カランとドアベルが音を立てると同時に、バーテンの「いらっしゃい」の声が重なる。
 やぁ、と軽く片手を上げつつ入ってくる成実の後ろから、仏頂面で入ってきた相手を見やって小首を傾げる。

 「何?珍しい組み合わせじゃん」
 「ん?そこでたまたま会ったからね」

 偶にはいいかと思って誘ったんだよ、と微笑む成実。
 その傍らに腰を下ろしつつ「悪いか」と睨みつけてくる夏侯惇。

 「誰もそんなこと言ってないじゃん」

 手を腰に当てて膨れてみせれば、フンッ、と不機嫌そうに夏侯惇はから視線を逸らす。
 だから知らない。
 こっそり視線を交わした成実とが、意地の悪い笑みを浮かべたことを。
 今夏侯惇がここにいることこそが、すでに仕組まれたことだということを──────。






知らぬは奴ばかりなり 〜煌めく想いと謀〜






 珍しく水ではなくアルコールを注文した成実に茶々を入れつつ、はシェイカーを振る。
 傍らでは佐助が夏侯惇の相手をしつつ、注文された料理を手際よく作っている。

 「あ、そういえば」

 出来上がったカクテルを成実の前に差し出すとほぼ同時。
 タイミングを見計らったように成実が胸元からいくつかの写真を取り出す。

 「お!これって・・・もしかして、もしかしなくても、例のアレ?」

 成実から写真を受け取りつつ、ニヤッとどこか意地の悪い笑みを浮かべるの手元を、佐助が興味深そうに覗きこむ。

 「え、何々!?」
 「ほら、この前姐さんに会ったっつったじゃん?」

 ピクリ、と夏侯惇が微かに反応したのは気づかぬふり。
 見て見て、とわざと夏侯惇には見えないようにして佐助に写真を見せれば、佐助がわざとらしく驚いて見せる。

 「えっ!?これ、ちゃん!?ほんとに!?しかも隣にいるのって・・・」
 「ね?びっくりでしょ!?」

 ほんと最初気づかなかったもんね、と成実を見れば、うんうん、と頻りに頷き返す。

 「うわぁ・・・なんかちゃんすごく楽しそうなんだけど」
 「だよね?私も姐さんのこんな笑顔初めて見たかも!」

 ピクリ、と夏侯惇の顔が引き攣るのがわかったが、あえて触れない。

 「せっかくだから詳しく聞かせてよ」

 あとつけたんでしょ?

 「当たり前じゃん!」
 「ほんと、ってこういうの好きだよね」
 「成に言われたくないし!」

 そう言いつつ、椅子を出す為に手にしていた写真をカウンターに置く。
 もちろんわざと、夏侯惇の目に触れるように。
 チラッと夏侯惇が視線を移したのがわかる。
 それからしばし硬直したのも。
 気付かれないように笑みを溢しつつ、椅子に座る。
 料理を出し終えた佐助もまたの隣に腰を据える。
 そうして準備が整ったのを確認して、は静かに語りだす。
 ある夜の仕組まれた出来事を──────。






 成実と二人、高級レストランの入り口をくぐる。
 慣れない場所に戸惑いつつ、通された席で二人揃って息を呑む。

 『ちょ、成!あれって・・・』
 『ん?──────え、!?・・・と!?』
 『曹操・・・だよね!?』

 え、なんで!?
 しかも和服ばかりの姐さんがドレス!?
 ありえない、と思わず絶句しつつ、二人揃って些か離れた席に座る二人を盗み見る。
 それから適当に注文を終えて、微かに聞こえてくる話し声に耳をすませる。

 『──────本当に良かったのか?儂で』
 『ん〜?なんで?』
 『お主が懇意にしておるのは夏侯惇であろう?』

 知られれば儂はタダでは済まんな、と冗談めかす曹操に、は盛大に溜息を溢す。

 『いいのいいの。いつも同じバーばかりじゃ、さすがにね』

 いくら懇意にしていたとはいえ、飽きが来ないはずがない。

 『こんな素敵なレストランに連れてきてもらったことなんて一度もないし?』

 その点曹操は全然違うよね、と微笑めば、こんなものでいいのか、と曹操。

 『この程度のことで良いのなら、いつでも連れてきてやるぞ?』
 『本当に!?じゃぁこれからは曹操指名しようかなぁ・・・あ、でも曹操店に滅多にいないんだよね?』
 『何、簡単なこと。お主が来るとわかっているなら、毎日でも店にいよう』

