweet Darlin'
――料理なんて、結婚してから勉強すりゃいいじゃん。
そう思ってた私の生活がガラリと変わったのは、ヤツが我が家に居座るようになってから。
ある日、仕事で疲労しきった私の前に現れたヤツは、時代遅れ…てか、いかにも昔の戦場で戦ってましたって言わんがばかりの格好をしてたんだ。
そいつはあんぐりと大口を開けている私の顔を見るなり
「そのようなアホ面下げてわしを見るな! 馬鹿め!」
………なんとも失礼な言葉を吐いて寄越しやがった。
何時もの私だったら「何このヒト!? 超ムカつくんですけど」って言いながらほっといてその場を去るところなんだけど…
その時、なんでかな…違う思いが私の心を過ぎったのよね。
何を思ったのか(未だに解らないけど)、路頭に迷ってるっぽいこのヒトを警察に連れて行ったんだ。
それが、私とヤツ――伊達政宗との出会い。
後日、警察から連絡があってヤツの身元引受人になったお人好しの私。
こうして私と、どうやら戦国時代からやって来てしまったらしい政宗との奇妙?な共同生活が始まった。
それから暫くして――
街はクリスマスソングが流れる、恋人たちの季節になった。
そこかしこにプレゼントを選ぶ人たちが溢れ、楽しそうな雰囲気がありあり。
だけど、それに比べて私は――
「何よ、こんな時くらい外で食事してもいいじゃない!」
「誰が作ったか解らぬものなどわしは要らぬ! 毒を盛られるやも知れぬではないか、馬鹿め」
「今は戦国時代じゃないんだから! もう何度言ったら解ってくれるのよ!?」
「何を言ってもわしは、お主の飯しか食わぬぞ!」
周りの人たちのようにプレゼントを買おうと折角政宗と買い物に出かけたのに、結局口喧嘩で終わっちゃった。
あー最悪。
今年は恋人と一緒に暖かいクリスマスが過ごせる――なんて思ってたのに。
「政宗の、馬鹿め」
本人に聞こえないようにぼそっと呟く。
やっぱ恋人同士になったら一度はやりたいじゃない。
「君の瞳に乾杯」じゃないけど、キャンドルの明かりが揺らめくテーブルに向かい合って座ってさ………
でも、本当は外で食事をする事なんかどうでもよかったんだ。
口喧嘩ばかりの私たちだけど、こんな時くらい仲良く、一緒に居られれば。
――あーあ。 どうして何時もこんなんなんだろう。
さっさか前を歩いて行っちゃう政宗の後姿を必死に追っかけながら、私は白い溜息を吐いた。
季節は真冬――寒さが身にしみる。
この季節はやけにハートフルなイベントが多いように感じる。
――まぁ、心からあったかくなりたいって事なのかな。
チョコレートを湯煎で溶かしながら私は思う。
一年前までは手作りのチョコを好きなヒトにプレゼントするなんて絶対に思わなかった。
本命にはゴディバ。
義理にはメリーかメイジか。
その他大勢にはチロル、なんてね。
もちろん、今年の義理は何時もと同じ。
手作りなんて本命にしかあげないんだから!
………とか言いながら、今日もその本命――政宗と喧嘩。
チョコを作ろうとしてた私を無理やり外へ連れ出そうとした政宗に思い切り怒鳴っちゃったんだ。
「邪魔すんな馬鹿!」ってね。
でも何時もは「馬鹿と言う方が馬鹿なのじゃ! 馬鹿め!」とか言い返してくるヤツが、今日は違ってた。
ふん、とか鼻を鳴らしてそれっきり。
で、「、わしは出かけてくるぞ」と素っ気無い言葉を残して出かけたきり、今は居ない。
だから、チャンスっちゃーチャンスなんだけど………
何故か気になる政宗の態度。
毎回お約束の口バトルがなーんか不完全燃焼なのよね………。
おっと、チョコ溶けたぞ。
湯煎を止めて、溶けたチョコを前もって用意してたハートの型に流し入れる。
これで後は固まるのを待ってデコレーションするだけ。
でも――
デコレーションはどうしよう…?
LOVE=愛、だけど………なんか私たちには似合わないような気がするし………。
だけど、好きなのには変わりないし………
ピンポーン。
「今帰ったぞ、」
チョコのデコレで悩んでたら、何時の間にか夕方になってたみたい。
窓から入ってくる光が、橙色に変わってる。
そんな中、政宗が帰ってきた。
………ん?
