想い・時を越えて…






「殿…撤退を…」

「まだだ! まだこの戦は終わってはおらんぞ!」


我が陣の乱れ様、敗北は必須…。

相手方の穂先は竹林の如し。

「孫権殿、覚悟ぉぉぉ!!」

突如藪から躍り出る影。

……考える前に身体が動いていた……。


右手に握る直刀は無意識に刺客を斬り殺していた。

「周泰っ!!」

背中に焼け付く様な感覚。

殿の声……殿は無事か……。


「周泰っ!!」

……殿が無事ならば良い……。

「しゅうた……! しゅ………!!」


「…と……の……。生き…て……」

……意識が……呑まれて逝く……。

 




 

寺……であろう建物が見える。

……ここは……何処だ……?


「敵は本能寺にあり!!」

俺の口から俺ではない者の声が出た。

見たこともない銀紫の鎧、見たこともない白銀の彎刀。


…何だ、これは?

奇妙な感覚。

常に冷静たらんとする俺も、流石に心の動揺がある。


馬を駆る左手と脚の感覚、右手に携える彎刀の感覚……。

そして……憤怒と愛憎、野望と敬意、決意と悲しみ……

様々な感情が俺の意識に流れ込んで来る。


「信長様……私は貴方のことが……」

それ以上この口は言葉を紡がなかった。

が……痛いほどこの者の感情が伝わる……。


行く手の寺に火が燈る。

それは瞬く間に拡がり、業火と成して行く。

燃え盛る境内の前、黒尽くめの鎧を着た一人の男が立っている。


「是非もなし……。フン……光秀、来るがよい…!」

「信長さまぁぁぁぁぁっ!!! 御覚悟ぉぉぉっ!!」

馬を駆り、擦違い様にその黒鎧の男に斬りかかる。

その男は左手に瘴気を纏わせて彎刀の一閃を受け止め…

右手の禍々しい剣で光秀と呼ばれたこの身体に斬りかかる。

騎乗してきた馬は切裂かれ、光秀と呼ばれたこの身体に黒刃が迫る。

その刹那光秀の身体は宙を舞い、
蜻蛉をきって一刀をかわしながらさらに信長と呼ばれた男の眉間に斬りかかる。

白銀の雷撃を寸で身を引きかわす信長。

そのままの姿勢で瘴気を放つ。

足が地に付くやいなや信長に駆け寄る姿勢で身を沈め潜り込んで瘴気をかわす。

金行の構え(脇構え)になりつつ潜り込んだ姿勢から急に身体が伸び上がり、その反動を利用し斬りかかる。


……その後何合打合ったであろうか、光秀が信長の瘴気の波動を受け吹き飛ぶ。

辛うじて転倒に耐えた光秀。

距離を捕り対峙する二人……。


この身体……光秀は何を思ったか刀を鞘に納める。

数々の戦場を駆け抜けてきた俺だが……戦場で驚愕したのは初だ…。

「(死合中、隙を見せるとは何だこの光秀という男は……?)」

信長はそれを見るや、黒剣をだらりと垂れ下げる。


「ぉぉぉぉぉおおおおおっ!!」

「ぁぁぁぁぁあああああっ!!」


擦違う黒と銀……



……そして……

……黒が崩れ落ちた……。



「信長様ぁぁぁっ!!」

信長に駆け寄り、抱き上げる光秀。

「信長様ぁぁぁ……わたしは、わたしは……貴方のことが……!!」

「……光秀の天下……余も…見てみたいぞ…よ……」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


そして…本能寺は瓦解した……。

 

 

「…………!! ………い、…ゅうたい!!」

……聴き親しんだ声がする……

意識が……浮上していく……


「…周泰! 周泰っ!!」

「……と……の…?」

「周泰っ! 無事かっ!? 無事なんだなっ!!」

殿の泣きじゃくる顔が覗き込んでいる。

「……殿…取り乱しますな……」

「忠告を、お主の忠告を聴かんばかりに……!!」

「殿が無事ならば…それで良い……」

……俺は心底安堵した……。

 


「……俺は周幼平。この背中の傷を恐れぬのであれば……来い」

白銀の彎曲を鞘に納め、再び俺は戦場に立っている。

光秀という男の技と……志を心身に刻み、あの男が成し得なかった想いを成す為に……。

そして自分自身の想いの為に……。



「……殿を護る……」



劇終。



アトガキ@管理人

めっさ泣けました!
情報屋・陸奥様、有難う御座いますっっっ!!!

『三国無双』と『戦国無双』…夢のコラボレーション!

これは流石に思いつかなかった…。
出来栄えは読んでの通り☆


時を超え、光秀から剣の技を盗み(?)、次の戦へ…
ここで居合い切りを覚えたのねw 周泰さん♪


最初が『直刀』というところも韻を踏んでいて良い☆

しかも、戦闘シーンの迫力!

陸奥様…アナタ天才です!(大絶賛





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