――このたびは当キャンペーンにご応募くださいましてまことにありがとうございました。

    厳選なる審査の結果、貴方様が当選されました。
    おめでとうございます。

    つきましては、添付の資料をお読みください。



    スタッフ一同、貴方様のご来訪を心よりお待ちいたしております――







 「いっ………ぃやったぁーーーっ!!!」

 書面を強く握り締めたまま、は両手を高く天に掲げた。
 彼女がダメ元で応募したキャンペーン。
 その当選を告げる一つの大きな封筒が、忘れた頃――今日になって、降って湧いたように届けられたのだ。

 ――これが喜ばずにいられるかっての!

 刹那、はじわじわと心の中に広がっていく実感と共に玄関口から外へと走り出す。
 直ぐにでもこの喜びを報告したいと思う人物と会うために――。










 1.夢見たものは










 一時の後、は毎週のように訪れている某ファーストフード店にいた。
 目の前のテーブルにはお気に入りのセットと、先程手に入れたばかりの封筒が置いてある。
 しかし彼女はセットを食べようともせず、封筒に同封されていた資料を読んでいた。



 ――『無双OROCHI世界探訪キャンペーン』ご当選者の皆様へ――



 表紙にでかでかと書かれている資料はしかし極々薄っぺらいもので、分別のつく者ならば誰でも直ぐ頭に入るような量だ。
 それを開くと、中には企画の詳細が書かれているのだが………読み進めていたの中にだんだんと訝しげな思いが持ち上がる。

 ………これ、ゲームそのものじゃん?

 そもそも、はじめネット上で公開されていた内容も 『あなたもゲームの中をリアルに散策してみませんか?』 という我々からしてみれば如何にも怪しいものだったらしい。
 それに加え、この資料の内容――



 1.期間内は終日自由行動となります。 あなたのお好きなようにお過ごしください。
 2.現地の生物とは自由に接する事が出来ます。
 3.現地には戦場も存在します。 お気をつけください。
 4.ゲームの中なので生命に関わる事はございませんが、それなりの覚悟をしてください。
 5.上記の事に賛同くださる方のみ、ご参加願います。



 ――生物って、キャラも生物扱いかよっ!?
   気をつけろって………それだけかい!
   てか、それなりの覚悟って何だよ!?



 ふざけんな!と言わんがばかりの投げやりなもので、これが資料と言ったら世間一般の資料があまりにも可哀想だ。
 読んでいるがいちいちツッコミを入れるのも無理はない。
 しかし、同時に好奇心のような興味がふつふつと湧いてくるのも事実。
 「んー………って事はだ、自分がゲームの住人になりきる事も出来るのよねん」
 合点がいったようにうんうんと頷きながらは独り言を零した。
 刹那――



 「…そう、この企画は何でもアリ――行動次第ではこの手で武将を討ち取る事も、出来る」



 の独り言に呼応するような声が突然背後からかかった。
 うわっとその場に飛び上がりそうな勢いで驚き、反射的に声の方へ向くと――そこには資料を覗き込む親友の姿がある。
 「…、お待たせ」
 「うっは、かぁ………驚かさないでよ」
 「…ごめんなさい…が面白いものを見てるから、つい」
 ほっと胸を撫で下ろしているに微笑みかける
 だが、が今しがた吐いた言葉や向けてくる笑顔に至極楽しげな雰囲気を感じる。

 ………確かに、には楽しい事かも知れないね。

 刹那、彼女の頭の中を想像して直ぐに理解した。
 今やの脳内は戦闘の事でいっぱいになっているに違いない。
 何故なら――彼女は幼少の頃から日本どころか世界中のあらゆる武芸に通じていて、戦闘に関してはお手の物だ。
 その事実を知っているからこそ、理解出来る親友の笑顔の裏側。
 しかし――

 「ん? ちょっと待てよ――」

 ここでははたと我に返る。
 今回の企画、当選したのは私の方なのに………なんでの方が楽しそうにしてんだ?
 頭の中に渦巻く大きな疑問。
 幾ら喜びをも分かち合える親友といえど、ここまで喜ぶのは些か不自然だ。
 は微笑みを浮かべつつ遠くを見つめてあれやこれや考えているにしっかり向き合うと
 「なんでアンタがそんなに喜んでんのさ?」
 心のままに問いをぶつけてみた。
 すると――直後、は目の前に叩きつけられた現実に、開いた口が塞がらなくなる。



 ――に視線を戻したその顔には今迄見た事もないような満面の笑み。

 そしての胸には、何時の間にかの持つものと同じ資料が大事そうに抱えられていた――。















 「…とりあえず刀と薙刀――あ、あと飛び道具も必要よね。 …ねぇ、――『くない』は飛び道具のうちに入るかしら?」
 「そんな物騒なモンを扱ってんのに………なんで遠足感覚なんだ、?」



