心の中の住人 −中編1−
私は、元譲の厚い胸板に身を寄せた。
ちょっとだけ、甘えるつもりで………。
「……」
部分鎧を外した元譲の胸板は、思った以上に逞しくて。
私の頭の中にくらり、と酔いから来るものと違う眩暈を覚えた。
ふしだらだ、と自分でも思う。
別れた男の感触を忘れるために、代わりを求めるって…。
私は、呆れた笑いと共に自分の首を横に振ると
「やっぱり私…酔ってるみたい。
別れた彼氏の代わりに、貴方を利用するなんて…。
ごめん、私どうかしてる」
前言撤回をするために逃げの一言を、吐いた。
私にとってアイツは、もう過去の男だ。
さっきまでちょっと傷付いてはいたけど、もう未練はない。
ちょっと前から薄々感じていたから、心の準備もできていたし。
そして、突然の 『元譲 来々』。
彼の登場で、私の心はそれどころではなくなった。
…まぁ、いろんな事が一度に怒涛のように押し寄せてきたから…自分の思考回路が酔いと共に程よく麻痺した、ってのが正解だろうけど。
それは、私の肩を抱いてくれる元譲も同じだろう。
違う世界に来て、これだけ冷静に居られるのは武人たる所以として。
それでも。
心の中では…今は異世界になる場所で戦い続けている君主の事を考えてるんじゃないかな。
或いは…元に戻る術を、思案しているのかも知れない―。
心中は、穏やかじゃない筈だ。
だけど。
そんな私の考えとは裏腹に、今迄肩を抱いていたと思った元譲の腕が何時の間にか腰に回ってた。
ぐい、と身体が元譲の方へと引き寄せられる。
「えっ…ちょ…元譲!?」
何を…と言葉の続きを吐こうとした私に強い腕の持ち主が口を開く。
「すまんな、…。 どうやら俺も、酔っているようだ」
但しお前の魅力にだが、と付け加えられた一言に私の身体が硬直した。
なんなんだ…!?
このいきなりなシチュエーションは!
これは…もしかして所謂 『酔ったイキオイ』 ってヤツ?
にしても…元譲がこんなに甘い台詞を吐くなんて、ちょっと驚きました…。
と、自分自身動揺してると自覚しながら
「あの…元譲? 貴方の言う私の魅力、って…?」
ほとんど無意識に問いかけてた。
だって、この短い間に…私を100%知ろうなんて、無理な話じゃない!?
何を考えているんだ…この御仁はっ!
すると。
「俺とした事が…不覚だった。 一目惚れしてしまうなど」
私の身体を拘束する元譲が私の顎に指を添えながらのたまった。
う、わ…。
この…至近距離に強引な態度…。
反則ですよ、元譲さん…。
今迄付き合ってきた男共が霞んでしまうくらいの元譲の魅力。
その強い視線にクラクラと酔いが回ってくる。
ダメだ…もう、抑えられない。
私の身体の中で蠢く、衝動を―。
思考回路が完全に元譲へとロックオンされた私は
「忘れさせて、くれる…?」
元譲の腰に腕を回しながら、訊いてた。
そして、夢心地のまま元譲の甘い言葉をしっかりと受け止めた。
「俺にも、今は忘れたい 『事実』 がある。
。
お前の………で。
忘れさせて、くれ…」
カーペットの敷かれた床の上で私達は抱き合った。
淫らな水音を立てながら私の舌を絡め取るぬるりとした感触。
体の芯から痺れてくるような快感に陥り…程なく、お互いの服に手をかけ、ほとんど引き千切るように剥ぎ取っていく。
露になる二人の肌。
直後、元譲の身体に刻まれている大小様々な傷跡に私の心が更に震える。
これは…戦慄か、興奮か―。
元譲が私の肌に触れるより早く、その傷に舌を這わせる。
「くっ…」と元譲の喉から出てくる呻き声は上擦っていた。
私は声を必死に堪えている元譲の顔を見上げながら意地悪く笑ってみせる。
「傷跡、って…結構敏感なのよね」
「うるさい…っ」
「でも…戦って、物凄く激しいんだね。 貴方の体にもこれだけの傷があるんだから…」
一際大きな傷に指を触れ、なぞって。
そして、その指を追うように舐め上げる。
傷も、痛みも…忘れられるように…。
一頻り元譲の肌を堪能した私は、彼の腕によってゆっくりと床に組み敷かれる。
私を見下ろし、私の髪を梳かす元譲の顔が、ちょっとだけ綻んだような気がした。
私の脳裏に、優しさとも違う暖かさを感じる。
これも 『好き』 って事、なのかな―。
何時の間にか零れていた涙に元譲が心配そうに訊いてくる。
「どうした、。 お前も初めてではないだろう…?」
そのちょっと勘違いしたような問いかけに、私は微笑う。
どうやら…。
私も。
元譲、貴方に惚れたみたいよ…。
この涙に、意味があるとすれば…
それはきっと 『幸せ』 だろう。
だって、貴方の優しさを…私の全てで感じるもの…。
露になった私の双丘が元譲の手によって形を変えられる。
ぎゅ、と程よい力で掴まれて…次の瞬間、頂に元譲の舌がかかった。
熱い息と共に舌を絡められ、閉じられていた唇が自ずと開いてしまう。
