永久の夢を









 カラン、カラン。



 小さな音を立てて、ホストクラブ『魏』のドアが開けられる。
 と、同時に聞こえてくるのは、いつもの支配人の明るい声ではなく、

 「おいおい、やっと来たか」
 「遅いぞぉ。おいら、腹減ったぞぉ」

 フラフラと歩み寄ってくる巨体に、は一瞬、今潜ったばかりのドアを思わず引き返しかける。
 だが、それより一足早く届く親友の苦笑声に、引き返しかけた足を元に戻し、入口の僅かな階段を下る。

 「許チョ、もう少し我慢しろ。今日の主役はだからな」

 遅かったな、と手招くに詫びの言葉を入れつつ、は辺りを見渡し感嘆の息を漏らす。

 「ごめんごめん。それより・・・何?この、店いっぱいの鉢植えは・・・」

 所狭しと並ぶ、小振りなピンクの花をつけた可愛らしい鉢植えを指差し問えば、はチラとそちらをみやって、あぁ、と一つ頷く。

 「今日の為に取り寄せた。この店には些か不釣り合いだが・・・まぁ、気にするな」

 言われてみれば。
 青一色のこの店に、ピンクの花を咲かせるこの花は、些か浮いて見える。
 ならばなぜ?
 そういえば、今日の為、と言ったか?

 「そういえば・・・今日はいったい何の日?」

 自分が強制的に呼び出された理由はいったい何なのか?
 それに、どうやら他のお客はいない様子。
 そればかりか、店内には所狭しと料理と花が置かれている。

 「何の日って・・・まぁいい。とりあえず、これを」

 これ、と手渡されるのがワイングラス。
 わけも分からず受取って、いったい何、と問う前に、スタッフ一同の明るい声が響き渡る。

 「「「HAPPY BIRTHDAY!!!」」」

 皆の満面の笑みと、溢された言葉に唖然とするの視界の隅に、いたずらに笑むの姿が映る。

 「え・・・えーっと・・・?」
 「おめでとう、

 からの祝いの言葉に戸惑いつつも「ありがとう」と溢す。
 同時に、手元ではグラスの当たる小さな音が零れる。

 「さぁ、飲め」
 「え・・・いやいや────」
 「まさか、私の酒が飲めぬ、とは言わないだろう?」

 なぁ、と意地の悪い笑みを浮かべるに、は一歩後退りつつ、ハハ、と渇いた笑いを洩らす。
 さぁ、と詰め寄られ、如何にこの窮地を脱したものか、と考える最中。
 助け舟、とでも言おうか。
 二人の遣り取りをしばし見守っていた面々が声を上げる。

 「あぁ、さん。いくつになられても美しい!今宵はどうぞ私と共に・・・華麗に舞いましょう!」

 さぁ、と差し出されるのは、小振りな鉢植え。
 いったい何?と首を傾げる間に、張コウは巨体に押し遣られ華麗に退陣。

 「ずるいぞぉ張コウ!はおいらとケーキを食べるだぁ。な?」

 な、と差し出されるケーキを「ありがとう」と素直に受け取る
 であるが、

 「許チョ、それは反則だ。今宵の武器はジャコバサボテンだと言っただろう?」

 やれやれ、とため息つきつつ、ケーキ片手に困った顔のにフォークを差し出しつつ、食べていいぞ、と笑う。
 それからチラとカウンターを見やってため息一つ。

 「曹丕、まだ不貞腐れているのか?」
 「誰が・・・」
 「客を選ぶのがお前の悪い癖だ」

 やれやれ、とため息を零すであるが、曹丕は堪えた様子もなく、フンと視線を逸らす。
 その傍らにはやはり小振りな鉢植え。
 乗り気でない割には凝ったラッピングが施されている。
 呆れたようなの視線に気づいたのか。
 曹丕が勝ち誇った笑みを浮かべつつ

 「手は抜かない主義だ」
 「・・・だそうだ・・・見習ってはどうだ?支配人」
 「放っておけ」

 私の勝手だろう、と不機嫌に顔を逸らせる支配人──司馬懿──が手にするそれは、何の変哲もないただの鉢植えだ。
 端から争う気がないのか。
 はたまたこれで勝てると思っているのか。
 こればかりは本人にしか分からぬこと・・・。

