この街――ホスト街・無双は、夜にこそ華がある。
たくさんの男や女が様々な夢を紡いで行く、少々幻想的な街。
しかし――
此度はその 『夢』 の裏で起こった、ちょっとした 『現実』 の話を紡ぐとしよう――
全力青年 〜未来を拓くのは誰だ!?〜
「、お前ならどうする?」
「………は?」
忙しくも楽しい花屋ライフを送っているはある日、親友から話があると呼び出された。
珍しく何時ものバーではない喫茶店で待ち合わせ、席に着いた刹那のたまわれた言葉がこれだ。
主語も述語もないこの唐突な相談にははじめ、少々苦い顔で訊き返したが――
「………あぁ、彼の事ね」
「流石はだ、話が早い」
「私だってこれでもこの街の――っとと! うーん、本人がアレじゃねぇ」
「あぁ、だから私も困っているんだ」
自分が別に持つ顔と、この街のオーナーであると親友である事で直ぐに事情が解る。
二人が言う彼とは、先日行なわれたホストクラブ 『晋』 の店主争奪戦において見事?に惨敗した男――司馬懿。
彼はその後、完全に職なしになってしまった。
かつて支配人をしていた 『魏』 に戻ってみれば既に別の人物にその座を奪われ、更には――
「司馬師も人が悪いよね、父親じゃなくて春華に補佐を任せてるし」
「まぁ、そうせざるを得ないだろうな…彼女の言うように、勝負事はシビアだ」
「あははははは………」
傍から見れば虐げられているとしか思えない境遇に陥っていた。
司馬懿の妻――春華とは普段から親しくしているので話はよく聞いている。
しかし、旦那が職なしになっていいの?とが訊いた時
『旦那様が勝負に負けてしまったのだから、これは仕方のない事ですわ』
涼しい顔をしてさらりと言った彼女の肝の据わりっぷりに脱帽した。
これは旦那よりも息子に期待しているのか、はたまた完全に旦那をほったらかしにしているのか。
しかし春華の性格を考えると今後の彼が心配だ――色々な意味で。
とは思案する。
他の店ではかつての商売敵?だし、そもそも彼の就くようなポジションはない。
雑用をさせるにも彼のプライドの高さを考えるとトラブルにしかならないだろう。
――さて、どうする?
「しゃーないなぁー私が何とかするわ、」
「………いいのか、奴は少々厄介者だぞ」
「大丈夫だと思うよ〜クセのある輩の扱いは慣れてるしね!」
が司馬懿の性質的に手詰まり――と思った刹那、自身から救いの手が差し伸べられた。
心配そうに顔を上げれば、相手はにかっと不敵な笑顔を向けてくる。
その自信は何処から来るのかと思うが流石は親友、その顔を見ていると何もかもが上手く行きそうな気がするから不思議だ。
「――では、この件はお前に全て任せたぞ、」
「御意」
「「くすっ」」
二人、笑いながら喫茶店を後にし、別々に歩き出す。
話が決まれば後は早い――方やは次の仕事へ、方やは早速今思いついた策の実行へ。
心が通じていれば余計な言葉は必要ない――二人の行動はそう言わんがばかりであった。
さぁ、救いの手に彼――司馬懿は如何に答えるか。
「あ、春華? これからアンタの旦那借りるわ〜」
と別れた後、は直ぐに春華へ電話をし、司馬懿を連れ出す旨を伝えた。
勿論、返事は聞かずとも解る――了解、と。
基本相手を束縛しない彼女は、にとってもなかなかに心地いい友人である。
方々に連絡を取り、準備をしたが次に向かった先は河原。
くのいちの情報で、夕方は大概そこで影を背負って佇んでいるという。
足早に河原に着いてみれば、情報通り司馬懿はそこに膝を抱えるようにして居た。
久し振りに会う彼は心なしか痩せ細り、髪も若干白くなっているように見える。
『魏』 ででかい顔をしていた頃に比べればかなりの変わり様だ。
「ちょっといいかな、司馬懿」
「………か。 っ!そのような格好をしてこれから 『仕事』 か?」
のの字を書いていそうな背中に声を掛けると、司馬懿は力なく振り返ったが相手が何時もと違う格好をしている事に驚いたようだった。
そう、はかっちりとした和服――所謂勝負服に身を包んでいる。
彼女がこのような格好をしている時は大概が 『ただ事ではない』 時だ。
