ここは、夜にこそ華がある街――無双。
 そして今は昼下がり。
 何時もならば夜を待ち、ひっそりと息を潜めている筈なのだが………

 どうやら、今日は少々勝手が違うようである。










 危機と好機は突然に










 「ふぁぁぁぁあ………なぁ陸遜、向こうさんは未だ到着しないのかい?」
 「そのようですね…渋滞にでも巻き込まれているのでしょうか」



 知る人ぞ知るホスト街――無双――の日中は静かなものだ。
 店は全てと言っていい程閉まっているし、外を歩く人間といえばかなり限られている。
 だが、そんな街の中にあるホストクラブ 『呉』 の店先には今、二人のホストが立っていた。
 仕事中でもないのに 『IKUSA』 のオーダースーツをしっかりと着こなし、その出で立ちは今直ぐにでも同伴出来そうな勢いだ。

 店内のナンバー1を争そうホスト――陸遜と凌統。

 しかし営業時間でもない昼下がりに、何故二人がこの場に居るのか?
 それは、この街を牛耳るオーナーのある提案からであった。





 『お前達、自分の店のパンフレット的なものを作ってみないか?』

 パンフレットでなくとも、ポスターでもいい――とは本人の談。
 ここのところ大きなトラブルもなく、少々中だるみな雰囲気をオーナーは感じ取ったのかも知れない。
 要するにちょっとした宣伝でもしてみろ、という事だろうとホスト達は判断しつつ行動を開始した。





 眠気で今にも目蓋が閉じそうな凌統を横目に、陸遜は腕時計を見ながら思案する。
 打ち合わせした時刻はとうに過ぎているが、写真撮影を依頼している人物が到着しない事には始まらない。

 ――ここはやはり先方に確認を取りましょう。



 しかし、先方と連絡をしようと携帯電話の通話履歴を見始めた刹那――



 「ねぇねぇ、あの人達ってホストじゃない!?」
 「え、マジすごいんだけど! 本物のホストって初めて見るかもーーー!」



 何処から現れたのか、数人の女性が彼らへ向かって猛ダッシュして来た――











 一方その頃――



 街の片隅にある花屋 『maro』 では、店主がせかせかと作業を始めていた。
 今日はこれからホストクラブ数店の花の生け替えをしなければならない。
 仕入れの終わった花を見渡しつつ、今回のテーマを考えるのも彼女の楽しみだったりするのだが――

 「姐さん姐さんご注進! 今 『呉』 の前がえらいこっちゃになってますぜー!」

 ちょくちょく店の手伝いをしてくれているくのいちの一言が直後、それを遮った。
 しかし、これ程の事で彼女の手や思考は止まらない。
 何故なら 『呉』 といえばあそこには甘寧という大きな問題児が居るのだから。
 えらいこっちゃーだったら何時もの事じゃない?とそのままくのいちに返す店主――
 ところが――



 「いや、何時もの喧嘩じゃぁなくてですね姐さん、店の売れっ子が大勢の女子にもみくちゃに――」
 「はぁぁっ!? この時分に何やっとんじゃ奴らはぁ!?」



 続く相手の言葉に素っ頓狂な声しか上げられなくなる。
 事情の全く解らないからしてみれば、まさに 『何やっとんじゃ』 である。
 しかも、その現場はこれから行かなければならない店舗の一つだ。

 最近やっと落ち着いてきたと思ったら…と呟きつつも次第に別の顔になる
 愛用のエプロンを外しながら、話を続けたそうにしているくのいちの手を取ると

 「くのちゃん、アンタだったらもう既に詳しい情報を掴んでるね?」
 「へい! 勿論ですぜ姐さん!」

 誰に向けるか、不敵な笑みを浮かべて店の奥へと踵を返した。











 そして場面は戻り、再び 『呉』 の前――



 「ねぇねぇ、ホストってー彼女居たらやれないんですかー?」
 「月にどれくらい稼いでるんですかー???」
 「あ、すいませーん! 目線こっちにお願いしまーす!」



 大勢の女の子に囲まれ、さながら 『政治家の囲み取材』 のような状況のホスト二人。
 困り果てながらも相手は女の子、興味本位とはいえ悪意のない人達を無碍には出来ない。
 それに――

 「凌統殿、これは我が店の売り上げをアップする好機ですよ」
 「流石は陸遜………今日ばかりはあんたの腹黒さに感謝するぜ」

 陸遜の言うように、もしかしたらこの中に金ヅルになる女が居るかも知れないのだ。
 二人顔を見合わせてこっそりとほくそ笑む。
 さぁ、これから皆に名刺を配って店の宣伝をするか、はたまた質問に答えてやるか。
 そんな事を考えつつ女の子達の方へと振り向く二人。
 ところが――



