「あら――ふふ、本当に可愛らしいわ」
進軍途中、ふと立ち寄った小さな村。
今は急ぐ事なく、連れの小次郎も近くの店を散策している。
ここは小さくはあるが、通りには店が立ち並ぶ賑わいと活気に満ち溢れた場所だった。
そんな中――
とは、滞在している別の解放軍と出会った――
燃える女、今が対決の時!?
「え、ちょ、これってゲームの展開と違くない???」
「…この世界にも運命が変わる瞬間、ってあるのね」
混沌とした世界を作り出した張本人の元へ急ぐ解放軍が訪れたのはある村落。
最後の悪あがきをしていた太陽も完全に地へと消え、今夜はこの村で一泊する事になった。
その、村にて出会ったのは――
「??? あら、あなたたち………噂の人ね」
「うっは、貴女はもしや濃姫!」
着物の裾から白い太腿を惜しげもなく披露している、何処から見ても妖艶な女。
そう、彼女はの言う通り――あの魔王の嫁、濃姫である。
彼女はしゃなりしゃなりと二人に近寄ると、下から舐めるように見つめ――
「ふふ、あなたたちの事は忍から聞いているわ………とても強いって事も」
びゅっ!
妖しく微笑みながら目にも留まらぬ速さで袖の中から暗器を繰り出す。
しかし二人もこれまで無駄に戦って来たわけではない。
は愛刀を鞘から抜くと正面から堂々と弾き返し、は濃姫に負けじと身軽に避けた。
「当ったら死んじゃうじゃんか、もう!」
「………ご挨拶ね、濃姫」
「あら、ごめんなさい…でも、あなたたちの強さを確かめるにはこれしかないと思ったの」
今の一撃で全てを察したのか、濃姫は得物を収めるとここで漸く二人に手を差し出した。
彼女も戦を知る身、との強さをこの目で確かめたかったのだろう。
微笑んでいるにも関わらず瞳をぎらりと光らせていた点では、それだけでないようにも見えたが――
「ふふ、本当に可愛らしいわ」
と握手を交わす彼女が浮かべるその微笑みは、相手を認めたという紛れもない証だった。
しかし――
「あー上から目線! 何かムカつくっ!」
どうやらだけは納得がいかないようだ。
濃姫の態度――己の娘か妹を見るような瞳に何故か腹立たしさを覚えた。
差し出した手をばしっと弾き、むぅと膨れた面で濃姫を睨む。
「対等に見てくんなきゃ、その手は握れないね」
「…濃姫はちゃんと認めてくれたわ…これで充分でしょ、」
「あらあら………嫌われたものね」
「ちっがぁぁぁうっ! 私が言いたいのはそんなんじゃない!」
――私だってもうオトナだもん。
可愛いだの護ってやりたいだの、そんな言葉は要らないんだ――
は力いっぱい訴えかける。
その心には何時しかに似たものが存在していたのだ。
誰よりも強くありたいという想いが――
それが、濃姫の態度で大いに逆撫でされたのだろう。
すると、その気持ちに逸早く気付いた濃姫がふっとに微笑みかける。
そこは流石、正真正銘の大人の女だ。
「………つまりは人としても対等で見られたい、って事?」
「うん、そういう事」
「だったら、あなたの力を今一度私に見せてくれない? 対決よ、」
「………え?」
いきなり何を言うんだこの人は?とは思った。
自分の気持ちを察してくれたかと思えば、直ぐに対決を持ちかける。
でも、これで私も戦えると認めさせれば――
「OK。 で――何で対決するの、濃姫?」
「そうね………じゃ、どちらが多くこの村の男を虜にするか、とか――」
「…多分大差で負けると思うわ、が」
「ほっとけ!」
三人の相談の結果、程なく対決内容が決まった。
濃姫を相手に、色気では到底敵わないが提案した対決、それは――
投擲対決!
周りにたくさんの標的を配置し、どれだけ正確にかつ素早く倒す事が出来るか。
これならば大人の色気も経験も必要ない。
更には、この二人はほぼ共通の戦い方をしているから丁度いい。
「………で、何で僕がここに居るんだい?」
「…動く標的があった方が面白いと思って。 …当るのが嫌なら全力で逃げてね、小次郎」
「ひ、酷いよ………」
こんな外野のやり取りはともかく――
即興で村の外に作られた特設会場?にて、と濃姫の対決の火蓋が切って落とされた。
「まずは私からでいいの? ふふ………手加減しないわよ?」
先手は濃姫。
袖の中や太腿などに隠した暗器を次々に繰り出し、標的を倒していく。
いや、彼女の得物には爆弾もある。
標的を倒すどころか次々に粉砕していくその破壊力に、野次馬一同は口をあんぐりと開けっ放しだ。
「………何か、いまいちルールを把握していないようね彼女」
「あはははは! でも、見ていて気持ちがいいよ!」
しかし、とは至極楽しげである。
舞を披露するように動く濃姫は確かに強く、美しい。
そもそも、戦に出る夫を傍で見ていたいがために武器を取った彼女。
その姿が、本気の恋愛を知らないにとっては眩しく、そして潔く見えたのだった。
「濃姫…貴女の戦い、凄かったよ。 でも、負けないからね!」
濃姫の出番が終わり、次はが前へ出た。
あれだけの強さを見せられても、の気合は一向に衰えない。
私にだって私の戦い方があるんだから!と投弾帯を手にぐっと力を込める。
――標的を爆弾で粉砕するのは簡単だ。
でも、それじゃ濃姫の戦い方と変わらない。
だったら――
は地に転がっている石を拾い集め、ウエストポーチに押し込む。
そして、それをひとつづつ取ると次々に標的に向けて投げていった。
びしっ!
