天を駆ける光〜Cross Road〜 第2章


     2   〜 心を見透かす者 〜










 「何だったんだ? あのオッサンは…」
 自分のPK(サイコキネシス)が間違いなく致命傷を与えた、と思っていたは、何事もなかったかのように去っていく一団を茫然と眺めながら呟いた。
 そして…再び一人。
 さて…どっちに歩き出すかな、と指を舐めて風向きを見る。
 『風向きで行く方向を選択する』。
 少々古めかしい方法だが、彼女的には
 『現段階では一番妥当な方法』
 …と思ったらしい。
 目を閉じ、風を読む。
 そして、指に感じる風の向く方向へと踵を返した。





 すると――
 背後にまたしても人の気配。
 今度はちゃんと話が出来る人だといいんだけど…と恐る恐る振り返る
 刹那、目の前…物凄い至近距離に立つ人影。
 その姿は――
 深い青に彩られた上等そうな装束を身に纏い、手には黒い羽を束ねた扇を携えている。
 あまりにも現実離れした格好と、それが至近距離にある事に驚いたは――



 「…うわぁ!!!」



 その身を後方へ弾かせた。
 びっくりした…。
 またしても『無双コス』かよ…。
 が纏まりのつかない頭でちょっとしたツッコミを入れる。
 張角の次が司馬仲達?
 時代がちょっと飛びすぎてない?と少々的の外れた事を考えていると、目の前に佇む青装束の男が口を開いた。
 「…そんなに驚く事はなかろう、馬鹿めが」
 「…!」
 初対面の人間に開口一番、こう言われて…はムカっ腹が立った。
 いけない、と思いつつも言葉が自然と出てくる。



 「…驚くわ、ボケェ!」



 が思わず放った言葉も些か失礼だとは思うが、確かに…振り返った真後ろに人が、それも現実離れ!?している人物が立っているのでは驚くのも無理はない。
 コスプレしてるこの人には悪いけど…司馬懿ってどこまでも失礼な奴なのね。
 は両手を挙げ、「やれやれ…」とかぶりを振った。





 さて…どうしたもんか。
 目の前の『策士もどき』は黒い羽扇をわっさわっさ扇ぎながらにやり、と笑ったままだし。
 しかし………。
 見れば見るほどあの『三国無双』の司馬懿に酷似している。
 もしかしたら…大掛かりなドッキリに引っかかってる!?
 はいきなり別方向に考え始めた。
 私が…三国無双のファンだってどっかから…にでも聞いたんじゃ?
 あの娘は何気に『策士』なところがあるからなぁ…。
 私に黙って…極秘裏に動く事なんかわけないだろうし…。
 とに向けて八つ当たり紛いの思いを巡らす。
 だが、そんな考えは目の前の『策士』によってあっさりと覆された。
 「お前…現実から目を逸らそうとしてはいまいか?」
 「…へっ!?」
 素っ頓狂な声を上げ、瞳をぱちくりと瞬かせているを余所に、男が言葉を続ける。



 「…馬鹿めが。
 この場がお前が言う『現実』とかけ離れているという事が…未だ納得出来んと見える。
 やはり…私が教えねばならんか」



 共に来い、と眉間に皺を寄せながら手を差し向ける男には戸惑いの視線でガン見した。
 この男…。
 私の心の内を見透かしている!?
 適当に言ったにしてはあまりにもタイムリーだ。



 飛ばされたこの場所。
 それが、今迄いた所と全く違う…ということには薄々だが、確かに感じていた。
 しかし――
 の持つ『力』が超人的とは言え、まさか異なる世界にまでテレポートできるとは考え難い。
 彼の言うように、には納得できない部分があった。
 …当然の事だが。
 目を伏せて腕を組み、思案に走るの頭脳。
 このまま、目の前の男について行っていいのか。
 それとも…。



 いや、このまま一人でいても何も変わらないような気がする。



 はかぶりを振り、心で「よし!」と掛け声をかけると瞳をしっかりと見開く。
 そして
 「…貴方について行けば、解るのね」
 それなら一緒に行くわ、と青装束の男と視線を合わせた。
 決心をし、真っ直ぐに向けられる瞳。
 それをしっかりと真正面から受け止めると、男は満足げに頷きながら黒い羽扇をわっさと振り、ふんと軽く鼻を鳴らした。
 「ようやく『現実』を受け止める気になったか」
 「えぇ。 早く元の場所に帰りたいしね」
 ここに来てようやく出たの笑顔。
 しかし、その笑顔は男の一言によって再び消える事になる。
 「…それは保障しかねるが。 まぁ、今の状況よりは少しは進展すると思うぞ」
 「えっ…? それはどういう…」
 どういう事?とは言い返したかった。
 しかし、男はそんなを無視するかのように一瞥すると。
 徐に自分の指を口に咥え、口笛を吹いた。



 ピィーーーーーーーーー!



 青い空に高らかに響く音色。
 次の瞬間、何処からともなく黒毛の馬が一頭現れる。
 それは、今迄馬の気配が微塵にも感じられなかったにとっては驚きだった。



 「…うわっっっ!」



 またしてもその身が後方に弾かれる。
 まさか…移動手段が、馬!?
 ますます現実離れしてるわ…。
 目を白黒させるを楽しげに見つめながら、男は黒毛の馬にひらり、と跨った。
 その出で立ちに似合わない颯爽とした動き。
 そして、の腋から不意打ちとばかりに腕を差し込むと――

 「ちょっ…バカ! 何すんのよっ!」

 いきなりの事で盛大に暴れるを軽々と抱え上げ、自分の前に乗せた。
 有無を言わせず馬に跨る事になった
 しかも、青装束に身を包んだ男の前…。
 「少々窮屈だが…仕方がない。 このまま行くぞ」
 男はそれに構わず馬の腹を蹴る。
 軽く嘶き、軽快に走り出す黒毛の馬と慣れた手つきで手綱を操る男。
 は一連の動きに感嘆しながらも気恥ずかしいやら何やらで…。
 空いている手をじたばたさせながら、心のまま言葉を口から吐き出していた。
 まるで、照れ隠しのように………。





 「ちょっと! 私スカートなんだって! 捲れるっ! パンツ見えるっ!
 それに、なんでアンタの前なのよ! 腕が腋に触ってキモイって!
 そんなに早く走んないでよ! お尻が痛いっ!


 あ〜っ!!! だからスカート捲れるってぇぇぇ〜〜〜!!!」










 続く。



                              












 2007.8.14   更新