星降る夜に―
プチッ…ヴゥーン…
よしよし。私のおパソちゃんは今夜も元気ね。
毎晩の「お約束」。
いくら疲れて帰ってきても…これだけは忘れる事ができない。
メールチェック―
最初は家でも仕事ができるように、と買ったパソコン。
それがちょっと変わったのは…私が健と付き合うようになって2ヶ月くらいが過ぎてからだった。
健の急な転勤でちょっとだけ二人の距離が離れてしまい、「遠距離」 とまではいかないけれど…今迄通り頻繁に逢えるという感じではなくなってしまった。
離れて…最初は寂しく思い、涙する日々が過ぎたけれど―。
今は 「デジタルな時代」 だから二人を繋げる手段は幾らでもある。
電話やメール…メディアの素晴らしさを感じたのはこれが初めてかも知れない。
まぁ、毎日電話で話してるから別にメールなんて…とも思うけれど、メールにはメールのいいところがあるわけで―
―結局は連絡手段は多いほうがいいって事ですな!!
携帯から着信メロディーが鳴る。
しかし、私は何時もその曲が何の曲かが解らないうちに止めてしまう。
ちょっとしたイントロクイズだな、と思う事もあるけれど…音楽よりも、大事な人の声を聞いていた方が楽しいのは当たり前で―。
「もしもし、茜? …俺だけど」
携帯の向こうから声を潜めた健の声が聞こえた。
未だ職場なのだろう、その声は少しの苛立ちと疲れを私に伝えてくる。
「あ、健! お疲れ様…もう少ししたら一旦メールしようと思ってたんだけど」
「悪いな。 …確か今日は茜の番だったな」
「そうだよ!!…今は平気なの? 大丈夫?」
少し冷めた缶コーヒーの口を開けながら私が心配そうに問うと、「心配かけてごめんな」と電話の向こうで彼が微かに笑った。
「ちょうど落ちついたし、少しだったら大丈夫だよ」
「そっか…良かった。 …毎日お疲れだね」
「まいったよ…今日もいきなりの残業だもんな…。 茜ぇ、聞いてくれよ」
「OK!! 幾らでもお付き合いしますよ!!」
今日、いつもの時間に電話をしようと思ったら…
『今夜、急な残業で帰宅が遅くなる』
健から 『疲れた』 って顔文字つきの短いメールが携帯に入ってた。
毎日する電話だから交代でかけることにして結構経つけれど、こうやって予定が狂うこともたまにはある。
今夜はたまたま健の方の予定が狂った。
毎日電話で話す事といえば…いつも 「他愛のないこと」。
その日にあった事とか、天気の事、お互いの愚痴…
それでも、好きな人と話をするのはとても嬉しくて、幸せに感じるんだけど…やっぱりたまには寂しくなったりもする。
好きな人に 「逢いたい」 って思うのは当然の事。
だけど、それがなかなかできないとなれば―。
一通りあいつの愚痴に付き合ってから…
「あのさぁ、今度…いつ逢える?」
最近頻繁になった、健に対する禁断症状を隠さずにブチ撒けた。
すると、向こうで 「う〜ん」 とマジに考え込む健。
「そうだな…今月と来月は連休がないもんな…難しいな…」
「そっか…やっぱり」
「ん…?どうした? 寂しいのか?」
私の落胆の声をまともに捉えたのか、潜めていた健の声が余計低く聞こえた。
う…ヤバイ。
毎日忙しい彼に心配をかけるわけにはいかない。
私はぶんぶんと首を横に振ると、出来るだけ元気な声を喉から張り上げた。
「うーん、『寂しくない』 って言ったら嘘になるけど…でも、こうして話ができるんだからね。 …それだけでも幸せって思わなきゃ!」
「そうだな…」
こんな感じで今夜の電話は終ったんだけど…健は最後、気になる言葉を残した。
「お前さ、何時も12時頃…寝る前にパソコンのメールチェックしてるんだよな? …今夜は幾ら疲れてても、眠くても絶対に見ろよ! ぜってぇーだぞ!!!」
メールチェックは毎日してるのに…今夜に限ってなんだっつぅーの!!!
まったく…
いつものことだけど…仕事関係、ホームページ関係、友達からのメールからチェックする。
本当は彼からのメールを一番最初に読みたいんだけど…ここは我慢、我慢。
…なんだかんだで12時は回ったけど、ようやく健のメールにたどり着いた。
どれどれ…? 何が書いてあるのかな?
件名 : 同じ想いでいる茜へ
今、職場からこれを書いている。
茜がこれを読んでいる頃は…俺は電車の中にいると思う。
今日は愚痴に付き合ってくれてありがとう。 本当にありがたかった。
いつも寂しい思いをさせてごめんな。
それなのにお前はいつも「平気だよ」って言って俺を安心させてくれる。
でもな…いつも無理しなくてもいいんだぞ。
同じように「寂しい」思いをしてる奴がここにいるんだからな。
今日のお前はちょっと無理をしていたように感じたから…
だから、今日はここで電話でもなかなか言えない事を書こうと思う。
俺は、本当に本気でお前を愛している。
離れてても気持ちまで離れてるわけじゃないから…安心してくれ。
茜、お前には俺の心がいつも傍にいるって事を忘れないでいて欲しい。
今度逢うときまで…お互いの気持ちを傍に感じて、大事にしていこうな。
それじゃ、また明日。
健より―
パソコンの画面がかすんで見えなくなる。
健からのメールを読みながら、何時の間にか私は泣いていた。
でも、それは寂しいからではなく―
―彼の心が傍にあるって事がとても嬉しくて、とても幸せだと思ったから。
少しして、携帯からメールの受信を告げる音が鳴った。
…健からのメール専用の着信音。
私はバタバタと、途中にワナのように置いてあったゴミ箱を蹴飛ばしながら携帯を引っ掴むと、徐にメールを開いた。
件名 : 追伸
メール、読んでくれたかな?
俺は今、家の近くの公園にいるんだ。
寒いかも知れないが、窓を開けて空を見てくれ。
… 一緒に星空を見よう …
メールを読んだ次の瞬間、私は心より先に身体が動いていた。
先程ブチ撒けたゴミをほったらかしに…健の言う通り、すぐに窓を開ける。
すると―
空を見上げると、真っ黒な空一面に…宝石箱をひっくり返したような星が瞬いていた。
それは、すごく綺麗で…手を伸ばせば、直ぐにでも掴めそうな程近くまで光を降り注いでいる―。
あなたも今、同じ空を見上げてるんだね…。
涙が止まらない。
ぼやける星空も、また美しく…この輝きは、私にとっての…あなたそのものだって事を教えてくれた。
キザだと思うけど、それが私の気持ちだから―。
同じ時間、同じ空を見上げ、同じ想いを抱くあなたに…
星空を通して言葉を贈ろう。
星降る夜に…あなたの輝きを見つけた―
今夜も、確かな幸せをくれてありがとう………
劇終。
アトガキ
3万打御礼企画第2弾でございます!
如何だったでしょうか…?
今回は、前回のリベンジが如く少々切なく、可愛らしい?お話をアップさせていただきます。
過去の遺物を手直し…と思いきや!
ほとんど書き直し状態のお話となりました。
しかし、なんとなくいい感じに仕上がったと思うのは…
間違いなく自己満足です、はい(汗
管理人の違った面が見られればこれ幸い!
とりあえずはここで退散いたします。。。
ここまでお読みくださってありがとうございました!
2008.04.03 飛鳥 拝
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