 「「うっ………うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」」



 ――更に増えてきた女の子の軍勢の中に、その姿が消えた――





 ――が、その次の瞬間――



 「すいませーーーん! フラワーショップ 『maro』 でーっす!」
 「はいはい、これ以上騒ぎが大きくなったら立派な営業妨害になりますぜ、皆さん♪」

 大きな台車に花を大量に乗せ、作業服に身を包んだとくのいちが姿を現した。
 彼女らは徐に台車を動かすと、極々穏やかに店の入り口へと真っ直ぐ進んで行く。
 これで皆が引けば万事解決、花屋の仕事も捗るというもの。
 しかし女の子達の勢いは簡単に収束せず――



 「ねぇ名前は何ていうんですかー? 使ってるのは本名?」
 「ちょっと花屋超ウザいんですけどー?」
 「もう! シャッターチャンス逃しちゃったじゃん!? オバサン邪魔っ!」

 「……………オバサン?」

 「あ、踏んじゃったねー地雷♪ ではあっしはこれでーーーどろん♪」
 「あっ………凌統殿、我々も避難しなければ!?」
 「………女の子達が盾になるからいいんじゃね?」



 女の子の一人が放った言葉に、が完全にブチ切れてしまった。
 台車の積荷から生け花に使用する大きな支柱を手に取ると、それを瞬時に叩き割る。
 そして大きな音に驚いた一同が注目する中、彼女の説教?が始まった。



 「…野良猫どもが揃いも揃ってギャーギャーピーピー五月蝿いんだよ。
  コイツらはね、店の中じゃ 『客寄せパンダ』 だけど、決して 『見せ物』 じゃないんだ。
  どうしても仲良くなりたいんなら………相当の覚悟で口説くか、金を払うんだね。

  陸遜、アンタもらしくないね。
  アンタの事だから、この状況が好機だと思ったんだろ?
  なのに、持ち味の狡猾さが出せないなんてねぇ………」



 静かな中にドスの効いたの声に硬直する女の子達。
 それを尻目に、あーまたやっちゃったーとわざとらしく呟きながら先程割った支柱の片付けをするは、刹那目の前に立つ男の影に気付く。



 「殿、申し訳ありませんがその花の一部を分けてもらえませんか?」
 「あっ陸遜、やっと元のアンタに戻ったね」
 「えぇお互いに! どうせ 『見せ物』 になるのであればちょっとしたお小遣い稼ぎを、と思いましてね」
 「まぁこれも店を通してになっちゃうだろうけどね。 OK!飾り付けは任せて!」



 改めて見渡せば、凌統が女の子達を宥めながら整列するよう誘導している。
 更には何時戻って来たのか、くのいちがいそいそと店先にテーブル等をセッティングしているではないか。



 ――これから握手会でもやるつもりなのかな?――



 だが、これから先の事は自分の管轄ではない。
 はふふ、と軽く笑いを零しながら仕事先である 『呉』 の扉を開いた――











 「はぁっ!? 撮影は明日だった!? 何やっとんじゃワレ!?」



 昼の仕事を全て終え、店に戻って来たはくのいちから事の顛末を聞いて本日何度目かの叫びを上げた。
 結局、あれから陸遜の考えたプチイベントは夕方まで続いた。
 そのため先方へ確認しようにもなかなか出来ず、連絡を取った時には既に遅しだったらしい。

 「あーぁ、こりゃ今夜のあの店は売り上げが落ちるねぇ」

 陸遜も偶にはチョンボするんだね、と独り言を零しながらこれからの営業に備える
 その手に握られるは携帯電話。

 この中には――



 ――店に入る前、こっそり撮っていた陸遜と凌統の画像が、保存されていた――










 ― 終 ―




 アトガキ
 ども、またしてもお久しぶりとなってしまいました(汗
 今回は異色パラレル部屋開通後初の作品となります。
 それまではプレゼントだったり拍手お礼だったり、でしたからねー。

 このお話は、同じく異色パラレル部屋の頂き物コーナーにあるイラスト
 『陸遜&凌統』
 から浮かんだネタを文章にしたものです。

 いわゆる 『写真で一言』 的な(笑

 しかしですね。
 最初は得意の台本形式で簡単にしようと思ったのですが………
 後からどんどん膨らんでいく話!
 したがって、結局夢仕様になったという…しかもメインヒロイン不在(汗

 こんなんでもいーのかなー(棒読み)と思いつつ…
 よろしければお持ち帰りください、紫乃瑪ちゃん!
 (アカンかったら書き直すし!!!)



 最後に、ここまで読んでくださった方々へ心より感謝いたします。


 2013.05.21   御巫飛鳥 拝


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