でも、玄関先から入ってくる様子がない。
何時もはどかどかと足音を煩く立てながら私のところへ来るのに………。
「どうしたの、政宗?」
気になった私はキッチンから離れて玄関へ急ぐ。
すると――
――え!?
「えぇぇぇぇぇぇっ!? な、何よそれっ!!!」
玄関いっぱいに広がる光景に、私は思いっきり目をひん剥いた。
これこそ、開いた口が塞がらない、ってヤツだ。
「そこまで驚くな、馬鹿め!」
「………いや、驚かない方がおかしいと思う、私は」
荷物の中心に居る政宗が顔を高潮させて何時もの台詞を吐く。
だけど、今度は私の方が怒鳴れなかった。
玄関先に置かれた大きな箱。
美味しそうな香りを漂わせる正体はその隣の大きなビニール袋の中身だろう。
そして――
政宗が後ろ手で持っているのは大きな花束だった。
………隠してるようだけど、バレバレだぞ、政宗。
「――お主の読んでいた雑誌に、今年は逆チョコというものが流行りだと書いておったのでな、にと買ってみたのじゃ」
現代の言葉が少々解り辛かったがな、と政宗がむすっとした表情で私に語る。
政宗がぶすくれてる原因は、もちろん私。
多分、一生懸命選びながら買ったんだろう…その贈り物の数々を見た私の反応が悪かったんだと思う。
驚いて、呆気に取られて………挙句の果てに大笑いときたら、誰でもこうなるに違いない。
政宗が私に、って買ってきてくれたもの、それは――
テーブルの上がいっぱいになっちゃうくらいたくさんの食べ物。
その中心に置かれたチョコレートシフォンケーキ。
で、コンポ台に置いた大きな花束。
「ん…まぁ、たまには外の食事も悪くはないと思ったのじゃ。 、お主の作るものには到底敵わぬがな」
「あははは………あ、ありがとう政宗」
ここに来て、私はやっと実感が涌いてきた。
好きだ、って心を通じ合わせてるのに…何時も大喧嘩しちゃう私たち。
政宗も、その辺は気にしてたんじゃないかな。
素直になれない、ちょっと天邪鬼なお互いの性格。
そしてそんな自分が日ごろのお詫びだとイベントを利用しちゃうところ。
――ヘンなところも、同じなんだね。
だから、笑っちゃった。
でも本当は、とっても………心の底から嬉しいんだよ。
クリスマスの時、『わしは、お主の飯しか食わぬぞ!』と言ってくれた事も。
いっつも悪態ばかり吐いてる私をしっかり受け止めてくれる事も。
そして………一緒に居てくれる事も。
小さな事でも、私にはそれが全部、嬉しいんだ。
だから――
「、何て書いてあるのじゃ、これは?」
「………ふふっ、内緒!」
大きなハートのチョコレートに、ストロベリークリームでこう書いてやった。
これが私の今の気持ちだよ、政宗!
『 My Sweet Darlin' 』
劇終。
アトガキ
ハッピーバレンタイン! ですねー(←まだ早い
ちゅーわけで、こちらは紫乃瑪ちゃんに捧げる夢でございますですー!
………と言っても、バレンタインのプレゼントというキモイものではなく…
以前68286というミラーキリ番を踏んでくださった、そのリクエスト作品でございます。
リクエストの内容は『アホな政宗と一緒に遊びたい!』ちゅーものだったんですが………
わははは、政宗で遊んじゃいました!(←笑い事か!
当初は彼女宅発信のホストネタで行こうかとも思ったんですが…
時期も時期ですからね、バレンタイン企画っぽくこんなネタに仕上げてみました。
(今回は情報屋のアイデアじゃないんで些か不安なんですが)
因みに今回のお話(タイトルも含む)は某アーチストの楽曲をモチーフにしております。
しかし、なんかいいですね、こういう不器用?なカップルも。
ちゅーわけで………
宜しかったらお納めください、紫乃瑪ちゃん♪
(書き直しもツッコミも遠慮なくお申し付けください orz)
最後に、ここまで読んでくださった方々へ心より感謝いたします。
20010.02.12 御巫飛鳥 拝
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