 一時の後――
 善は急げとばかりに、二人は持ち物などの相談をしようとの部屋へ場所を移す。
 しかし、が最初に取った行動はの予想通り――持って行く得物の選定作業だった。
 辺りを見回すと、女の子の部屋とは到底考えられない程に壁や床に飾られている武器の数々。
 はその一つ一つを手に取り、手応えを確かめながら選んでいく。

 「…これはあまりにも重いからバッグに………うん、これなら分解出来るから装備OK」

 表情だけを見ていれば好きな男とのデートに着ていく服を選んでいるようで実に初々しく、可愛らしい。
 普段は滅多に見せる事がないのテンションの高さに、は話しかけるタイミングを完全に失った。
 しょうがないな、と一人メモ書きに持ち物をリスト化しながら考えを巡らす。



 ――あーぁ………、完全にスイッチ入っちゃったよ。
    私はただ、OROCHIの世界を実際に見てみたいってだけだったんだけどなぁ………。

    確かにと一緒ってのはものすっごく嬉しいけど、このまま行ったら――



 「げげっ! 戦闘に巻き込まれる私っ!?」

 突如、の背中に冷たいものが走った。
 改めて資料を見ると、命の保証はしてても負傷や痛みに関しては何も触れていない。
 ここでは先程自分がツッコミを入れた 『それなりの覚悟』 の意味を漸く理解した。

 「やっぱり自分の身は自分で守れってか!?」
 「…その通りよ、。 …大丈夫、私が貴女に合う武器を選んであげるから」
 「そんなんあっても使いこなせなきゃ意味ないからっ! てか、人の話を聞けぇ!?」

 突如の独り言に割り込んだと思えば直ぐに己の作業に戻る
 その笑みを湛えた横顔を見遣りながら、今度は彼女に聞こえないように小さく呟いた。

 「………私にもそれなりの覚悟が必要、って事だね」







 持ち物のリストアップも終え、の作業を見つめていた。
 も自分自身の得物は粗方決まったらしく、今度はが持つに相応しい武器を探している。
 しかし、完全ど素人のに扱えるものが果たしてあるのか――!?

 と、その時――

 椅子の背もたれに引っかかっている物体にの眼が留まった。
 手に取って見てみると――長めの紐の中央付近に何かの皮が縫い付けられている。
 ぱっと見ただけでは使い方はおろか、何に使うのかすら解らない代物だ。
 それの両端をぐいん、と引っ張りながらは一つの仮説をにブチ撒ける。

 「ねぇ、これってもしかして………ヒモパン?」
 「…えぇ」
 「うっそーん! マジで!?」
 「………冗談よ」

 これを着用しているを想像してしまったにとったら笑えないジョークだ。
 だが、にしてみればがその物体を手に取ったのはまさに好都合だったらしい。
 「…丁度良かった。 それ、貴女が使うといいわ」
 「え!? 穿くの?」
 「…クスッ………ちょっと貸して――これはスリングって言ってね、立派な武器よ。 和名は投弾帯」
 の手から投弾帯を受け取ると、軽い調子で扱ってみせた。

 「難しそうだね、それ」
 「えぇ…確かに扱い辛いけど、一度コツを掴んでしまえば大丈夫。 …後は適当に投げて、その間に逃げるだけ」
 「………それってもしかして、数打ちゃ当たるってヤツ?」
 「……………」
 「、なんでそこで顔を斜め45度に背ける!?」

 お笑いネタのようなやり取りを続ける二人。
 しかし、にはの意図がしっかりと解っていた。
 武術に関してはど素人――しかも自分は力のない女だ。
 その自分に勧めるとしたら――

 ………やっぱ 『数打ちゃ当たる』 か。

 から再び投弾帯を受け取ると、は親友の好意に満面の笑みを返した。

 「さんきゅ、!」










 ――ゲームでしか知り得ない世界――

    それは、自分の目にどう映るんだろう?





      ――夢見たものは、もう直ぐ――










 続くぜ!



 突然ですが――
 すみません、オノレの首…自ら締めさせていただきます!(←うわ、言い切っちゃった!

 ついに、この企画でおっぱじめてしまいますた――シリーズもの。
 先も未だ決めていないのに、なんてゴリ押しなんだ自分!?
 しかも、今回キャラが一人も出てねぇし!
 …と叫びたいところですが、何時もの事なので飲み込みます(笑

 因みに、「アノ娘の裏設定がぁぁぁぁっ!」などの文句は一切受け付けません。
 …だって、もう始まっちゃいましたからね。 うひひwww

 というわけで、予てから情報屋と盛り上がりまくっていたネタを此度は発動させちまいました。
 扱いは一周年記念ですが、お話が進んだら何処かに移動させねば……… orz

 最後に――
 ここまで読んでくださった皆様と、素敵?なネタを授けてくださった情報屋に感謝いたします。

 以上、飛鳥でした。 (’09.04.29)




ブラウザを閉じて下さいませwww