素性を知っている元支配人は自分も巻き込まれるのかといった様子で表情に苦いものを含めた。
ところが――
「変に勘繰らないでいいよ、アンタをナンパしに来ただけなんだから」
「………は?」
「は? じゃないよ司馬懿。 どーせ暇なんでしょ、とっとと立って私に付き合いなさいな」
怒ったり慌てたりさせる間もなく、は司馬懿の手を取ってぐいぐい引っ張って行く。
その道中、は春華の了解は取っているとの事とこれから行く先を説明した。
先ずはその疲れた格好を何とかするべく美容院に行き、そして――
「やっぱり和服だよねぇ………どう思う?」
「いや、私はどっちでも構いませんけど………ってか、相変わらずの無茶振りですね姐さん」
「あのね、そもそも原因の一部はキミにもあるのだよ?御前」
責任取んなさい、と自分の無茶振りを正当化するが居るのはアパレルブランド 『幾咲』 のオフィス。
ここの女社長――にとってはよき友人でありしばしば服を頼みに訪れる上客でもある。
今回は何のオーダーかと思えば、疲れた司馬懿に今直ぐにおめかしさせてくれとの事。
この 『事件』 において、が司馬懿を口説いて窮地を救ったと思いきやその本人が深酒のためにすっかり忘れていたという事実。
それが彼の落ち込みに拍車をかけている事に彼女自身も責任を感じているのだろう、はの無茶振りを快諾した。
「――で、今度は何処に殴り込むンですか姐さん?」
「待て待て! 幾ら私が和服でも今日は違うって〜解ってるくせに〜」
「「あははははは!」」
仏頂面としか表現のしようがない司馬懿を店舗の方で待たせ、女二人は楽しく会話をしながら服を選んでいく。
そしてが店舗に戻って程なく、試着室から見事な和装イケメンと化した男が出て来た。
「やっぱいい仕事しますな〜ごぜ…っとと。 なかなか似合ってるよ、司馬懿♪」
「………で、。 そろそろここまでしてどのような話をするのかを聞きたいのだが?」
「あっれぇ〜言ってなかったっけ? まぁいいや、着けば解る事だし」
ちょいと手間取らせちゃったね、と手短にへ電話にてお礼を済ませると再び司馬懿を連れて歩き出す。
その背中に不機嫌そうな質問がガンガンぶつけられるが、本人は何処吹く風である。
予約時間があと僅かにまで迫っている目的地。
そして、意気揚々と歩く彼女が最初から小脇に抱えている一つの大きな茶封筒。
――これが、全ての鍵を握っていた――
二人が最終的にたどり着いた先は、街と街の境にある小さな料亭。
ここは所謂 『兄弟』 である氏康のカミサンが経営しているもので、もちょくちょく利用している。
丁寧な接客に礼を述べつつ通された部屋には、既に豪華な料理が所狭しと用意されていた。
「さ、先ずは乾杯でもしようか、司馬懿」
「………何に、だ」
しかし、ホクホク顔のと対照的に苦い表情を崩す事なくぶっきら棒に答える司馬懿。
それもそうだ、が何も考えないでこの料亭でデートなどとは考え辛い。
何か良くない事でも思っているに違いない、と差し出される盃を取ろうともしない彼にはふるふるとかぶりを振った。
そして――
「やっぱりアンタには率直に話をした方がいいか」
「………何を勿体ぶっている、?」
「あはは! 簡単な事だよ、人を大事なポジションに就かせるんだからこれくらいのおもてなしは当然でしょ」
「どういう事だ?」
「んー意外に鈍いなぁ………いい?アンタ今職なしでしょ? だからウチで雇ってあげようと思って」
料理を端に押しやって、司馬懿の目の前に差し出したのはが大事そうに抱えていた茶封筒。
中を検めて見れば、そこには数枚の契約書やら規約やらがきちんと綴じられている。
これを見て司馬懿が喜ぶかと思いきや、みるみるその顔が上気していくのには少々驚きながらも想定内と心中でほくそ笑んだ。
「ばっ、馬鹿めがっ! 私が…この私が花屋の店員、だと………っ!?」
「あーあーあー待て待てぃっ! アンタにはもっと重要なところも、やってもらうつもりだよ」
――それは、花屋の経理――
そう、が考えた司馬懿の救済策はこれだった。
プライドの高い司馬懿の事だ、ただの店員であったら断るに違いない。
ならばそれよりも高い地位に就ければいいだけの話だ。
