――大きな太陽が、水平線にゆっくりと沈んでいく。
だけど――
――熱い夏の夜は、これから始まる――
瞬夏終闘 前編
――続・世界で一番ヤバイ夏――
「ここの花の飾り付けは少々色合いが宜しくありませんね………姜維、やり直してください」
「はい! 申し訳ありません丞相!」
「うわぁ………凄い! 野外パーティなんて初めてだからワクワクしちゃう!」
時は夕刻――
ホテルのプライベートビーチに設えてある準備中のパーティ会場へと赴いたは、あまりの豪華さに心を躍らせる。
目前に広がる会場は、テレビや雑誌などで見たものと殆ど同じ――いや、それ以上だ。
海外旅行には何度も足を運んだだったが、このようなものは今迄体験した事がない。
それだけに、これから始まるパーティに期待を大いに膨らませる。
しかし――
「………でも、席の数が少なくない?」
そう。
豪華は豪華なのだが、その割には規模が小さいのだ。
これだけ大きなホテルなのだから、もっと他に客が居てもおかしくはないのに。
すると、隣で微笑みと共にの横顔を見ていた陸遜が徐に口を開く。
「すみません、。 実は………今迄黙っていたのですが、今宵の主賓は貴女なのです」
「えっ………!?」
「貴女をびっくりさせたいと、殿から言うなと言われていまして………本当にすみません」
「あーぁ、もうバレちゃった。 んもう………陸遜たら言うのが早いわよ」
「………っ! ! ひどーい!騙したねっ!?」
今夜のパートナーとたった今現れた親友の口から告がれる意外な事実にぷぅ、と頬を膨らませる。
しかし、その顔に心底怒っているという雰囲気は窺えない。
それもそうだ――これは自分を歓迎するためのパーティなのだから。
――これは、楽しくなりそうだね。
は緩み始める頬を隠しもせずにいろいろと想像する。
陸遜の話では、この宴では様々な出し物が披露されるという。
「どれもきっと………いや、貴女ならば間違いなく満足する事と思います」
と、満面の笑みで自信たっぷり言われては、彼女も納得せざるを得ない。
「お席のご用意も出来たようなので………さぁ、お姫様方」
「「ありがとう」」
とがそれぞれパートナーの手に導かれつつ自分の席へと座る。
しかし、辺りを見回したはワクワクする気持ちの中に解せないものを覚えた。
それは――
「ふふ、楽しみね…今夜はどのような形で私たちを楽しませてくれるのかしら」
「………是非もなし」
「宴とは………愉悦」
「この名族の袁本初に『何かやれ』などとは、頭が高いわ!」
「騒がしいぞ袁紹。 偶の宴だ、静かに待つがよかろう」
「………ふっ、見苦しいな」
「………ねぇ陸遜、あの人たちって何者?」
――達の後方の席を陣取る数人の偉そうな人物。
達は今さっき確かに言った。「主賓はである」と。
しかし、この様子ではどうしても彼らが主賓のように見えてしまうのだ。
一体、彼らは――?