 さて、そうこうするうちに、戸惑うには構いもせずに、次から次へと花が差し出される。
 困り果てるに助け舟を出すのは、企画者でもある自身。

 「さぁ。今宵の相手は決まったか?」
 「いや、そう言われても・・・」
 「どうせ貸し切りだ。全員でもいいぞ」

 クツクツと笑うは思わず顔を引き攣らせる。

 「いやいや!そんな贅沢できないから!」
 「心配するな。金は取らんぞ・・・・・今宵は、な」

 最後はしっかりと強調するに、の小さな舌打ちが続くが聞かぬ振り。
 の背後にまわり、何やらゴソゴソと手元を動かす。
 いったい今度は何、と首を傾げる合間に、の首にはペンダントがかけられる。

 「私からの、ささやかなプレゼントだ。今宵はどうか、醒めることのない至福の夢を」

 腰を折り、流麗に紡ぐ言葉はオーナーのもの。
 胸元で鈍く光る、朱色の小さな石に視線を奪われつつ、今宵の相手を思案する。

 「殿によくお似合いだ」

 さすがは殿、と感嘆する張遼に、私に世辞はいらん、と
 苦笑のにつられるように、張遼もまた笑みつつ、に向き直り、

 「殿がこの世に生を受けたことに感謝を」

 差し出される鉢は他の誰より素朴だけれど、不器用ながらに巻かれたリボンは『魏』を象徴する青い色。

 「ありがとう」

 微笑んで受け取るその姿は随分と自然なもので。
 張遼に手を引かれ、店の中央の椅子へと移動するその姿も見慣れたもの。

 「結局いつもと一緒じゃねーか」
 「あぁさん・・・奮発したのに・・・」

 今宵のために、一番綺麗な花を選んできたのに、と項垂れる張コウ。
 そんな張コウの耳に届くのは、の抜け目ない一言。

 「あ、大丈夫。皆が用意してくれたそれは全部貰うから」

 後で纏めて送ってよ、とはへの言葉。

 「お前という奴は・・・」

 呆れたように零されるの言葉は、最早には届いていない。
 その隣には張遼が。
 そして、二人を囲むように面々が。



 HAPPY BIRTHDAY!
      永久に醒めることのない夢を貴方に。。。。。





 劇終




 ☆ 作者様からのアトガキ ☆

   遅ればせながら・・・
   こんなしょーもないもんで申し訳ないですが・・・
   贈呈させていただきます!
   ホストネタに食いついてくださるお礼にw
   1月30日の誕生花はジャコバサボテン(命の喜び)
   誕生石はジャスパー(永遠の夢)
   ということで、それにちなんで書かせていただきました。
   お相手悩みに悩んで山田さんオチで(爆)
   寧ろヒロインお相手と言っても過言ではないw
   脇役が出張ってますからね、相変わらずw
   ちなみに・・・惇兄&ソソ様は全力で自重ですw
   ということで、改めまして、お誕生日おめでとうございました!!

   2009.2.5 鎹 紫乃瑪



 ☆ ここからは管理人のコメントです ☆

 ウッハウハで押し戴きました!鎹さんからのバースデープレゼント♪
 こんな素敵なお話がいただけるのであれば、誕生日も悪かないかww
 しかもこちら…お忙しい中書いてくださったもの!
 感謝と萌えで流れた涙が大河を創りそうですアタクシ!(←大袈裟

 鎹さん宅にてシリーズ化している『ホスト街』ネタ。
 このお話に私自身が出演するとは!という物凄いサプライズではありましたが………
 拙宅では滅多に出て来ない武将さんが現れたり…
 そして、最終的な私のお相手はやはり山田様でwww
 終始悶えまくりの逸品でございました!

 因みにこちらの設定は、彼女の独立サイトにて展開しております。
 詳しくはこちら→

 この場を借りまして、鎹さんへ心から御礼を申し上げます!
 此度は素敵な夢を見せてくださってありがとうございました!
 そして今後ともよろしくお願い致します!

 2009.02.07   飛鳥 拝礼



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