かぁんっ!
どんっ!
の放つ石つぶては、一寸のブレもなく標的へ向かい、倒していく。
その鋭さと正確さは流石なもの。
伊達に『元ソフトボール部エース』を豪語してはいない。
そして――
「小次郎! 最後はアンタじゃぁっ!」
「うわ、ちょっと待ってよ! 君の強さはもう解ったからもう終わりにしないかい?」
「問答無用ぅぅぅっ!!!」
石を仕込んだ投弾帯を振り回しつつ逃げ回っていた小次郎をギロリと睨む。
その視線に最後の標的はタジタジだ。
背中に流れる冷たいものを感じながらを宥めようとするが、それも空しく彼女の気迫に圧される。
しかし、小次郎も幾度の修羅場を潜った剣士だ。
逃げても無駄だと解ると、突如己の足をに向け――
しゅっ!
「さぁ、この状況で何が出来るかな?」
瞬時に間合いを詰めてきた!
息がかかる程近付く顔に、の表情が固くなる。
これは、予期せぬ事態だった。
投擲対決だと思って完全に油断していた――まさか、標的が自分に迫ってくるとは。
まるで実戦さながらの小次郎の動き。
その辺も流石、と感心せざるを得なかった。
だが、次の瞬間――
「間合いを詰めたらこっちのもんだ、って?………それはとんだ大間違いだよ、小次郎!」
固くなっていたの表情に笑みが戻った。
そして石が仕込んだままの投弾帯を両手で握ると、まるでスラッガーの如く大きく振り回したのだ!
ぱっかーーーーーん!!!
「あぁぁぁぁ………なんて可哀想なんだ、僕はぁぁぁぁぁ………」
刹那、バットのようにしなる投弾帯は見事に小次郎の体躯を捉えた。
あぁ哀れ、小次郎はの攻撃を受けて遠くに吹っ飛ばされていく。
「………あの可愛らしい娘の何処から………凄いわ」
「………見事なホームランよ、」
「どーだ、恐れ入ったかボケ! あースッキリした!」
こうして、と濃姫の投擲対決は終了。
だが、対決と言ってもそれは勝負が決められるものではなく、結局二人がそれぞれ相手を認める事で決着がついた。
改めてがっちりと固く握手をする二人。
「ありがとう。 あなたの強さ、しっかりと見させてもらったわ」
「こちらこそ。 楽しかったよ濃姫! でね――」
――私、思ったんだ。
これだけ強い人が身内に居る信長って、幸せ者だなって。
だから、私も――
「姉さん、って呼んでいいかな、濃姫?」
「えぇ勿論よ。 私も可愛らしい妹ができたみたいで嬉しいわ」
「可愛い、は余計だけど………ま、いっか!」
「何処かでまた逢いましょう………可愛らしい武士さんたち」
「…次に会ったら私とも対決してね、濃姫」
「ありがとう姉さん! まったね〜!」
一足早く村を去る別の解放軍。
その中に居る新たな『姉』の後姿をしっかり見送ると、は共に旅を続ける親友に微笑みかけた。
アンタとも姉妹みたいなもんだよね、と思いながら――
一方その頃――
「………僕、一体何時までここに居なきゃいけないんだろう………」
村はずれの大木に引っかかったままの小次郎は、未だ来る事のない仲間や助けを待っていた。
――あぁ哀れ、小次郎の身が地に下り立つのは何時の事やら――
劇終。
↓ここからはおまけ(タネ明かし)です。 反転してどうぞ。
(夢のままで終わりにしたい方はご遠慮ください)
――二人ともお疲れさん。 どうだったかな、今回の話は?
「…私の出番が少なかったわ」
「今回は私のターンって事で! たまにはいいじゃんか、」
――どうしても本編(連載)じゃがメインになりがちだからな、すまん。
「…大丈夫。 とっても楽しかったし、友情ものってやってみたかったから」
――そう言ってくれると私も安心だ。 も楽しんでくれたようだし、ミッション達成かな。
「そうだね! 後は連載、頑張ってね飛鳥!(にっこり)」
「……まさか、忘れてるわけじゃないわよね、飛鳥?(にっこり)」
――あぁ、またプレッシャーかけられたぁぁぁっ><
本当の終わり。
アトガキ
相変わらず暖かい拍手連打、ありがとうございます!
此度はシリーズ『筆者の秘密指令!?』第7弾です。
下半期の始まりでっす〜♪
今回もギリギリ………綱渡りですな、ホント orz
此度の指令内容は『美しいお姉さんとガチンコ勝負してくれ』。
これは情報屋がくれたアイデアを元に、をメインで書いてみようと思ったもの。
戦闘シーンってどうしてもがメインになっちゃいますからね。
そういった意味で、今回も楽しく書かせていただきました。
………この二人、本当によく動いてくれます、勝手にね(汗
さぁ、次は誰が生贄になるのか――
それは来月まで(もう直ぐ来ますが;;)のお楽しみ、と言う事でv
あなたが押してくれた拍手に、心から感謝いたします。
2010.10.29 御巫飛鳥 拝
シリーズトップに戻る際はコチラから。
ブラウザを閉じてください。