「あぁ、あの方たちは………このホテルのスポンサーであると武田信玄殿から聞いています。 一応、ね」
「い、一応、なんだ………」
苦笑いを浮かべるの頭の中に僅かながらの不安を抱かせつつ――
宴の幕は今、上がろうとしていた。
「………ごほん。 これより殿を歓迎する宴を執り行います。 司会進行役は、不肖ながらこの明智光秀がやらせていただきます」
「そしてアシスタントは明智光秀が娘、ガラシャが務めるのじゃ!」
「………こらガラシャ、皆の前です。 ちゃんとした言葉遣いをしなさい」
「………よろしく、お願いします、のじゃ!」
しっかりしてるのかしていないのか…この父娘の司会で、パーティは始まった。
まずは飲み物を各自取り、乾杯となるのだが――
「はい、との飲み物はこれよ!」
「え………貴女は?」
「あ、いきなりごめんね。 私は孫尚香! さっき陸遜と幸村に頼まれてね…あなたたちにこれを持って来たの」
「これ…?」
「うん、『マイタイ』って名前のカクテルよ。 でー、この言葉の意味はね――」
「うわっ! 尚香殿! みみみ皆まで言わないでくだされ!」
「何よ、幸村。 あなたが頼んだんじゃない、言うわよー。 これはね、ポリネシアの言葉で『最高!』って意味なんだって!」
二人ともやるわね、と悪戯っ子のような表情を浮かべる尚香の言葉を聞いた瞬間、4人はそれぞれ違う反応をする。
「………いや、あの………些か格好付け過ぎだとは思ったのですが………申し訳ございませぬ、殿」
「う、ううん………凄く嬉しいわ、幸村。 ありがとう」
「――とは言っても、これは私たちの気持ちですから。 勿論受け取ってくださいますね、?」
「あはっ………今夜は貴方がパートナーだもんね。 ありがたく頂戴するわ、陸遜」
「ありがとうございます!」
「あははっ! それは私の台詞よ」
パートナーの粋な計らいで女二人の気分も更に良くなる。
その様子を見て可愛らしいウエイトレスは「頑張ってね!」とよく解らないエールを送りつつ踵を返した。
そして――
「ようこそ!」
一同の暖かい言葉と共に、皆の杯が上げられた。
乾杯の後直ぐに並べられたたくさんの料理に舌鼓を打つ二人。
このためにお腹を空かせていて正解よね、と語りながら次々に平らげていく様子を見てパートナーも満足げだ。
しかし、満足しているのはここに居る面々だけではなかった。
「はっは、ここまで喰いっぷりがいいと、わしも見ていて気持ちがいいよ」
「………おっ、お館様!」
「幸村、そして陸遜。 おことたちも楽しんでおるようじゃな」
笑いながら近付いてくる恰幅のいい男。
そう、この人こそこのホテルのオーナーにして宴の主催者、武田信玄だ。
彼は照れ笑いを浮かべる幸村と陸遜に「折角だからおことたちも楽しむんじゃよ」と声を掛けると、未だ食べ物と格闘?している女性達の前に立った。
「――初めまして、じゃな」
「………! は、ははは初めましてお館様!」
「そう硬くならんでもいいよ。 わしもから話は聞いてるからの、もう友達も同然じゃな」
「はい! ありがとうございます」
「………じゃ、わしもちょっと格好いいとこ見せちゃおうかね――光秀殿」
「はっ! ………それでは、宴を盛り上げるべくこれよりステージの開幕です!」
「まずはお館様こと武田信玄公と太史慈殿による太鼓の演奏なのじゃ!」
おぉっ!
「ねぇ陸遜! オーナー自ら出し物なんて、凄い凄いっ!」
「信玄殿は皆を楽しませる事が好きですからね…しかも太史慈殿は太鼓を得意としていますから私も楽しみです」
腕まくりをしつつステージに向かう信玄に期待を膨らませる。
それは席に着く他の面々も変わらないのだろう、それぞれ笑みを湛えてステージに注目する。
だが――
「太史慈が太鼓とは………ベタ過ぎて傾いてないねぇ!」
突如ステージ袖より現れた派手な男が一声と共に太史慈のバチを奪うと、ドドン!と一発太鼓を鳴らした。
大男の一撃は地鳴りのようにやの胸を見事に突く。
そして、手にしたバチをたちに向けて声を発する。
「さぁ、あんた達も楽しもうぜぇ!!!」
イエェーイ!!!