 そう言って微笑む曹操に、もまた嬉しそうに微笑み返す。

 『──────成、これ、スクープじゃない!?』

 写真写真!と急かせば、慌てて成実がスーツのポケットから小さなカメラを取り出す。
 相手に気づかれぬように気をつけつつ、幾度となくシャッターを切る。
 その傍らでは「速報!」と題して親友たちにメールを送る。
 その間も二人がたちに気づくことはなく、楽しげな話し声が始終聞こえていた。






 「──────あ〜・・・そういえばこの前咲夜ちゃんが、曹操さんが最近マメに店に顔を出すようになったとか何とか言ってたよね?」

 そういうことだったんだ?
 の話を聞き終えた佐助が、頻りに納得したように頷いている。

 「近頃は姐さんも『魏』に通い詰めてるらしいしね〜」

 チラッと夏侯惇を盗み見れば、思い当たる節があるらしく、いつになく険しい顔をしている。

 「そういえばから聞いたんだけど、このドレス、この日の為に新しく作ったらしいよ?」
 「マジで!?それって曹操の為にってこと!?」

 の言葉に成実が頷く。
 それからチラリと夏侯惇を見やって、とこっそり顔を見合わせてニヤリと笑う。
 もう一押し。

 「あれ?そういえば・・・開店前ドレス姿の人が来てた気がしたんだけど・・・」
 「あぁ、姐さんだよ。今日も曹操のとこ行くって言ってたよ?」

 その前にちょっと顔出してくれたんだよね。

 「今日もアフターでレストラン連れて行ってもらうんだって」

 そういうわけで、バーに顔を出す機会が減っているから、とわざわざ『魏』に行く前に顔を出してくれたのだ。
 そこまで言ったところで、ガタンと今まで黙って拳を震わせていた夏侯惇が立ち上がる。

 「あれ、どうかした?」

 便所か、と問えば、無言で睨まれる。
 そのまま出口へと向かおうとする背に意地の悪い言葉を投げれば、再び無言で睨まれる。

 「今日休みじゃないの〜?」

 返事は返さぬまま、足早に夏侯惇は店を出て行く。
 その背に、いってらっしゃ〜い、と意地悪く微笑みつつが手を振る。




 「──────ぷっ・・・ククク・・・あはは!サイコー!」

 夏侯惇が出て行ったドアをしばし見やってから、が盛大に吹き出す。

 「ほんと、っていい性格してるよね」
 「それは褒め言葉ととっておくよ、成」
 「それにしても、よくあれだけ有ること無いこと言えるよね?」
 「いやいや、佐助だってなかなかだったよ」

 三人顔を見合わせてニヤリと笑い合う。
 それからは徐に携帯を取り出してどこへやらメールを一通。

 『作戦成功!検討を祈る!』

 携帯を閉じて、これからもう一芝居打たれるであろう店の方を見やってニヤリと笑う。

 「ほんと、単純だよね〜」

 これから繰り広げられるであろうやり取りを想像して苦笑する。

 「うまくいくといいね」
 「いかないわけないじゃん」

 なんせ今回は曹操が一枚噛んでるんだから。
 の一言に、二人揃って確かにと頷く。

 「さて、夜は長いし、姐さんの報告を待ちながら、こっちはこっちで楽しもうか」

 の言葉を合図に、佐助がの前にグラスを置く。

 「いいのかい?仕事中だろう?」
 「それ、今更じゃない?」

 常連客が大半のこの店では、バーテンが一緒になって酒を酌み交わしていることも少なくない。
 仕事に支障が出ない程度であれば文句を言われることもない。

 「んじゃ、乾杯」

 グラスを合わせ、一気に煽る。
 それから再び三人顔をつきあわせ、新たな企みを始めるのであった──────。









☆ 作者様のアトガキ ☆

遅くなりましたぁ!!!
某宅の絵チャにて勃発したリレー方式三部作は第二弾!
僭越ながら私が務めさせていただきましたが・・・いかがでしたでしょうか?
有ること無いこと言ってやりましたよ?w
実際はほぼ一緒に出かけ、そして、ほぼ一緒に食事とかしながらいかに惇兄を嵌めるかという話に花咲かせてたに違いありませんw

そしてそして!バトンは最後の姐さんへ!
投げちゃいます!ごめんなさい!受け取って!!w

そんなわけで、今回はちょっと特殊な作品ということで・・・
リレー参加のお二方はお持ち帰りやらリンクやらお好きにどうぞ♪
じゃないと話繋がらなくなるもんねw

と、いうわけで!
ご参加いただいたお二方、読んでくださった皆さん、ありがとうございました!


 ブラウザを閉じてくんなまし。