「――ふぅん、やっぱり君達はこの世界の人間じゃないんだね」
娘二人の口から語られる真相に驚いた風もなく、小次郎は一つ零した。
彼の人を探す旅を続ける最中、偶然見かけた勇ましい娘達。
方や目の覚めるような剣撃をその細腕から繰り出し、方や予想外の素早い行動で強敵を翻弄する。
一見相容れないと思われる二人の動きが見事な連携を見せた瞬間、小次郎は思わず感嘆の息を洩らした。
――へぇ、何も出来ないような女の子が、ねぇ。
なかなかやるじゃない。
刹那、小次郎の中に湧き上がる彼女達への興味。
それは彼に行動を起こさせるに充分な意味を持ったのだった。
3.彼の人の名は…
ひょんな事から現地の第一生物――佐々木小次郎と行動を共にする事となったと。
(異形の者に関しては生物と認識していないようだ)
その道中、は始めから気になっていた事を小次郎に問う。
「…ねぇ、小次郎――私達、何処に向かっているの?」
この乱戦必至な世界――
彼の人を探すと言っても、当てがないなんて事は先ず考えられない。
当てのない旅は、大小様々な乱戦に巻き込まれる事を意味する。
それでは自身の体力をも無駄に消費するだけだ。
しかし――
「え? 僕は武蔵を探しているだけだよ――それが何処かなんて解らないな」
自分の思いとは裏腹な答えに、はがっくりと肩を落とした。
まさに当てが外れた瞬間である。
…まぁ、確かに――小次郎は戦国無双でも武蔵武蔵だったわね。
そんな彼には探す当てなど必要ないのだろう。
やれやれとかぶりを振ると、は物珍しそうにきょろきょろ周りを見渡しながら先を歩くに視線を走らせ――
「…今後も乱戦連続になりそうよ、」
独り言紛いの言葉をぽつりと零した。
更に続くたった三人の行軍?――
その足が漸く止まる時が、程なく訪れた。
目の前に見えるは大きな民家風の建物と、近くから上がる湯煙。
それはこの世界が出来た時に受けた数少ない恩恵である温泉だった。
「…商魂逞しいわね、誰か解らないけどこんな世界に温泉宿を経営するなんて」
「ちっちゃな事は気にすんな、! 早速入ろうよ、温泉!」
「こんな所に温泉宿なんてあったっけ………まぁ、いいか。 僕も身体を綺麗にしたいしね」
感心する間もなくと小次郎に半ば強制的に手を引かれる。
しかし、その顔には二人と同じような笑みが零れていた。
流石に何日も風呂に入らない生活は嫌なのだろう…その辺は現代娘ならではである。
これが、今夜の宿決定の瞬間だった――。
「…はぁ、やっぱり温泉はいいわね…まさに極楽極楽って感じ」
「何じじむさい事言ってんの。 …でも、気持ちよかったぁ」
宿に入って手続きを済ませた後、三人は早速滾々と湧き出る温泉を堪能した。
幸い?にここの温泉は混浴ではなく、ももここまでの旅の疲れと汚れを綺麗さっぱり落とす事が出来た。
今は借り物の浴衣に身を包み、日帰り客を対象とした休憩所でのんびりしている。
しかし――
「…ねぇ、。 あれから結構時間経ってるけど………小次郎、遅くない?」
「あ、そう言えば………大丈夫かな、ヤツ」
たった今まで旅行気分を味わっていたが、の言葉で思い出したように温泉の方へ視線を走らせた。
確か、小次郎は別の入り口からほぼ同時に温泉へと入った筈だ。
それなのに、基本長湯の女より出てくるのが遅いとはどういう事なのだろう?
湯当たりでもしてしまったか、と流石に心配になって顔を見合わせる二人だったが刹那――
「やぁ、君達………もう出てたんだね。 白塗りを落とすのに手間取っちゃって――」
――あ。
「「小次郎第3モデル、きたーーーーーーーーーーっ!!!!!」」
風呂上りの小次郎の顔を見た瞬間、娘二人から同時に喚声が上がった。
それもその筈――
普段見せている白塗りの顔だが、おしろいを取ってみれば男前。
OROCHIでは、その姿が第3モデルとして使用可能なのだ。
二人は言うまでもなく彼でプレイする時は第3モデルと相場が決まっていた。
それを――特に気に入っている顔を実際目の前にしたのだから、嬉しい悲鳴が上がるのも無理はない。
「ねぇ小次郎、ちょっと一緒に写メしていい?」
「…待って、まずは彼単品で一枚撮りましょうよ」
「「うわぁ………近くで見るとますます男前だわぁ――」」
「あ、あのね君達………僕、今の状況がよく解らないんだけど」
今までとは明らかに違う扱いに、小次郎は戸惑いを隠せずにいた。
何が彼女達をこのように動かしているのか――
それは今の自分の『顔』に他ならない。
刹那、風呂のあまりの気持ちよさに重要な事を忘れていた小次郎が思い出したように袂の中を探る。
「あぁ、おしろいを塗り忘れていたんだね僕。 ………ちょっと失礼――」
「「塗らんでいいっ!!!」」
だがそれもつかの間、とがおしろいを袂から取り出す小次郎を電光石火の動きで制した。
方や何処から取り出したのか、短刀を小次郎の喉元に突き付け…方や小次郎の手からおしろいを難なく奪い取る。
幾ら油断をしていたとは言え、彼女らの素早さに小次郎は改めて舌を巻いた。
「――解ったよ、君達が言うんなら………今夜はこのままで居てあげる」
「うっひょー! やったね! 役得役得ぅ!」
「…ありがとう小次郎!」
こうして、三人にとって短いようで長い夜は始まった――。
――小次郎とちょっと変わった娘達は眠ったかい?
