天を駆ける光〜Cross Road〜第12章


     12   〜 操作する者 〜











 テレビモニタに映し出される驚くべき光景に、姉弟は頭に疑問符を浮かべる。
 特に姉――の方は、更に動揺を隠しきれずにあたふたしていた。
 それもそうだ。
 目の前で忽然と消えた親友が、そのままの格好でゲームの画面に現れているのだから。



 「そ、それどんなウラ技っ!?」
 「………俺が聞きてーよ」

 電源入れてエディット画面開いたらさんそっくりの人が居たんだよ、と弟の稜は言う。
 その唖然とした表情を見る限りでは嘘を言っているように見えない。
 更には、我が家は文系の家系。
 ゲームの中を弄るのはおろか、どんなシステムで動いているのかすら理解出来ないのは弟も同じだった。

 だとしたら――

 がゲームの中にテレポートしてしまった、としか考えられない。
 しかし幾ら超能力を使えるという時点で現実離れしているとは言え、これではあまりにも現実を超越し過ぎている。



 「あわわわわわどどどどーしよう稜!? がゲームに入っちゃったぁぁぁあわわわ」
 「???………と、とりあえず落ち着こうぜ、姉さん」



 がエディット化?した事実よりもあり得ない程慌てふためく姉の方に驚きながら、弟は飲みかけのコーヒーをに差し出した。










 暫くして――

 ゲームの画面をそのままに、姉弟はリビングで話し合いを始めた。
 は最後まで迷ったが、ここまで来たら弟に事情を話さざるを得ない。
 ………と言うより、この現実を一人で受け止めるには重すぎたのだ。

 「――成る程、これまでの状況を踏まえると…やっぱさんがこの中にテレポートしちまった、って考えるのが妥当か」

 だが、稜は姉から事実を打ち明けられても至って冷静だった。
 曰く「だって超能力にはテレポートもツキモンだろ?」。
 さんなら出来ると思ってたよ、とあっさり言い放つ弟には頼もしさと同時に今迄黙っていた事が馬鹿らしく思えた。



 「でも………どうしよう? とりあえずサポートセンター?」
 「いや、それは無駄だろ。 『親友がゲームの中に入っちゃったんですけど』って言って誰が信じるよ?」
 「「うーーーーーん」」

 しかし、この現実を受け止めたところで事態が好転したわけではない。
 現時点では――というより、この二人には確実な解決方法など思い浮かびもしないのだから。

 はゲームの中に入ってしまっただろう親友の安否を気遣う。
 果たして無事なのか。
 無事だとしても向こう?は乱世だ………もしかしたら戦に巻き込まれているかも知れない。
 いや――こうしてエディット武将として出ているのだから、もう既に何者かと戦って――



 「………心配だなぁ………あっちの武将さん、ブチ切れたさんにやられてなきゃいいけど」
 「心配するとこ、そこかぁぁぁぁっ!?」





 こんなやり取りはともかく――
 デジタルな知識があったとしても解決方法が見出せないようなこの事実。
 そこで、途方に暮れた二人がとった行動は………

 「とりあえず、プレイしてみっか。 何か解るかも知れないし」



 らしきエディット武将を選んで、まずは弟がプレイ開始。
 モーションは持っている武器が周泰の得物ということもあって、周泰の動きが基本になっているらしい。
 勝手知ったる何とやら、流石ははまっている弟だ。
 いとも簡単に敵兵を倒していく。
 そして、無双ゲージが満タンになり――