「ふぁっ…はうぅんっ!」
「これだけで感じてしまうのか…これからが大変だぞ、」
元譲はこう言うと、徐に私の下腹へと手を滑らせる。
「あっ…そこ、はっ!」
漆黒の茂みを掻き分け、奥で硬くなっている茎に指が触れた。
一際敏感な部分に触れられ、私の顔がますます紅潮していく。
荒くなる息は、声を小刻みにしか出してくれない。
「ダメっ! わた、し…まだっ 洗っ、て ないっ」
私の訴えは虚しく宙で消え、いよいよ窪みに元譲の指を受け入れた。
くちゅ、といやらしい音が部屋に響く。
言いようのない羞恥心が私の手を顔へと運んだ。
声を出すまい、と拳を噛む。
しかし、元譲はそれを許してくれなかった。
両手をしっかりと掴むと、片手で床へと拘束する。
「。 …今更 『恥ずかしい』 とは言わせんぞ」
耳元に熱い息をかけられる。
今の私は、それすら最高の愛撫だった。
「ひぁっ! すごっ…いっ!」
身体の芯から、熱いものがこみ上げてくる。
やがてそれは…カーペットに大きな染みを作る程、元譲の指の間から溢れ出てきた―。
「…頃合か」
俺も辛抱ならん、と元譲は自分の欲望が集中している昂りを私の窪みに宛がった。
彼の欲望がこれでもか、という程硬く猛っているのが触れるだけでも解った。
それだけで私の身体はびくん、と跳ね上がる。
「、いくぞ…。 いいか」
低く囁く元譲の声にただただ頷くしかできない。
そして。
元譲の欲望と、私の欲望が…今、一つになった―。
程なく、脳を貫くような快感が走る。
私の腰を掴み、不規則な速さで私の膣中を蹂躙する元譲。
その律動は、瞬く間に私を頂へと導いていく。
そして。
「くぅんっ! あぁぅ…だめ、も、う… くあぁぁぁっ!」
導かれるまま、私は元譲に気をやった…。
再び激しい快感に私は我に返った。
呼び起こしたのは、元譲の律動。
依然私の腰に自分の腰を打ちつけるように突き上げてくる。
「。 もう気をやってしまったのか…仕方のない奴だ」
唇の端を僅かに吊り上げた元譲は、見るからにまだ余裕があるようだった。
私の脚を自分の肩にかけると、更に奥深く押し進めていく。
「ひぁうっ…! そんな、奥まで…っ」
次々に押し寄せる快感の波に、私は完全に溺れた。
私の脚を抱え、激しい律動を繰り返す元譲。
彼の最後を見届ける事ができずに、私は何時しか意識を手放してしまっていた―。
「ごめん…元譲。 せめて最後くらいは、一緒にいきたかったよね…」
私は項垂れたまま、平謝りに謝った。
失態、というわけじゃない。
裏を返せば…元譲のアレの方が強かった、ってこと。
だけど…。
元譲から見れば、何とも情けないものだっただろう。
はぁ、本当に情けない…。
すると、頻りに溜息を吐く私の頭の上に元譲の声が届く。
「、何も嘆く事はない。
それだけ、俺を感じてくれたという事だろう?
俺は満足している。
…お前が気を失っている間、顔がしっかり見られたからな」
「…ふぎゃっ!?」
元譲の一言と、頭に感じる元譲の手に私の心臓が跳び上がる。
そうだ、意識がないのをいい事に、顔を見られてたんだ…。
恥ずかしい…。
だけど、不思議と悪い気がしない。
私は照れながらも笑顔を元譲に向けた。
でも、とそこで私は考えた。
私は元譲に、未だ何もしてあげられてない。
今の私に、何ができる…?
「…そうだっっっ!」
暫く、思案した結果…私の出した答えは。
「今度は、私が貴方の力になる番だわっ!」
いきなりの私の声にちょっとだけ驚いた元譲に対して精一杯の言葉を放った。
大きな力にはなれないかも知れないけど…。
一緒に…元の世界に帰る方法を探そう、と。
ところが。
元譲が返してきた言葉は、またしても意外なものだった。
さっきまで鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたのに、急に表情を元に戻して
「。 お前の気持ちは嬉しいが…俺は今更じたばたするつもりはない」
何ともさらりと言ってのけた。
床に手を付いていた私の肩ががくっと落ちる。
「えっ!? いいの? 元の世界に戻らなくても…?」
直後、必死になって問いかける私に元譲は更に畳み掛けるように言葉を続ける。
「互いに酒が過ぎたようだ…とりあえず今夜は寝るぞ。
どうするか考えるのは明日でも構わんだろう。
それに…今は、お前が居れば充分だ」
…見事に畳み掛けられた。
瞬間。
今迄忘れていた酔いが一気に私を襲った。
その熱い台詞と酔いに、私の意識と同時に身体がぐらりと揺れる。
「…後悔しても、知らないよ…?」
咄嗟に抱きとめられた腕に頬を寄せながら、私は言った―。
→ 後編へ続く。
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