彼女の足は、地にしっかり着いてるのか否か――



 見た事もないような場所に立ち尽くす一つの影。
 辺りを見回すと………見慣れた光景は何処にもなく、ただただ一面に草原の蒼が広がっている。
 そして、あなたの手には――



 ――何故か一本の剣が、携えられていた――










 この世に楽園なんて存在しない…だけど

         ― 前編 ―











 あまりにも突然な事だった。
 ついさっきまで部屋にいたのに………?
 困惑の表情を浮かべるを嘲笑うかのように優しく乾いた風が頬を撫で、通り過ぎていく。
 この風も、照り付ける太陽も…今のには全て違うもののように感じる。

 じゃ、ここは一体何処…?

 が思案を巡らせ始めた刹那、頭の中に重い空気と共にある気配を認めた。
 様々なもので混乱していく気持ちを、頭を振る事によってどうにか落ち着かせる。
 こうして、彼女は今迄の記憶を呼び起こしていった――










 …私は一端のジョシコーセーだぞ!
 その『ただの女子高生』がいきなりこんな所で戦えるワケないってば!

 …ん? 戦う………!?



 「うわっ! 何!? なんで私がこんな剣持ってるんだぁぁぁぁぁっっっ!?」



 何時の間にか握られている剣。
 全長は身の丈に満たないが…その切っ先を見ると、何でも斬れてしまいそうな鋭さと冷たさを備えている。
 生まれてこのかた振るうことはおろか、手にした事すらない『武器』………しかし、何故か自分の手にしっかりと馴染んでいるようにも感じるこの剣で、これからこの世界で戦えという事なのか。

 …とんだ無茶振りだわ。

 思わず口から漏れる言葉。





 たった一人取り残された
 突如訪れた自分の境遇に、出るのは盛大な溜息ばかりだった――。













 何もない草原を一人とぼとぼと歩き出した。
 …辺りを見回しても誰も居ない。
 の心にはたくさんの疑問と、不安とが入り混じって存在し始めている。

 「これからどうすりゃいいってのよ、全く…」

 困惑する心に、ふと吐き捨てるように呟いた刹那――



 「ヒャッホゥ! 別嬪さん発見!」



 下卑た笑みを浮かべる大勢の男が現れ、一瞬のうちに取り囲まれていた。
 それぞれの手には切れ味のよさそうな片手斧が握られている。
 「お嬢さん、大人しく俺達に捕まれば悪いようにはしないぜぇ?」
 げへへ、と下品な笑いを零しながら舌なめずりをする男達を見て、の背中に冷たいものが走った。
 つい先程まで感じなかった人の気配、それが一変、突如として敵に囲まれる。
 は、この状況に畏怖の念を覚えながらも心の底に冷静さを持っている事に疑問を感じるが――

 「…アンタ達に捕まっていいようにされたくも悪いようにされたくもない。 どっちもお断りするわ」

 意識し始めてからますます自分と一体化していく剣を、何かの見よう見真似で構える。
 そして、彼女の言葉に逆上寸前の男共に斬りかかった!



 ざしゅっ!



 「………えっ?」



 瞬間、は目を真ん丸くして唖然とした。
 己の剣撃が呆気なく男の身体に食い込み、声にならない呻き声と共に地に伏していく男。
 それと、血糊の付いた刃を交互に見遣りながら小首を傾げる。

 …どういう事?
  素人同然の攻撃が当たっちゃうのも不思議だけど…
  どうして、私…冷静で居られるの?

  …私、人を殺したんだよ………!?

 自分でも可笑しくなる程、の頭は冷静さと戸惑いで綯い交ぜになっていた。
 しかし、混乱するを待たずして男達の言動は進む。
 「やりやがったな! …てめぇら、殺っちまえ!」
 頭らしき男の逆上した怒号に喊声を上げながら武器を振り翳し、に駆け寄った。
 只ならぬ気配にはっと息を呑むが………時既に遅し!

 の身体に、男の振り上げた得物が迫った――



 がきぃんっ!

 ざくっ!!!



 刹那、殆ど反射的に自分の得物で受け流すと同時に、肉を貫くような音がの耳に響いた。
 次の瞬間、自分でも驚く程早い動作で斃れ逝く男の身体を避け、止めの一撃を与える。
 そして――

 「…油断は禁物ですわ」
 視界の端に映る長い黒髪と、耳に届く透き通るような声――

 「あ、貴女は………?」
 「話は後にした方がよろしいかと…」
 の問いを無視するかのように身を低く構え、得物を敵に差し向ける女。
 その姿は、武器を持たなければ舞のひとつでも披露しそうな美しい出で立ちだ。
 しかし、今のには女の美しさ等の余計な事を考える暇はなかった。

 女の言う事が正しい――話はこの荒くれ共を蹴散らしてからだ。



 は意を決したように一つ大きく息を吐くと、剣を再び構えて女の背中に己のそれを合わせた――。













 地に斃れ伏した男共を背にして、この場に相応しくない微笑みを向ける女。
 とりあえず危機からは脱したみたいですわね、と語りかけてくる。

 …やっと、話が出来る。

 は安堵の息を吐くと、改めて女と向き合ってその姿を視界に捉えた。

 「助けてくれてありがとう…私は。 貴女は?」
 「私はと申します。 よろしくお願いしますわ、さん」
 「え、あ…よろしく、

 やんわりと差し出された右手を心のままに掴む。
 すると――

 今迄困惑していたの頭の中で一筋の光明が見えたような、気がした。










 一端の女子高生がなんでいきなり普通に戦える、とか…斬られたらどうなるか、とか………
 疑問や不安は吐いて捨てる程たくさんある。

 だけど――



 ――この世界に来た以上…頑張って戦い、生き抜くしかないんだ――










 後編(Vol.1)へ続く。

 後編(Vol.2)へ続く。



 飛鳥作夢小説第9弾にございますー!
 またしてもお待たせしてしまい、申し訳ないです orz

 今回は『前編』という文字の通り、お話に続きがございます。
 しかも…ネタが2つ出来てしまったがため、選択式の後編となります。
 スミマセン、前置きがえらく長くなってしまって…;;
 前編にはそれぞれのお相手さんが登場しておりませんが…
 すみません、序章なんで勘弁してください orz
 (てか、この二人だけでお話が成立してしまっているところが怖い;;)

 先を引っ張ってしまう結果になりましたが…
 このお話で少しでも楽しんでいただけたら幸いです。(’08.09.23)




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