 「どけやゴルァ!」



 そのものの声と共に無双乱舞が発動!
 得物を鞘に収めた?が両手を広げ、敵兵をふっ飛ばしまくる。

 「………これって、サイコキネシスってやつよね?」
 「………流石はさん、キレると怖いわ」

 乱戦を嫌う――というよりフラストレーションの溜まったが爆発した、と言わんがばかりの攻撃。
 その、何とも彼女らしい戦い方に姉弟は呆然としつつも感心した。





 こうして、弟の操作するは次々とステージをクリアしていく。
 戦闘中に吐く言葉といい、動きといい、プレイすればする程コイツはだ、と確信せざるを得ない。

 ゲームのシステム的には何ら変わりはない。
 攻撃の方法も、無双乱舞のモーションが特有のものだという以外は。
 しかし、その中でおかしい部分もある。

 他の武将にはレベル表示があるのに、だけにはない。
 エディット武将のところなのに、だけは何の変更も出来ない。

 ………まぁ、この辺の部分はが無双の世界にテレポートした結果のものだから当然といえば当然なのだろうが。





 幾らプレイしてもこの事態に変化は訪れなかった。
 振り出し近くに戻った事態にもどかしく感じながら、二人は顔を見合わせる。

 「しっかし、何でまたゲームの中に入っちまったんだろうな」
 「うーーーーーん」

 弟の言葉に、が消えた時の様子を思い出す。



 あの時、自分が先に横断歩道を渡って………
 信号がギリのところで赤に変わって………
 バスの前にトラックがいて………



 「………あ」



 そう言えば。
 バス停の近くに電気屋さんがあったっけ。
 ゲームコーナーが入り口近くにあって………



 「そこで、三国無双のデモが流れてた!!!!!」
 「それだっ!!!!!」



 姉弟は歓喜の声を上げた。
 これで原因がおぼろげながら解ったような気がする。
 どうやら、デモが流れていたゲームの中にテレポートしたのだ、と。
 しかし、それだけではの家にあるゲームに入ったという証拠にはならない。
 何故なら、そこが電気屋であれば他の人のゲームに入る可能性だってあるのだから。

 「………いや、近くに姉さんが居て、姉さんたちも無双にはまってたから引っ張られたんだろうと思うよ俺は」

 だが、の考えは冷静な弟にあっさりと否定される。
 超能力というのは、その本人の精神状態に左右されるともいう。
 のテレポートも、危機感という精神的に追い込まれた状態で発動する。
 そういった意味では、あの一瞬の間にいろいろな要素がふんだんに盛り込まれたのだろう。



 「………まさに神的な展開、ね」



 そう言うしかなかった。
 しかし、だとしたらがこちらに戻って来るのも神がかりになってしまう。
 向こうで、同じように危機的な状況を作り上げるか、或いは――

 「「………負けてみる、とか」」

 その時、弟も同じ事を考えていたのだろう、二人の声が重なった。
 ゲームとは言え、本当は目の前で親友が倒れるのを見たくはないのだが、やむを得ない。
 原因が解っても解決策が出ない以上、あらゆる可能性に賭けなければならないのだ。
 藁にもすがる思いとはこれ如何に、である。





 コントローラーを手にし、プレイを再開した。
 しかし、今度は何も攻撃する事なく、出て来る兵に体力を削ってもらう。



 「いたっ!」
 「きゃっ!」
 「いやぁぁぁっ! やっぱりだめぇ!!!」

 「………何で姉さんが痛がるんだよ」



 画面の前で身悶える姉にツッコミを入れつつ、弟は適当にを操作する。
 それでもやられっぱなしなのは変わりなく、ぐんぐんと体力ゲージが減っていく。
 そして――

 『敗北』

 の文字と共にが倒れた。
 しかし………



 「………やっぱり、何も起きないわね」
 「わざと負ける、ってのがダメなのかなぁ………」

 今度は難易度を最強にして挑む。
 これは流石に全力で戦っても一気に体力が減る。
 あっという間に敗北を喫するが、結果は先程と同じだった。



 「………あとはさん自身に任せるしかない、か」
 「一体向こうでどうなってるのかな………、無事で居てよ………」



 最初見たエディット画面を見ながら、姉弟は揃って途方に暮れる。
 今の二人にとってまさに策なし――完全な手詰まりだ。



 あとはもう、運を天に任せるしかない――。










続く。



                    












 2010.10.27   更新