「えぇ、先程番頭が確認をして参りました」
――そうか。 じゃ、おめぇら! そろそろ宴を始めるぜぇ!!
ドス、ギィィ、ドス、ギィィ………
「………ん、何?」
うとうとと夢の中に入りかけていたは、突如響き始めた足音に目を開いた。
ここは温泉宿で、従業員はきっと次の日の下準備に深夜遅くまで働いているに違いない。
だが、足音にしては些か大き過ぎる。
は悟られないように極力気配を消しつつ浴衣の上に上着を羽織り、袂に小さな武器を忍ばせた。
刹那――
「――っ!!!!!」
「悪く思うなよ、娘」
突然太い腕に身体を拘束され、身動きが取れなくなる。
そして口を塞ぐ布には僅かな香り――薬が染み込ませてあった。
咄嗟に息を止める。
その手には先程袂に忍ばせた小さな短刀――くないが握られていた。
「………これはあの方の指示だ、大人しくすれば命は――」
ざしゅっ!
「ぐわぁっ! こ、コイツ何時の間に――」
「…私にこんな卑怯な手が通用すると思わないでね」
くないの一撃で異形の者の拘束から逃れる。
そして――
「っ! これをっ!!!」
「…ありがと、」
ぱしっ!
どすぅっ!!!
寝たふりをしていたから投げられる刀を見事に受け取り、異形の者の身体に食い込ませた。
――僅かに急所を外して。
「うぐっ………コイツら、侮れん………」
「…貴方に訊くわ、『あの方』って誰? 何故私達を襲ったの?」
「ま、前田慶次様だ…まぁ、貴様らが知ったところでもう遅いがな」
「…そう、なら貴方にももう用はないわ」
ざくっ!!!
「ぐぁぁぁぁっ!!! ………所詮、我らは捨て駒よ………お、覚えているがいい………」
斃した刹那、またしても目の前から掻き消えた異形の者の身体。
今、この場には何もなかったかのような静寂が訪れている。
と異形の者のやり取りを固唾を呑んで見守っていたは、この一件がまだ落着していないと感じた。
それは同じく隣の部屋で息を潜めていた小次郎も同様に思っているだろう。
「…前田、慶次、か………」
は先程使ったくないと刀を丁寧にしまいながら一つ呟いた。
無双OROCHIの世界で、魔王遠呂智に魅せられた一人の男。
プレイ経験のあるとしては、一時でも敵として認識していた。
それが今夜、異形の者に指示をして動いている。
彼の意図は、一体何処にあるのか――
「…どうやら敵は手始めに私を人質にしたいみたいね」
「うん、誰かしらからが強いって情報が行ったんだろうね」
「――で、どうするのさ、お二人さん」
一つの部屋に集まり、作戦会議?をする三人。
この様子では、今宵の悶着は未だ続きそうだ。
しかし三人はこのまま手ぐすね引いて見ているような性質ではない。
刹那、意を決したようにが口を開く。
「…こうなったら敵の懐に飛び込むわよ。 彼――前田慶次の意図も知りたいし」
「ど、どうやって?」
「…しっ! 誰かに聞かれては困るわ――ちょっと」
はなんとなく感じる敵の気配に警戒心を強めると、二人に手招きした。
そして、先程より更に距離が近付いた三人のひそひそ話が続く。
「…敵の目的は先ず私――それに乗っかるのよ」
「うーん、がまんまと捕まるって事? その前に君が倒しちゃいそうな気がするけど――」
「…小次郎は黙ってて」
「う…ごめん」
一際戦闘能力に長けるが主導権を握る形で話が進み、この場は一旦解散となった。
再び隣の部屋へ戻る小次郎、そして――寝床に入り、すやすやと寝息を立て始める娘二人。
そんな一時の安らぎ?を破るべく、またひとつ――
大きな足音が廊下に響き始めた。
さぁ、作戦開始だ――
続くわよ!
2に戻る際はこちらから。
飛鳥絞首刑シリーズ第3弾でっす。
今回も作者の趣味につき戦闘シーンを盛り込んでおります。
明らかに怪しい温泉宿にて事件を起こす。
いや、これは決して『湯けむり殺人事件』が好きなわけではなく(をい!
メインは寧ろ第3モデルの小次郎ネタ、ですかね(笑)。
今回はたくさんのフラグを立ててみましたw
慶次さん出演、そしてあの娘の誘拐!
今後どのような展開になるのか、私自身にも解りません!(ちょwww
最後に――
ここまで読んでくださった皆様と、ネタ提供者(情報屋)に心から厚く御礼を申し上げます。
以上、飛鳥でしたwww (’09.06.25)
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