「くっ………慶次殿、やるな。 しかし!」
「そうだよ、太史慈殿。 わしたちも負けてられんよ」
信玄を筆頭に、予備のバチを持った太史慈と前田慶次の演奏が始まる。
それはまるで戦国時代がここに蘇ったようで、男達の熱き戦いがステージの上で繰り広げられた。
「うはぁ………こんなに熱いステージ、見た事ないよ!」
「うん、私も!」
「殿、殿………宴はまだまだ続きます、楽しんでくだされ!」
「あはは、ありがと幸村。 ………で、陸遜は何処に行ったの?」
太鼓の演奏が終わり、隣を見てみると何時の間にか陸遜の姿が消えている。
確かについさっきまで居たのに………とは不思議そうに小首を傾げた。
しかし問いを投げかけられた幸村は笑顔のままで「まぁもう少ししたら解りますよ」とだけ告げる。
トイレかな………と些か不透明な仮説を思い浮かべつつ、次の出し物が始まった。
「さぁ、次はこの南国の地には付き物といっていいでしょう、ファイヤーダンスです!」
「出演者はぁ………たくさん居るので見てからのお楽しみなのじゃ!」
「殿、ようこそ南国の地へ!」
「………あぁっ! あの時の運転手!」
「ふふ、貴女が驚くのも無理ありませんね………さぁ皆さん、素晴らしい芸でステージを美しく飾るのです!」
松明を手にした団長?張コウの檄を合図に、出演者が火の燃え盛る武器などを持ち、ステージに登場して来た。
先程熱き戦いを魅せてくれた面々の太鼓がステージの演出に一役買っている。
「今こそ、黄天の奇跡をぉぉぉぉっ!」
手にする杖から業火を発しつつふよふよ浮いているのは張角。
「火の神の名の下、アタシもやるよ!」
炎に包まれるブーメランを巧みに操るのは祝融。
「かぁちゃんも出るってんならワシもやるぜぇ!」
何処から引っこ抜いて来たのか、炎塗れの大木を振り回すのは孟穫。
そして――
「火と聞いては黙っていられません! 私も参戦させていただきます!」
「うわぁっ陸遜! ちょ、あああ危ないってやめてー!!!!!」
特注品なのか何なのか………
炎の双剣を手に美麗な剣舞を披露する陸遜。
いきなりの相方の登場には危ない、と必死こいて叫ぶ。
しかし、危険な事をしてるにも関わらず、陸遜の顔は至極楽しげだった。
「………、突然席を外してしまってすみませんでした」
「んもう…驚いたよ。 だけど………凄くかっこよかった、ありがと」
「こちらこそ! ありがとうございます!」
ファイヤーダンスのステージの後――
衣装を着替えて戻って来た陸遜にちょっとだけふくれっ面を見せる。
しかしこれは自分をもてなすために彼がしてくれた事。
あの楽しげな様子はそれだけじゃなさそうだけど、と訝しげな思いを抱きながらもは心から感謝した。
宴もたけなわ――
ステージ上では今回のメインイベントの準備が始まっていた。
手前には南国の植物が美しく飾られ、後方ではウクレレを持つ面々が音合わせをしつつスタンバイしている。
「………いかんな。 このハーモニーでは殿を楽しませる事は出来ん」
「この音の何処が不服なのじゃ周瑜! このわしに言ってみぃ!」
「まぁまぁ、そんなに怒りなさんなって爺さん。 周瑜だってな、一生懸命なんだ」
「爺さんとは何じゃ夏候淵! 一人だけ褒められたからと言ってもわしは認めんぞ!」
「あははっ! あんな感じでステージ、上手くいくのかな」
「ふふっ………あの方々は何時もあのような感じですよ、」
ウクレレ隊の様子に笑いを零しながらもと陸遜の語らいは続く。
ここに来て間もないのに、何故か長い間滞在しているような錯覚に陥る。
これも、南国のなせる業なのかなぁ………
ぼんやり考えながらステージの開幕を待つ。
すると――
「ごめん、私と幸村はこれから席を外すわ」
「………え、どうしたの?」
「これから行われるフラダンスなんですが、殿はもう既に見てらっしゃいますので――」
「うん、だから幸村とその辺を散歩して来るわ。 後はお二人でどうぞごゆっくり♪」
手に手をとってそそくさと退場すると幸村。
いきなりの二人の行動には目を白黒させる。
「こういうものって何度見ても飽きないと思うんだけど………」
「ふふ、お二人はこの短い間に随分親しくなっていますからね…二人っきりになりたいのでしょう」
「………あ、そういう事か」
陸遜の言葉で直ぐに察するところはも大人だ。
あの二人、どうなるのかしら………と思いながら、は既に小さくなっている後姿を見て陸遜と同じ笑みを零した。
「それでは今宵最大のステージです!」
「ウクレレ隊の演奏と、美しい女性達によるフラダンスなのじゃ!」
そして――
司会の一声とウクレレの美しい調べと共に、この宴のメインイベントが始まった――
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※アトガキは後編の後にお送りいたします。