それに――
「いきなりで悪いね、でも私、数学は得意だけど算数は苦手なんだよね」
「それで何故、私なのだ?」
「いやぁ〜司馬懿の頭のキレは私も知るところだし?信用のある人がいいと思ってね………これはアンタに しか 頼めないよ」
(で、ここで恩を売っておけば今後も利用価値が高そうだしね♪)
最後の言葉は自分の胸に仕舞って、は料理に手を付ける。
どう?と相手に伺いを立てながら。
するとの持ち上げが功を奏したのか、司馬懿はフハハと高く笑いを零しつつ契約書にサインを始めた。
「まぁがそこまで言うのなら………お前の下で働かざるを得んだろうな」
「それはありがたい! んじゃ、早速明日から出勤してくれない?」
「フ、フハハハハ! 私を誰だと思っている? 今直ぐにでもささっと片付けてやろうではないか!」
「あはははは………今夜はとりあえず私のもてなしに付き合ってよ」
無事に契約を済ませ、二人は改めて杯を交わす。
漸く本来の姿に戻った相手の、何処か楽しい様子を眺めつつは色んなものを含めた笑みを零した。
――さぁ、これからが楽しみ、かな!?――
「ちょっ、待て! これは一体何なんだ!?」
「何、って………作業服とエプロンだけど? ちゃんと 『幾咲』 でオーダーしてるブランドものなんだよ〜」
「そういう問題ではなぁぁぁいっ!! 私は店員になるなどとは一言も言ってはいないぞ!?」
「………誰が経理 『だけ』 と言った、司馬懿?」
次の日。
花屋 『maro』 の店内では司馬懿の大声が響いていた。
どうやら自分が思った事と違う展開になっているらしく、やり場のない怒りに声を荒げる事しか出来ない。
「そもそも私は被害者なのだぞ! それがどうしてこのような――」
「………の、割にはちゃんとエプロン着けてるじゃん。 なかなか似合ってるよ、司馬懿♪」
「うっ、うるさい! お前が何と言おうと私は断じて店先には出ないからな!」
「あーはいはい、いいから早く仕事の説明させてね〜〜〜」
それでもは手馴れたもので、依然文句を言い続けている司馬懿の背中をぐいぐい押しつつ仕事へと嗾ける。
にとってはまさに 『 し て や っ た り 』 であった。
この花屋稼業、くのいちが手伝いに来てはくれているが大層忙しい。
他のバイトでも雇わないとかなぁ、と常々思っていたところにあの事件だ。
争奪戦で (本来は策士の) 彼が敗北したのは少々意外だったが、それはそれ。
彼の人となりはどうあれ、人手が増えた事にの心はまさにホクホクである。
「ほほぉ、司馬懿さんもなかなかサマになってるじゃぁござんせんか♪」
「でしょ? くのちゃんも、これから新入りさんの教育が大変になるけどよろしくね!」
「へい、合点でさぁ姐さん!」
「だから私は店員になどならんと言っておろうがぁぁぁっ!!!?」
この、一見前途多難な状況の花屋 『maro』 。
新たな仲間?を加えて、更なる大繁盛の祈りを込め――
「さぁ、シャッター開けるよ〜!」
―― 本日も、これにて開店!!! ――
― 終 ―
アトガキ
ども、現在ホスト旋風が巻き起こっている飛鳥です。
最近にしては珍しくあまり日にちを開けずに更新でゴザイマス。
此度のお話は、本家様のお話にてちょっとカワイソウになってしまった彼の………
所謂 救済話 です。
(しかしこれは救済になっているのか? 疑問ががが)
「全国の司馬懿ファンに謝れ!」 的な設定になっておりますが………
それはまた別のお話でゴザイマスので(←逃げるな
実はこのお話、随分前に某絵チャにて無茶振り?されたネタですん。
お嬢様方、お待たせしました(汗汗汗
ちょいとクドイかな、といった内容になってるけど、その辺は見逃してね(はぁと←キモイ
毎度毎度好き勝手やらせてもらってますが――
何時ものように紫乃瑪ちゃんのみ、お持ち帰り可能です♪
もう煮るなり焼くなりいぢめるなり…お好きに調理してくださりませ(笑
最後に、ここまで読んでくださった方々へ心より感謝いたします。
2013.06.07 御巫飛鳥 拝
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