思い出す、涙―
寂しく、気の抜けた時は驚く程ゆっくりと過ぎて行く。
閉めきっていたカーテンと窓を開けると…もう昼間らしく、眩しい光が私の眼を潰そうとするかのように差し込んできた。
外は、新しい季節に移ろうという気に溢れた風が吹き抜けている。
もう春になろうとしているのに、私の心は寒いまま…冬のままだ。
そう…私は失恋した。
「ごめんね…」
彼女は私にすまないという感じで瞳に涙を湛えて呟いた。
彼女の気持ちが手に取るように解る…。
「しょうがないよ。 アイツは私じゃなくてあんたを選んだんだから」
答えた私は愛よりも友情を取った。
この時、私は友情を選んだことを後悔はしてなかった。
…いや、そう思いたかっただけなのかもしれない―。
私と彼女はもう10年来の付き合いで、誰もが認める 「親友」 。
何をするにも二人一緒だったし、不思議と好みも全く同じだった。
そして…当然の如く同じ男性(ひと)を愛してしまった。
それが解った時、彼女は
「二人とも振られればいいのに、ね」
そうすればまた一緒になれる、とぽつり言った。
でも…
皮肉な事に 「アイツ」 は彼女の方を選んだ。
とうとう二人は 「一緒」 ではなくなったのだ。
今ごろは何処かで彼女達は喜びを分け合って、楽しんでいることだろう。
彼女は私も 「一緒」 に、と私を誘ってきたが、素直に喜べなかった。
自分の気持ちに嘘をついてまで二人を祝福したくはなかった。
そして、私は…極々自然と二人から離れていった…。
もちろん、今は後悔している。
誰も悪くはない…こんなことで友情を壊したくなかった。
でも…。
なんとなく外の空気を吸いたくて、車を走らせた。
知らない場所へと向かって行く。
細い道を抜け、ちょっとした雑木林を見つけてそこに車を停めた。
車から降り、雲一つない空を見上げ大きく息を吸いこんだら不意に涙が溢れてきた。
そう言えば、泣いてなかったな…痛んだ心が泣くのを忘れていたみたいだ。
―今は泣こう。
この空に、この緑にこの涙を預けるんだ。
そして、泣き止んだら…涙が枯れたら帰ろう。
「アイツ」 に負けないくらいのいい男………新しい恋を見つけよう。
彼女と再び一緒の時間(とき)を過ごそう…。
数年後―。
「そうか…。 そういうことがあったんだ」
あの時泣いた雑木林へと再び訪れた。
「私は変わってない…。 でも、ここで新しい自分に会えた気がする」
「それが…プラスアルファになったわけだ」
「そういうこと!!」
歩きながら私は彼の腕に自分の腕をからめた。
あれから…私は前向きになった。
素直に二人のことを認めてあげられた。
そして、再び彼女との友情を取り戻すことができた。
一年後、彼女は 「アイツ」 とめでたく結婚した。
子供ができて忙しくなっても、私と彼女は 「一緒の時」 を過ごすのを忘れることはない。
「今思えば、ここで泣いて良かったんだな。 心の何処かで我慢してたんだ、きっと」
木々の緑に目を細めながら彼が言った。
そう―。
我慢していた心をここで解放して、私は少し変わった。
あれから、私はここを 「いい思い出の場所」 としたんだ。
だから今…一番愛する彼と一緒に来て、全てを打ち明けた。
………?
突然、彼が不意に恥ずかしそうに俯きながら両手を後ろに組んで私に向き直った。
そして…
組んでいた両手を前に出すと…手のひらの上には小さな箱がある。
「お前と、一緒になりたい」
思いがけない一言だった。
殆ど反射的に受け取った箱の中身は銀色に輝く、小さな指輪。
何時調べたのか…それは私のために誂えたかのように、ぴったりと私の指に納まった。
左手の、薬指に―。
ただ、嬉しかった。
心の中から何かが沸き立っていく―。
こみ上げてくるものが抑えきれずに溢れ、瞳から止め処なくぽろぽろと零れ落ちていく。
「ありがとう……ありがとう」
繰り返しながら私は…満面の笑みで、泣いた。
今、空から…緑から涙を返してもらった。
「喜び」という形に変えて…
劇終。
アトガキ
3万打御礼企画第5弾です。
とりあえず今作をもって御礼企画をラストにさせていただこうかと思います。
(キリのいい5作目ですし)
最後を飾るに相応しいかはカナーリ微妙ですが。。。
最後は切なくも暖かい話を、と思い…過去の遺物から選ばせていただきました。
超・短編ですがね(汗
管理人の違った面が見られればこれ幸い!
とりあえずはここで退散いたします。。。
ここまでお読みくださってありがとうございました!
2008.05.12 飛鳥 拝
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